2013 Fiscal Year Research-status Report
高速繰り返し短パルス電圧による高反応性大気圧非平衡プラズマの生成
Project/Area Number |
24560359
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Research Institution | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
Principal Investigator |
中野 俊樹 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, その他部局等, 教授 (10531791)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北嶋 武 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, その他部局等, 准教授 (50424198)
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Keywords | 大気圧非平衡プラズマ / 短パルス電圧 / 高反応性 / 触媒作用 / 表面処理 |
Research Abstract |
本研究の目的は、高速繰り返し短パルス電圧と触媒作用を有する電極に用いることによって高い化学反応性を有する大気圧非平衡(低温)放電プラズマを生成・応用することにある。平成25年度は前年度の成果を基に高分子材料の表面処理プロセスの確立に必要な知見の獲得を目指して研究した。 (1)高速繰り返し短パルス電圧によるプラズマ生成 短パルス電圧によるプラズマ生成では表面処理に必要な化学反応性の強い活性種を短期間しか生成できないため、高速繰り返し短パルス電圧でプラズマを生成しなければならない。しかし、高速繰り返しではパルス電圧印加の間隔が短かくなり、表面処理に適したプラズマ特性が損われる恐れがある。短パルス電圧の繰り返し周波数を変えて生成したプラズマの計測から、高速繰り返し短パルス電圧のプラズマ生成では繰り返し周波数の増加とともにより短いパルス電圧を使う必要があることを見い出した。 (2)金属による挟ギャップ電極系の構築 挟ギャップ電極系によって長時間安定に、かつ、均一にプラズマを生成することを目指して金属材料による電極系を構築した。試行錯誤の結果、ステンレスパイプと平板金属の組み合わせによる狭ギャップ電極で表面処理に適用可能なプラズマの生成に成功した。また、このプラズマを使ってポリエチレンテレフタレート(PET)の表面処理およびその表面分析を開始した。 以上の成果は本研究の目的達成のために必須の要件であり、平成26年度の研究を順調に進める上で意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度、25年度の研究によって、本研究の目的の達成の要件である(1)高速繰り返し可能なパルス電源および(2)表面処理に適用可能な狭ギャップ電極系の構築について技術的な課題を解決した状況にある。しかし、平成25年度に関しては当初の見込以上に金属材料による狭ギャップ電極系の設計・構築に時間を要したため、研究計画では触媒作用を有する電極で高分子材料の表面処理を行って表面処理プロセスの構築に必要十分な知見を得る予定であったが、この点に関してはまだ十分に成果が出ていない。これは、安定性や均一性の十分でない狭ギャップ電極系を用いて安易に表面処理を行うよりも、高速繰り返し短パルス電圧によって長時間に渡って安定で均一なプラズマを生成する技術の確立を優先した方が本研究の目的の達成により速く近づけると判断したためである。以上の状況から、現在までの達成度は「やや遅れている」と自己評価した。 研究実績の概要に記したように、活性種の効率的な生成に望ましいプラズマ生成法に関しては装置技術も含めてほとんど確立しており、鉄・白金など触媒作用を有する材料に電極を変更するのみで、プラズマが存在する場での触媒作用の発現に関する研究に専念できる状況にある。研究の進展状況から、研究目標の達成に必要な要件を一つずつ積み挙げていく「ステップアップ方式」ではなく、触媒作用を有する電極によって生成したプラズマによる高分子の表面処理とそのプロセスの最適化を同時に進行する「オールアップ方式」で研究を進めていくことによって、計画最終年度での本研究の目的の達成は十分に可能と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
大気圧非平衡プラズマ生成の診断用の装置を高分子材料の表面処理用に転用し、計2台の装置でプラズマによる高分子材料の表面処理を行うことによって、表面処理の高速化を図ると同時に表面処理プロセスの最適化を行う。この変更によって研究目的の達成のスピードアップを図る。触媒電極による活性種の効率的な生成の効果については、表面処理の結果を参考にしながら、測定の容易な発光分光法によって必要最小限のプラズマ計測を行って明らかにしていく。触媒電極の損傷や劣化の評価はX線光電子分光法(XPS)や原子間力顕微鏡(AFM)によって行う。 高分子材料の表面処理は、当初の計画通り、窒化処理に重点を置いて実験するが、窒化処理と並行して酸化処理の実験も行う。これは、触媒電極を用いても高窒素原子密度のプラズマ流を作り出せず、高分子材料の表面窒化ができない場合も想定しているためである。他研究グループの報告から推測して、ポリエチレンテレフタレート(PET)は低密度ポリエチレン(LDPE)より窒化しやすい構造を有すると考えられる。そこで、表面窒化のプロセスについてはPETフィルムを優先して検討する。触媒作用を有した電極、具体的には窒化の場合は鉄、酸化の場合はプラチナを用いて大気圧非平衡放電プラズマを高繰り返し周波数で発生することによって高分子表面にプラズマ流を照射する。パルス電圧・幅、ガス組成・流量および触媒電極の表面粗さなどを系統的に変化させて処理条件の最適化を試みる。同時に、コンピュータによる電場分布やガス流速分布の計算結果に基づいてプラズマ生成装置の最適化も進める。 大気圧非平衡プラズマによる表面処理の評価はXPSやAFMによって行う。これらの結果から表面の極性基の量や形状が放電条件にどのように依存しているかについて検討し、大気圧非平衡プラズマによる高分子の表面反応や形状変化の機構を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は以下の理由から研究計画通りに研究費を使用できなかった。 (1)触媒作用を有する電極を用いたプラズマ生成や触媒電極表面の分析を行う時間を十分に取れなかったために白金などの触媒作用を有する貴金属、プラズマ生成用高圧ガスおよび高分子材料の一部の購入を見送った。(2)金属材料による狭ギャップ電極系の設計・構築に当初の予想以上に時間を割いたため、研究成果を公表するための学会出席(海外)や論文投稿を控えることになり、旅費・掲載料等の経費が計画より下回った。 上記の事由により生じた次年度使用額の内(1)の事由の分は、今後の推進方策で記載したように、平成25年度に実施できなかった実験を平成26年度前半に当初計画していた実験と合わせて同時に遂行するために使用する。また、この計画修正の結果、計測用のプラズマ生成装置を高分子材料の表面処理用の装置に転用するために、装置を改造する必要がある。(2)の事由で生じた次年度使用額は計測用のプラズマ生成装置の改造に要する真空・配管部品の購入に使用する。また、平成26年度で計画しているコンピュータによる電場やガス流速分布の計算で必要となるプログラミングの時間の短縮化を図るため、有限要素法を用いた市販のソフトウェアを購入する予定であり、その費用の一部にも使用する。
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