2012 Fiscal Year Research-status Report
ナノ改質加工によるバイオ用マイクロツールの表面高機能化に関する研究
Project/Area Number |
24560152
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
片平 和俊 独立行政法人理化学研究所, 大森素形材工学研究室, 専任研究員 (70332252)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 機械加工 / 表面改質 / ダイヤモンド砥粒 / セラミックス |
Research Abstract |
ナノ精度加工と同時に所望の表面機能を付与するというナノ表面改質加工技術を用いて,耐久性,親水性,生体適合性など種々の表面機能を兼ね備える“バイオ用マイクロデバイス”を創製することを目的として研究を実行している.本年度は,医療用ツールに使用されるサージカルスチール(SUS420J2)に対し,高品位加工と同時に表面改質効果を発現させることを試みた.WA,SA,A系という3種類のアルミナ系砥粒種類の違いが加工表面の状態,親水性へ及ぼす影響について評価した.SUS420J2に対してELID(Electrolytic In-process Dressing)研削を行い加工後の表面粗さを測定したところ,すべてのシリーズにおいて平均粗さRa10nm以下の高品位な表面が得られることが確認できた.A系アルミナ砥粒でELID研削を施したAシリーズの接触角は,他のシリーズの接触角よりも小さく,水に対する親水性に優れていることがわかった.この原因を調べるため,XPSやGD-OESを用いて表面分析を行った.アルミナ砥粒を用いてELID研削を施すことにより,砥粒成分であるAl元素が基材内部に拡散され,Al 元素拡散層と液滴表面との間に強いクーロン力が作用し,親水性の表面を形成するメカニズムを明らかにした.また,A系アルミナ砥粒において,非晶質割合の多い砥粒を用いて加工した面が,最も高いAl元素検出強度および優れた親水性を示した.さらに,研削液温度を50℃に上げることにより,A系アルミナ砥粒におけるAl元素のワーク表面への拡散現象がより一層促進され,加工した面は,接触角27.8度という著しい親水性を示した.得られた成果を,砥粒加工学会誌に“サージカルスチールの濡れ性を制御するアルミナ系砥粒を用いた表面改質加工法の研究”というタイトルで論文投稿するなど,確実に成果を挙げつつ社会発信に努めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
超シャープ切れ歯を有する医療用メス&注射針のナノレベル表面品位および極微細形状加工の確立するため,素材となるSUS420J2,先進セラミックス,および加工ツールであるダイヤモンドホイールの選定手配を迅速に行ったことが本年度の目標達成のカギとなった.上記セラミックス素材に対して,数nm(ナノメートル)以下の幾何学的表面粗さが得られる加工を効率良く実現するため,平均粒径0.5µmという微細ダイヤモンド粒によって構成される加工用回転工具を採用し,その超微細ダイヤモンド粒の突き出し量(切れ味)を厳密に制御するため,5軸同時制御ナノ加工機を効率よく使用できたことも大きい.これらの物品を十分に活用することで研究を継続・加速することができたため,当初想定した以上の成果が初年度内に得られたものと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に手配したバイオ用マイクロデバイスの素材(高純度SiC,窒化ケイ素ほかセラミックス)および,ダイヤモンドホイールを十分に活用しつつ,より高精度な改質加工を可能とするため,5軸同時制御ナノ加工機上において本手法が実現できるシステムの構築を継続的に行う.マイクロ工具の先端径がミクロンオーダになると,加工プロセス中の負荷に耐えられずに破損してしまう問題がある.そのため,強度,耐久性をさらに向上させるために効率的な表面コンディショニング処理を電気化学的手法によって実現させる.電気化学的手法としては,専用槽内で電解現象を利用する手法と,新たにマイクロドロップインジェクションの原理を利用する手法の2つのアプローチを検討する.これらの手法を用いて,工具に付着する加工生成物を高精度に電解除去し,工具面の品質を常に維持する新しい電解プロセス技術の確立を目指す. また,研究の進捗により,セラミックスの高効率高精度加工の必要性も生じてきた.新たに,ナノパルスファイバーレーザーを加工スピンドルの同軸上にオンマシンで設置し,レーザーによる高効率加工とダイヤモンドツールによる高品位加工というハイブリッド加工システムの構築を行う. 一方,前年度までのプロセスで創製したマイクロ加工によるワーク素材の表面機能改善効果を検証するため,使用環境をシミュレートした評価試験を実験補助および関連企業研究者の知見を得ながら実施する.ここでは,極表面の機械的特性評価のためのナノスクラッチ(引掻き)試験やナノインデント(押込み)機構を援用した抗折強度試験,トライボロジー試験などを実施し,実験的検証により適正な改質加工条件の確立を目指す.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を実行するために必要な物品のうち,最も重要となるバイオ用マイクロデバイスの素材(高純度SiC,窒化ケイ素など)および,本手法を実現するためのダイヤモンドホイールも,より高品質なグレードを追加手配する必要性があると考えている.また,ツール表面に付着する加工生成物の除去方法として,新たにマイクロドロップインジェクションの原理に基づく手法を検討しており,そのためのシリンジやノズルを手配する必要がある. なお,次年度使用額が発生した状況としては,新たに導入するナノパルスファイバーレーザーを加工機上に設置するための費用として,本年度後半に前倒し請求を行ったが,レーザー本体の導入時期およびレーザーヘッド保持治具の設計変更もあり,本年度と次年度の2段階に分けて慎重に組み上げるべく,次年度で使用できるよう計画を見直した. 全体として,前年度までに構築した研究機器や加工システムを十分に活用することで,次年度も研究を継続・加速させ,当初想定した以上の成果を補助事業期間内に達成することを目指す.
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