2013 Fiscal Year Research-status Report
機能的半導体ヘテロ構造を持つ共鳴トンネルダイオードによるテラヘルツ発振器高性能化
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24560398
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
鈴木 左文 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (40550471)
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Keywords | テラヘルツ発振器 / 共鳴トンネルダイオード |
Research Abstract |
25年度では、共鳴トンネルダイオード(RTD)により、高速無線通信などのテラヘルツ(THz)アプリケーションに幅広く、そして簡便に用いることのできるTHz発振器の実現を目指し、素子の高周波化・高出力化を行った。 現在、RTDのトンネル領域滞在時間と空乏層を走行する時間で形成される遅延により、デバイスの応答が高周波で悪化し発振周波数が低下するため遅延減少が必要となっている。24年度までに、In組成の高いInGaAsを用い井戸層を薄膜化し滞在時間の短縮を行い、1.3THzの発振を得ている。25年度は走行時間を減らすため、空乏層の長さを決めているコレクタアンドープスペーサ層厚を最適化し高周波化を行った。コレクタ側スペーサ厚を削減すると走行する距離が短くなるため走行時間は短縮するが、空乏層厚は薄くなり容量は大きくなるため、スペーサ厚には最適値が存在する。6, 12, 25 nmと3種類スペーサ厚を振り最適化を行ったところ、12 nmのときに1.42 THzの発振が得られた。用いたアンテナは20μmである。 さらに詳細な電磁界シミュレーションから、短いアンテナを用いればインダクタンス成分が小さくなり高周波化できることがわかったため、次に、アンテナ長を9、12、16μmに短縮した素子を作製した。アンテナ長を縮小すると損失も増加するため、実際にはアンテナ長に最適値が存在する。発振実験をおこなったところ、アンテナ長16μmのとき1.55THzの発振が得られた。これは現時点において室温単体電子デバイスにおける最高基本波発振周波数である。更なる狭井戸化を行い、まだまだ遅延の多くを占める滞在時間を減らすことによって、2THzを超える発振が得られることも見積もっている。また、オフセット給電スロットアンテナを用いることによって500GHz付近では1mW以上、1THz付近では300μW程度の出力が得られることも見積もられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度の遅延時間短縮およびアンテナ長最適化の研究により、発振周波数は1.55THzまで順調に上昇している。今年度出力の上昇はほとんど無かったが、この素子を用い構造を最適化したアンテナを用いれば、数10Gbpsの大容量通信を行うに十分な500GHz帯で1mWの大きな出力が期待できることを詳細なシミュレーションにより見積もっている。本シミュレーションが実験を良く再現する事は過去の研究よりわかっており、素子の作製により高出力は達成可能と思われる。さらに当初目標に掲げた2THzの発振は狭井戸化とアンテナ長最適化で可能であることも同様のシミュレーションから見積もられており、研究期間内に十分目標の達成は可能と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
理論計算から数10Gbpsの通信を行うのに必要な500GHz帯で1mWの出力は、1.55THzの得られた層構造のRTDを用い大面積化し、さらにオフセット給電スロットアンテナを用いることによって達成可能である。そのため、26年度はスロットアンテナにおけるRTDのオフセット位置をパラメータとして設定し、オフセットの異なる素子を作製することによって最適化する。 これらに加え、2THzを超える発振をめざし井戸層の薄層化をさらに進める。24年度に井戸の薄層化によって滞在時間を削減することに成功しているが、25年度の空乏層の最適化によって走行時間が短縮されたため、また再び滞在時間がRTDの全遅延時間に占める割合が大きくなってきている。そのため、井戸の薄層化による滞在時間の減少が必要だが、それに伴う動作電圧の上昇が問題となる。現在、井戸の材料にはIn組成が90%と大きいInGaAsを採用し低電圧化を図っているが、さらに組成を上げると結晶の品質が著しく劣化し、微分負性抵抗特性が現れなくなるため、エミッタにワイドバンドギャップのInAlGaAsを導入するステップエミッタ構造のAl組成を最適化し電圧の上昇を抑える。これらによって井戸を現状の3nmから2nmまで動作電圧を上昇させることなく薄膜化し滞在時間を現状の40fsから20fs程度まで削減することが出来る。これによって発振周波数2THz以上を達成する。
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