2014 Fiscal Year Research-status Report
高速繰り返し短パルス電圧による高反応性大気圧非平衡プラズマの生成
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24560359
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Research Institution | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
Principal Investigator |
中野 俊樹 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, その他部局等, 教授 (10531791)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北嶋 武 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, その他部局等, 准教授 (50424198)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 大気圧非平衡プラズマ / 短パルス電圧 / 高反応性 / 触媒作用 / 表面処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、高速繰り返し短パルス電圧と触媒作用を有する電極に用いることによって高い化学反応性を有する大気圧非平衡(低温)放電プラズマを生成・応用することにある。平成26年度は前年度の成果を基に高分子材料の表面処理プロセスの確立およびその最適化を目指して研究した。 (1)高速繰り返し短パルス電圧によるプラズマ生成の最適化 短パルス電圧の高速繰り返しによるプラズマ生成ではできるだけ短いパルス幅の方形波を電極系に加えなければならない。しかし、昨年度までは、短パルス電圧を電源部から電極部へ伝送中にパルス波形の立ち上がりが緩やかになり、電極系に加えることのできる方形波の最小パルス幅が数百nsに限定されていた。短パルス電圧波形の伝送線路中の変化を把握することによって、パルス電圧の立ち上がりが緩やかにする要因が主に電流測定系にあることを明らかにし、昨年度より短かいパルス幅(50 ns)でプラズマを生成することが可能となった。 (2)表面処理プロセスに対する挟ギャップ電極系の最適化 ステンレスパイプと平板金属の組み合わせによる狭ギャップ電極によってプラズマを生成し、ポリエチレンテレフタレート(PET)の表面処理を行い、X線光電子分光法(XPS)によるPETの表面分析結果から、上記のプラズマを表面処理に適用可能なことを確認した。さらに、挟ギャップ電極系を表面処理プロセスに最適化するために、触媒作用を有する金属メッシュを利用した電極系を構築し、長時間安定に、かつ、狭ギャップ間に均一にプラズマを生成することに成功した。 以上の成果は本研究の目的達成のために必須の要件であり、平成27年度の研究を順調に進める上で意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24~26年度の研究によって、本研究の目的の達成に必要となる“高速繰り返し短パルス方形波電圧と狭ギャップ電極系による安定かつ均一なプラズマの生成”については技術を確立し、この技術によって生成したプラズマを高分子表面処理へ適用することに目処を付けた状況にある。しかし、平成26年度は、表面処理の評価に必要なXPS(全学共同利用器材)が故障し、高分子の表面処理の評価を十分に行うことができなかった。研究計画では触媒作用を有する電極で高分子材料の表面処理を行い、表面処理プロセスの最適化まで研究する予定であったが、この点に関してはまだ成果が出ていない。このような状況にあったため、狭ギャップ電極系を改良して、表面処理プロセスに対するプラズマ生成部の最適化をさらに進めて検討した。これは、PETを限られた条件で表面処理し、それらの試料の表面分析に外注に出して研究を進めるよりも、狭ギャップ電極系に改良を加えることによって、触媒作用をより強く引き出して表面処理を行えるようにプラズマを表面処理プロセスに対して最適化する方が本研究の目的の達成により速く近づけると判断したためである。 以上の状況 から、現在までの達成度は「やや遅れている」と自己評価した。研究実績の概要に記したように、XPSが修理されれば、表面処理の評価に専念できる状況にあり、プラズマが存在する場での触媒作用の発現に関する研究を完了できると確信している。研究の進展状況から、研究目標の達成に必要な要件を一つずつ積み挙げていく「ステップアップ方式」ではなく、触媒作用を有する電極によって生成したプラズマによる高分子の表面処理とそのプロセスの最適化を同時に進行する「オールアップ方式」 で研究を進めていくことによって、当初の計画の最終年度での本研究の目的の達成は可能と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
高分子材料の表面処理は2台の装置で行うことによって表面処理プロセスの最適化を図り、研究目的の達成を目指す。触媒電極による活性種の効率的な生成の効果については、表面処理の結果を参考にしながら、測定の容易な発光分光法によって必要最小限のプラズマ計測を行って明らかにしていく。 高分子材料の表面処理は、実験成果がより短期間で得られると見込まれる酸化処理を窒化処理にやや優先して行う。これは、触媒電極を用いても高窒素原子密度のプラズマ流を作り出せず、高分子材料の表面窒化ができない場合も想定しているためである 。他研究グループの報告から推測して、ポリエチレンテレフタレート(PET)は低密度ポリエチレン(LDPE)より窒化しやすい構造を有すると考えられる。そこで、表面窒化のプロセスについてはPETフィルムを優先して実験する。触媒作用を有した電極、具体的には窒化の場合は鉄、酸化の場合はプラチナを用いて大気圧非平衡放電プラズマを高繰り返し周波数で発生することによって高分子表面にプラズマ流を照射する。プラズマ照射によるPET表面への化学的・物理的影響はXPSや原子間力顕微鏡(AFM)によって評価し、パルス電圧・幅、ガス組成・流量および触媒電極の種類を系統的に変化させて表面処理プロセスの最適化を試みる。また、触媒電極の損傷や劣化等の評価をXPSやAFMによって行い、それらの結果も勘案しつつ表面処理条件の最適化を進める。表面処理実験と並行して、コンピュータによる電場分布やガス流速分布の計算を行い、その結果に基づいて表面処理プロセスに対するプラズマ生成装置の最適化の度合いを確認し、その向上を狙う。表面処理プロセスの最適化を通して表面の極性基の量や形状が放電条件にどのように依存しているかについて検討し、大気圧非平衡プラズマによる高分子の表面反応や形状変化の機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
平成26年度に大気圧非平衡プラズマによる高分子の表面処理条件の最適化をX線光電子分光法(XPS)による分析結果を基にして重点的に進める予定であったが、分析に使用するXPS(学内共同利用器材)が長期間故障し使用できなかった 。このような状況から、高分子の表面処理条件の最適化を中断し、代わりに大気圧非平衡プラズマの化学反応性を向上するためのプラズマ生成法の研究を行ったため、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
XPSは平成26年度末に修理され、現在は利用可能な状況である。そこで、未使用額を大気圧非平衡プラズマによる高分子の表面処理条件の最適化の実験の一部(試料準備用理化学用品など)に使用する。また、表面処理に関する研究成果を公表するための論文掲載費および国内学会などで発表するための学会参加費ならびに旅費に充てる。
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