2013 Fiscal Year Research-status Report
物理層セキュリティの実用に向けた理論と符号化の構築
Project/Area Number |
24560486
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
井坂 元彦 関西学院大学, 理工学部, 教授 (50351739)
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Keywords | 物理層セキュリティ / 情報理論的安全性 / 符号化 / 補助情報 / 誤り確率 |
Research Abstract |
本研究課題では,ディジタル通信における雑音のランダム性を積極的に活用することで安全な通信を実現する物理層セキュリティを対象としている.特に2人のプレイヤー,アリスおよびボブが第3者の存在の下で秘密鍵の生成を行う秘密鍵共有プロトコルを扱っている.このプロトコルでは,まず雑音通信路ないしは相関のある情報源から得られた信号列に対して誤り訂正符号の手法を利用することで共通のビット列を共有し,これに対してある種の圧縮を行うことで秘密鍵を生成する.ただし,この手順を実行する上では両プレイヤーはメッセージ認証がされた通信路を利用できるものと仮定する.本年度はこのプロトコルに対する総合的な性能解析を目指した理論的検討を行った.ここでは,アリスが送信信号に関連する情報をボブに提供することで,ボブがアリスと同一のビット列を入手することを目的とするが,第3者に漏洩する情報量を最小限とすることが求められる.これは情報理論における復号器において補助情報が得られる情報源符号化の問題と等価である.この枠組みの下で,特に雑音通信路を通して得られた信号列に対してボブが選択的に信号を抽出した上で,符号化を行う状況を想定している.さらに,線形ブロック符号を用いて符号化を行う場合に,両プレイヤーが同一系列の共有に失敗する確率の上界を理論的に導出した.ここでは,信号の選択法に応じた確率分布を踏まえる必要がある.得られた誤り確率に関する上界式は,計算機実験の結果と合致しており,正確な性能予測が行えることを確認した.また,多ユーザ環境における物理層セキュリティを視野に入れ,通信する2者の間に中継局が介在する通信路における符号化系の誤り確率に関しても理論的な検討を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の実施計画において,雑音通信路を用いた情報理論的に安全な秘密鍵共有プロトコルにおける誤り訂正に関する検討を主要課題として挙げていた.これは情報理論分野において知られる,復号側で補助情報が得られる状況下での符号化としてモデル化できる.その一方,送信者および受信者の双方が,事前に確率変数列の部分列を選択的に抽出する点に大きな相違がある.このため,誤り訂正方式の性能解析を行う上では,上記の操作に即した統計量を踏まえることが不可欠となる.本年度の研究課題では,この問題に対してタイトな誤り確率の上界式を導出しており,その数値結果は高信号対雑音電力比の下で計算機実験結果と合致していることを確認した.この解析は,誤り訂正を行う際に用いるべき線形符号を明らかにしえる点に意義がある.また,この符号化方式と,秘密鍵共有方式における安全性との総合評価についても基礎的な考察を行っている.これらの成果に関しては,論文誌への投稿を準備中であり,また平成26年度に開催される国際会議での発表にも既に採択されている.以上より,特に符号化を軸とした秘密鍵共有プロトコルの具現化に向けた研究が着実に進展していると判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終的な目的は,雑音通信路を用いた情報理論的に安全な秘密鍵共有方式に関して,従来の研究よりも実用に近い立場から理論と具体的な符号化法の構築を行うことにある.平成24年度には特にプロトコルの前半部分に関連した誤り訂正のための具体的な符号構成や性能評価を実施した.さらに平成25年度では実用的に重要となる有限のブロック長に対して,雑音通信路の入出力が選択的に抽出される場合の復号失敗確率に関して理論的解析を進めてきた.これらの成果に基づいて,平成26年度は誤り訂正の手順にて共有されたビット列に対してある種の圧縮関数を用いることで生成される秘密鍵の安全性も含めたプロトコルの総合評価を進めることが挙げられる.これにより,安全に秘密鍵を共有するために求められる通信環境や必要とされる符号化法の能力および符号長を明らかにすることを目指す.また,多ユーザ環境における物理層セキュリティに向けて符号化法の具体的な検討を行うこと,さらにその性能を解析することも課題として考えられる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成26年度は本研究課題の最終年度にあたり,成果発表を目的とした会議出席のための旅費としての支出,および計算機の購入が必要となる.特に学会出張の必要性が平成25年度以前よりも大きくなることから,前年度に配分された助成金の一部を平成26年度に繰り越している. 平成24年度および平成25年度について,調査旅費および研究成果発表に係る国際会議ならびに国内の研究会参加のための旅費を中心として支出した.平成26年度についても,同じく調査および研究成果発表のための旅費に充てる予定である.一方,符号化方式に関する計算機実験のために計算機を購入する.また,データ収集および整理のためのアルバイト謝金としての支出も予定している.
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Research Products
(4 results)