2013 Fiscal Year Research-status Report
理論解析結果に基づく適応制御を用いたエルミート対称符号化OFDM方式
Project/Area Number |
24560448
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
笹森 文仁 信州大学, 工学部, 准教授 (70298090)
|
Keywords | OFDM / エルミート対称符号化 / ダイバーシチ / ビット誤り率 / スループット / 理論解析 / 閉じた形の計算式 / 適応制御 |
Research Abstract |
従来の繰り返し符号化OFDM方式(RC-OFDM方式)では,伝送品質を向上させる目的で同一のディジタル変調信号(PSKまたはQAM)を2つの離れたサブキャリアで送信し,チャネル利用効率を向上させる目的で変調方式を多値化していたが,多値化による電力利用効率の劣化が懸念材料となっていた.一方,提案方式であるエルミート対称符号化OFDM方式(HC-OFDM方式)では,エルミート対称性を考慮して2つのサブキャリアに同一の変調信号を配置し,生成されるOFDM信号が実数成分のみとなる離散フーリエ変換の性質を利用した符号化を採用しているため,無線チャネルの同相成分と直交成分とで別々のデータ系列を送信できる.すなわち,繰り返し符号化による伝送レートの低下を補償するための多値化が不要となり,電力利用効率を劣化させることなくチャネル利用効率を理論上2倍に増加できるのが特徴である. H24年度は,同相・直交チャネルの分離が理想的に行えるものと仮定して伝送特性を理論的に解析していたが,H25年度は,両チャネルを分離して復調する方法を確立した.チャネル情報が既知である状態を仮定した計算機シミュレーション結果が理論値通りの伝送特性を示していることから,両チャネルの信号を完全に分離できることを確認した.実際は,チャネル情報の推定誤差が原因で互いのチャネルへ漏れ込み干渉が発生し,伝送特性が劣化するが,提案方式ではディジタル変調の多値化を回避できることから,漏れ込み干渉が軽減され,従来方式よりも特性劣化が少ないことを確認した. 次に,受信信号電力が著しく低下した場合を想定し,ディジタル変調信号の繰り返し送信数を4まで拡張したときの伝送特性を理論的に解析して閉じた形の計算式を導出した.また,符号化方向(ダイバーシチ方向)を周波数軸方向だけでなく時間軸方向へも拡張し,更なる特性改善効果を理論的に確認した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HC-OFDM方式における伝送特性は,無線チャネルの状態を決定するパラメータ(搬送波電力対雑音電力比(CNR),移動に伴うドップラー周波数変動,マルチパスの遅延広がりなど)と,送受信機の設定パラメータ(変調方式,同一ディジタル変調信号の繰り返し送信数,サブキャリア数,ガードインターバル長,パケット長など)によって変化する.それらの値を代入するだけで伝送特性が計算できる「閉じた形の計算式」を導出したことによって,最終目標である「無線チャネルの状態に応じて常に最良の伝送特性が得られるような,理論解析結果に基づいた送受信機の適応制御方法」を実現するために必要な準備が着実に整っているといえる. H25年度は,従来方式であるRC-OFDM方式を検討対象とし,同一ディジタル変調信号の繰り返し送信数と変調多値数を適応的かつ理論的に制御する方法を確立できたので,「研究実績の概要」で述べた同相・直交チャネルの分離技術を実装したHC-OFDM方式への応用は十分可能である.また,受信信号電力が著しく低下した場合を想定した検討として,繰り返し符号化方法の拡張(繰り返し送信数および符号化方向の拡張)による特性改善効果が理論的に解明できたので,適応制御における選択幅が広がった点は意義深い. 実用化という観点では,HC-OFDM方式を光通信に応用したasymmetrically clipped optical OFDM(ACO-OFDM)方式や,音楽の特定帯域にデータを埋め込む音響OFDM方式などへの応用が可能であり,それらの方式に関する基礎的・実験的検討に着手できたことで,最終年度への弾みになったといえる.
|
Strategy for Future Research Activity |
受信信号電力が著しく低下した場合,計算量削減という観点では,誤り訂正方式を採用するよりも繰り返し符号化方法を拡張した方が効率が良い場合がある.誤り訂正方式は,無線チャネルの時間的・周波数的変動が比較的大きい環境において強力な誤り訂正能力を発揮するが, 変動が比較的小さい環境や,センサネットワークなど端末の性能に限界がある場合は,繰り返し符号化してダイバーシチ合成した方が効率が良い.その適用範囲・条件について検討する. 一方,OFDMをベースとした伝送特性の改善が期待できる技術として,データ系列に応じて異なる拡散符号(直交符号)を割り当てるM-ary/OFDM方式の有効性をH25年度に検証した.系列長が短い拡散符号を採用すれば,相関処理における計算量がそれほど増大せず,同一の電力および周波数帯域を想定した環境下で伝送特性の改善効果が確認できたので,M-ary/OFDM方式のHC-OFDM方式への応用を検討する.その他,チャネルの分離技術という観点では,multi-input multi-output(MIMO)技術の適用も十分に可能なので,これについても追求する. 最終的には,これまでの検討で得られた結果を用いて,無線チャネルの伝送路状態から伝送特性を推定し,送受信機の適応制御に活用する信号処理方法を提案する.従来方式であるRC-OFDM方式における適応制御方法は確立できているので,HC-OFDM方式へ応用していく.実用化という観点では,適応制御方法の簡素化も視野に入れて研究を遂行する.
|
Research Products
(8 results)