2012 Fiscal Year Research-status Report
表面弾性波デバイスの小型・薄型化に向けた精度保証付き多目的設計探査の開発
Project/Area Number |
24560503
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
田川 聖治 近畿大学, 理工学部, 教授 (50252789)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 設計工学 / 多目的最適化 / 進化計算 / 電子デバイス |
Research Abstract |
表面弾性波デバイス(SAWデバイス)とは、圧電体の表面近くを伝搬する波動を信号処理に利用した機能素子であり、SAWフィルタやSAWデュプレクサとして、携帯電話や情報端末の高周波回路(RF回路)に広く使用されている。本研究の目的は、移動体通信機器の進歩に伴うSAWデュプレクサの更なる小型・薄型化を図るため、加工誤差や材質、環境変化などのバラツキを考慮した精度保証付きの設計手法を考案することである。本年度の研究実績は、以下の3つの事項に要約できる。 1.SAWデュプレクサのシミュレータの開発:SAWデュプレクサの性能を計算機シミュレーションにより評価するため、分布定数回路理論に基づきSAWデュプレクサのネットワーク・モデルを構築した。さらに、科学計算ソフトウェア(MATLAB)を用いてSAWデュプレクサのシミュレータを開発した。 2.要求仕様を満たすSAWデュプレクサの構造解析:SAWデュプレクサの基本機能である送信波と受信波に対するフィルタ特性、並びに送受信波の分波特性を制約条件とし、SAWデュプレクサの構造設計を制約充足問題として定式化した。次に、SAWデュプレクサのシミュレータと、独自の探索アルゴリズムを用いて、制約充足問題に対する実行可能解(SAWデュプレクサの構造)が存在する領域を調べた。その結果、実行可能解の領域は連続ではなく、複数の設計パラメータには交互作用のあることが判明した。 3.進化型多目的最適化手法の開発:SAWデュプレクサの機能と構造の関係を明らかにするためには、SAWデュプレクサの構造設計を4目的以上の最適化問題として定式化する必要がある。しかし、既存の多目的最適化アルゴリズムにより、4目的以上の最適化問題に対して高精度な非劣解集合を求めることは困難である。そこで、独自の進化型多目的最適化手法を考案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、当該年度の達成目標として、4目的以上の最適化問題に対しても有効な進化型多目的最適化手法(EMO)の構築と、表面弾性波(SAW)デュプレクサのシミュレータを利用した設計手法の開発に必要な要素技術の確立を挙げた。 まず、EMOの構築については、新たに非劣解の評価指標とその高速計算アルゴリズムを考案することで、当初の目標を達成することができた。また、幾つかのテスト問題においてEMOの有効性についても確認している。次に、SAWデュプレクサ全体のシミュレータの開発については、当初の計画以上に進展し、EMOのJAVAプログラムから利用可能なライブラリとして、科学計算ソフトウェア(MATLAB)によるシミュレータを先行して実装することができた。さらに、当該年度の研究計画には含まれていなかった研究成果として、シミュレータを利用したSAWデュプレクサの構造解析を実施することができた。 一方、精度保証付きの設計手法の開発に必要な要素技術の一つとして挙げた、加工誤差や材質、環境変化のバラツキなど不確実性を考慮したSAWデュプレクサを含むSAWデバイスの性能の評価方法については、文献調査とシミュレーションに基づく試行錯誤の段階であり、精度を保証したSAWデュプレクサの構造設計に必要な全ての要素技術が確立できたわけではない。 上記の通り、当初の計画以上に進展した研究事項と、やや遅れている研究事項があり、それらを相殺した結果、研究全体としては「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、前年度に引き続き、達成度が不十分であった加工誤差や材質、環境変化のバラツキなど不確実性を考慮したSAWデバイスの性能の評価手法について、理論とデータ解析ソフトウェアを使用した計算機実験に基づき検討し、SAWデュプレクサの構造設計問題に対して、進化型多目的最適化手法(EMO)により求めた解の精度を統計学的に保証する技法を確立する。 次に、当初の研究計画に基づき、SAWデュプレクサの構造設計を精度保証付き多目的最適化問題として定式化する。まず、多目的最適化問題の定式化においては、分波器としての周波数特性の改善に加えて、SAWデュプレクサの小型・薄型化を目指した複数の目的関数を定義する。また、複雑な電極構造を表現するための設計パラメータのほか、不確実性の要因となるパラメータを特定し、前者を最適化の対象である決定変数、後者を適当な確率分布に従う確率変数とする。さらに、上記のSAWデュプレクサの多目的最適化問題に対してEMOを適用し、得られた非劣解の質について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
交付申請書に示した通り、本研究により得られた成果は、学会発表や論文投稿を通じて国内外に公開する。本年度の研究で得られた成果のうち、シミュレータを利用したSAWデュプレクサの構造解析に関して得られた成果については、国際会議に論文を投稿して採択され、当該年度内に発表することができた。4目的以上の最適化問題に対する進化型多目的最適化手法の構築に関して得られた成果ついても、当該年度内に国際会議に論文を投稿して採択されたが、その国際会議での発表は次年度の6月である。このため、本年度の助成金の残額は、この国際会議に出席するための海外旅費として使用する。
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Research Products
(5 results)