2012 Fiscal Year Research-status Report
高速繰り返し短パルス電圧による高反応性大気圧非平衡プラズマの生成
Project/Area Number |
24560359
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
Principal Investigator |
中野 俊樹 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 電気情報学群, 教授 (10531791)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北嶋 武 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 電気情報学群, 准教授 (50424198)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 大気圧非平衡プラズマ / 短パルス電圧 / 高反応性 / 触媒作用 / 表面処理 |
Research Abstract |
本研究の目的は、高速繰り返し短パルス電圧と触媒作用を有する電極に用いることによって高い化学反応性を有する大気圧非平衡(低温)放電プラズマを生成・応用することにある。平成24年度はその実現に必要なパルス電源回路とプラズマ生成法の確立を目指して研究した。 (1)パルス電源の構築 試行錯誤の結果、同軸線路の外部導体側を高電位に充電する方法によって繰り返し周波数0.1~0.2 MHzで短パルス方形波電圧を発生させる目途をつけた。 (2)低ガス温度プラズマの可能な条件の解明 ヘリウム/窒素混合ガス中で1 μs方形波電圧パルスを用いて大気圧非平衡プラズマを生成し、電極間電圧・電流波形および窒素分子の時間分解発光スペクトルから、放電遅れ時間分布、電子衝突励起速度、ガス温度および投入電力の関係を調べた。その結果、絶縁破壊確率が急増する時間帯で低ガス温度で活性種が効率的に生成されており、絶縁破壊後は投入電力がガス加熱に消費されて活性種の生成に有効に利用されていないことを明らかにした。 (3)挟ギャップ電極系によるプラズマ生成 触媒作用を有効に利用するために挟ギャップ電極系によるプラズマ生成を検討した。ITO蒸着ガラス基板を用いてギャップ長30~100 μmの平板電極系を構築してプラズマを生成し、電極間電圧・電流の測定およびプラズマの生成状況を観測した。その結果、プラズマは電極間隔が狭いために方形波電圧パルス(パルス幅1 μs)の立ち上がりで生じており、活性種の効率的な生成には100 ns以下の方形波電圧パルスを使用するべきであることを見い出した。また、プラズマは電極面に局所的に生成し、生成面積の拡大には分割電極の利用が必要となることがわかった。 以上の成果は本研究の目的達成のため必要な要件を解決・解明するものであり、平成25年度以降の研究を順調に進めるための基礎を築いた点で意義がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までに本研究で必要な要件、すなわち、高速繰り返し可能なパルス電源と活性種の効率的な生成のための大気圧非平衡プラズマ生成法の確立には目処がついている状況である。しかし、当初の見込以上にパルス電源のスイッチング回路の実現に時間を要したため、研究計画では触媒作用を有する電極でプラズマ生成を行う予定であったが、この実験に関してはまだ成果が出ていない。これは、現有するパルス電源の高速繰り返し化を図る際に市販の半導体スイッチを使うよりもスイッチング回路を自作する方が有利と判断したためである。以上の状況から、現在までの達成度は「やや遅れている」と自己評価した。 研究実績の概要に記したように、活性種の効率的な生成に望ましいプラズマ発生や印加電圧パルスの条件については既に成果が出ている。触媒作用を有する電極によるプラズマ生成と触媒作用の効果を確認する実験は、白金など触媒作用を有する材料に電極を変更するのみで遂行できる。当初の研究計画では、研究目標の達成に必要な要件を一つずつ積み挙げていく「ステップアップ方式」で研究を進めることを想定していたが、平成25年度では現在までの達成度を考慮して、触媒作用を最大限に発現するために必要なプラズマの生成と触媒作用を有する電極によって生成されたプラズマによる高分子の表面処理を同時に進行する「オールアップ方式」に研究計画を変更する。この変更によって達成度の遅れは十分に取り戻せると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
大気圧非平衡プラズマ生成装置を新たに高分子材料の表面処理用に構築することによって、触媒作用を有する電極によって生成されたプラズマの診断とプラズマによる高分子材料の表面処理を同時に遂行し、研究進展のスピードアップを図る。触媒作用による活性種の効率的な生成の効果は発光分光法によって確認する。当初はレーザ誘起蛍光法によってプラズマを詳細に診断することを予定していたが、測定のセットアップに時間を要するため、測定の容易な発光分光法でプラズマを診断する。触媒電極の表面分析は当初の計画通りにX線光電子分光法(XPS)や原子間力顕微鏡(AFM)によって行う。 高分子材料の表面処理は、当初の計画通り、窒化処理に重点を置いて実験するが、窒化処理と並行して酸化処理に関しても実験を行う。これは、窒素分子が強固な三重結合により非平衡プラズマ中で解離しにくいために、触媒電極を用いても高窒素原子密度のプラズマ流を作り出せず、高分子材料の表面窒化がうまくいかない場合をも考慮したことによる。酸化処理は主に低気圧プラズマでは報告例があり、窒化処理より容易であると考えられる。また、酸素分子は解離しやすく、触媒電極の効果をより顕著に確認できると考えている。 表面窒化・酸化の対象として、低密度ポリエチレンおよびポリエチレンテレフタレートフィルムを選び、これらの表面に触媒作用を有した電極で生成された大気圧非平衡放電プラズマを高速繰り返しで発生して照射する。プラズマおよび処理条件を系統的に変化させて表面処理を行う。大気圧非平衡プラズマ照射による表面処理の評価は主にXPSやAFMによって行う。表面に導入された窒素・酸素に関連した極性基の量や表面形状と放電条件・活性種量との関係を調べることによって、表面処理に有効な反応過程やプラズマ照射による高分子材料表面の損傷について検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は以下の事由から研究計画通りに研究費を使用できなかった。 (1)触媒作用を有する電極を用いたプラズマ生成や触媒電極表面の分析を行う時間的余裕がなかったために白金などの触媒作用を有する貴金属やプラズマ生成用高圧ガスの一部の購入を見送った。 (2)パルス電源の構築やプラズマ生成法の確立に当初の予想以上に時間を割いたため、研究成果を公表するための学会出席(海外)や論文投稿を控えることになり、旅費・掲載料等の経費が計画より下回った。 上記の事由により生じた次年度使用額の内(1)の分は、今後の推進方策で記載したように、平成24年度に実施できなかった実験を平成25年度前半に当初計画していた実験と合わせて同時に遂行するために使用する。また、計画修正に伴い、高分子材料の表面処理用のプラズマ生成装置を新たに構築する必要がある。(2)の事由で生じた次年度使用額はプラズマ生成装置の構築に要する真空・配管部品の購入に使用する。したがって、次年度使用額は本研究の遂行に有効かつ適切に使用されると考えている。
|