2012 Fiscal Year Research-status Report
生命が持つリズミカルな現象を構造物の振動制御に生かす
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24560260
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
射場 大輔 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (10402984)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 機械力学・制御 / 免震 / 制震 / 制御工学 / 耐震 |
Research Abstract |
本研究では,身体のサイクリックな運動である歩行運動に密接に関連したニューロンで構成される神経振動子をアクティブ動吸振器の制御方法に取り入れることで,決められた関節の可動角度範囲内で身体や複雑な路面状況の変化に適切に対応する生物の歩行を模擬して動吸振器の可動範囲を考慮でき,かつ,構造物のパラメータ変化に対してロバストな新しいアクティブ振動制御法を提案し,その基礎的な検証を理論及び数値解析と実験を通して行うことを目的としているが,これまでの研究で次の成果を得た. 伸筋と屈筋の駆動をモデル化した非線形連立微分方程式による松岡神経振動子を利用して振動制御システムを構成したが,制御対象となる構造物と制御系が適切に同期しているか否かの評価は行っていなかった.提案するシステムを実現するためにはこうした引き込み,すなわち同期現象を解析することで,設定したパラメータの有効性を評価する必要がある.そこで,地盤から正弦波入力を受ける1自由度構造物と神経振動子間に発生する強制引き込みについて詳しく調べた.蔵本らは非線形振動子間の同期を,いくつかの仮定することで導出した位相縮約理論を利用して解析する方法を提案しており,非常に強力な同期のための解析ツールとなっている.この手法を利用し動吸振器の制御システムに利用する神経振動子に対して位相を導出し,その位相にインパルス刺激を与えてその過渡的な応答特性から位相感受関数を導出した.それによって振動子の同期可能な振動数領域を明らかにした.また,神経振動子を制振システムに組み込んだ場合,その外部入力に対する同期領域が明らかとなるだけでは不十分である.実際に同期が起こっている際に,入力と振動子の出力がどのような位相関係で同期をしているのか把握することが制振問題に特に重要となるため,これらの関係を数値計算によって求めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神経振動子を利用するアクティブ動吸振器の制御系の完成には,構造物とそれに同期して動作する動吸振器の両者からなる拡張されたシステム全体が振動エネルギを消散することができるのか,それとも加振してしまうことになるのか,という安定性の問題を解決する必要がある.構造物の応答は固有振動数成分が卓越することから,その振動数成分の一周期において構造物の振動エネルギが消散されるように動吸振器の補助質量を駆動させる必要がる. 本研究ではそのため,構造物の応答に対して神経振動子を同期させ,その出力から補助質量を移動させるためのタイミングを図り,その後は位置制御にて補助質量を制御する方法を提案している.そのため,位置制御を開始するためのタイミングを生成する箇所,すなわち神経振動子の同期特性が制御システム全体の安定性に深く係っていると言える.そこで,この神経振動子と構造物を取り出して,その特性を評価する方法について提案を行った.このシステムの核となる関係に対して,同期特性として同期可能な周波数領域と,同期が発生している段階での入出力間の位相差を明らかにすることができた.神経振動子と構造物という一番に構成されたシステムであるが,今後はこの手法を拡張すれば,神経振動子と位置制御器からなる動吸振器システムと構造物との同期特性も調べることができる.また,リミットサイクルが円となるスチュアートランダウ振動子を利用したフィルタの提案を行い,構造物のセミアクティブ制御に利用することで,構造物の制振に適した非線形振動子についての考察を行った.その結果,入力の非定常性が強くなければスチュアートランダウ振動子で十分な同期特性が得られるが,応答に非定常性が強く現れる場合は神経振動子の有する位相感受特性を利用して同期を試みる方法が有効であるという知見を得た.これらの結果より十分な進展が得られたと自己評価している.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度以降の研究推進方策として,1.動吸振器の位置制御法の改善と実験的評価,2.構造物と制御系及び外部環境間における大域的相互引き込みの評価,3.多自由度構造物への適用,4.複数のシステムによる協調制振,等が挙げられる. 動吸振器の位置制御にはPD制御を利用してきたが,目標値まで到達する際にその加速度は考慮していなかったため,加速度応答性能が悪化していた.そこで,位置の目標値を与えるだけでなく,駆動中の加速度を考慮した動吸振器の位置制御を行う.現在開発中の動吸振器制御システムを利用し,その動作特性の把握及び性能評価を実験的に行う. また,外部入力に対する強制引き込みの現象を解析する手法を発展させて構造物及び動吸振器と制御器間に発生する相互引き込み,また,外力などの周辺環境との相互作用に対して同期が創成できる周波数領域を解析する.この解析には,構造物のパラメータ変動や動吸振器のストローク制限などの制約を含めた条件で行い,性能が満たされさらに必要な機能が発現するかをシステム全体及びその周辺環境まで含めた大域的な同期に関する評価を数値計算によって実施する. さらに実用化に向けての基礎的な検討として,1自由度構造物に対して設計した制振システムを拡張し,多自由度構造物の制振を試みる.神経振動子のフィルタとしての機能を利用し,振動をモード毎に展開し,提案した手法の適用を試みる.さらに発展的な課題として動吸振器システムを複数台利用し,それらの協調動作を実現することで制振性能の改善を目指す.このときも,相互のシステムにおいて情報のやり取りを行わず,独立した系がそれぞれの相互作用によって自動的に同期を起こし,制振を行う制御システムの構築を目指す.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費の使用計画は主として次の2点に分けることができる.第1に,動吸振器の位置制御法の改善と実験的評価を行うため,現有の実験装置の改良が挙げられる.提案したシステムにおいて動吸振器の補助質量の駆動にはPD制御器を利用していたが,神経振動子から送られてくる質量の駆動方向のタイミングに合わせて適切な移動量を決定するだけでは十分な制振効果が得られない.駆動の際に発生する加速度から構造物に与える制振力が決まるため,その目標値までの移動を適切にスケジューリングする必要がある.この制御系を構成し,その効果を評価するため,現有の実験装置に加速度センサと位置センサを追加する予定である.また,将来的に複数の制振システムを相互同期させてくどうする計画であるため,現在,パソコンによって制御しているシステムを,マイクロコントローラにより制御できるように改良を行っておく予定である.第2には,得られた研究成果を国内で開催される会議及び海外で開催される国際会議に参加して発表する,また関連分野の最新研究状況について調査するための旅費となっている.
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