2012 Fiscal Year Research-status Report
タリウム系化合物が示す局所的な巨大光誘起変形現象の起源解明とその応用
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24560381
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
沈 用球 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20336803)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 多元化合物半導体 / タリウム化合物 / 光熱変換 / 光応用 |
Research Abstract |
三元タリウム化合物にて発見された「巨大光誘起変形現象」の起源を解明し,光駆動アクチュエーターなどへの応用を目的とし研究を行った。 期間内で明らかにする最初の課題は,レーザー光照射部の変形(膨張)量とその形状を定量的に計測し,その特性を明らかにすることであり,平成24年度は,これを重点的に行った。膨張量計測には,共焦点レーザー距離測定器を導入し,レーザー光(連続光)照射時の変形の様子を計測した。その結果,鎖状のタリウム化合物であるTlInSe2,TlGaTe2,TlSeついて,光照射時の表面形状変化を定量的に評価することが出来た。いずれの材料においても,照射光強度の増大にともない光照射部に隆起が生じ,90mW/mm2程度レーザー光照射により,膨張率で0.001という非常に大きな隆起が局所的に生じていることを明らかにすることが出来た。これは,1mmの厚さの試料で,マイクロメーターサイズの隆起に相当する。 本現象の起源と要因を明らかにする目的で,基礎物性の評価も行った。3元タリウム化合物について,その基礎物性値である誘電率スペクトルおよびその温度特性を明らかにした。得られた情報は,バンド構造の温度特性や変形ポテンシャルといった本現象の起源解明のために必要となる基礎的な情報となる。 光誘起変形用の照射光として,パルスレーザー光源を用いることで,本現象の過渡的な応答の計測も行った。その結果,パルス光照射中(400μsec)は膨張が増大しており,光照射終了後は比較的長い時間(100msec)をかけて変形が緩和していることがわかった。この結果とシミュレーション計算結果との比較から,本現象は光熱変換による熱膨張の影響が主であると推測できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究目標としてあげていた光誘起変形の定量的評価について,研究を実施し,鎖状タリウム化合物に関して,光照射時の変形量,形状およびその照射光強度依存性を明らかにしたことから,その目標を達成したと言える。 また,平成25年度に実施目標としていた基礎物性評価やシミュレーション計算について,当初予定より早い段階で研究を開始することができた。また,同じく,平成25年度に予定していた,光誘起変形の過渡的応答測定に関する実験も,予備実験を開始しており,順調に計画が遂行されている。 一方,光照射中の結晶構造の解析は,当初,平成24年度の実施を予定していたが,結果が得られておらず,次年度以降の課題として残っている。 このように,当初予定していた研究課題の実施順序の前後はあったが,全般的には研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,基礎物性面では,研究対象としている光誘起変形現象の要因解明に向けて,X線解析だけでなくラマン散乱測定も取り入れ,変形中の結晶構造の変化を明らかにする。また,熱物性値に着目し,実験に用いている三元タリウム化合物の熱膨張係数,熱伝導度,比熱などの実測を行い,有限要素法によるシミュレーション結果や,フォノン計算による熱物性値予測との比較を行うことで,本現象の鍵となる物性を明らかにする。 一方で,本現象を利用した応用に向けた研究も遂行する。光駆動アクチュエーターとしての可能性を示すため,実際に,本現象を利用して微小物体の駆動を試みる。また,光学定数の過渡的応答計測を行い,光により制御可能な音響光学デバイスへの可能性を探る。 これらの結果から,最終目標である,新しい光駆動機構用材料としての性能実証を目指し,研究を遂行していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は,光誘起変形用の強パワーレーザー光源の購入を予定していたが,既存のレーザー設備の出力で研究を遂行できたので,繰越金が発生した。平成25年度は波長の異なるレーザー光源を導入することで,光誘起変形の照射光波長依存性測定を予定している。また,光学定数の過渡的応答計測用の光学部品の購入および成果発表用の旅費,論文投稿費に助成金を充てる。
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Research Products
(7 results)