2013 Fiscal Year Research-status Report
表面弾性波デバイスの小型・薄型化に向けた精度保証付き多目的設計探査の開発
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24560503
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
田川 聖治 近畿大学, 理工学部, 教授 (50252789)
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Keywords | 設計工学 / 多目的最適化 / 進化計算 / 不確実性 / 電子デバイス |
Research Abstract |
本研究の目的は、移動体通信機器の進歩に伴う表面弾性波デバイス(SAWデバイス)の更なる小型・薄型化を図るため、加工誤差や材料の品質、環境変化などのバラツキを考慮した精度保証付きの設計手法を考案するとともに、小型・薄型化に有用な知見を得ることである。今年度の研究実績は、以下の3つの事項に要約できる。 1.精度保証付き最適化問題の定式化:従来の不確実性を含む最適化問題の解の評価指標である目的関数値の標本平均に代わり、目的関数値の予測区間の上限値に基づき解を評価する最適化問題を定式化した。予測区間を用いることで、最悪の条件下における解の精度が保証できる。また、解に求められる精度から予測区間の有意水準を決めることで、目的関数値が予測区間に含まれる確率も任意に設定できる。さらに、予測区間の計算に必要となる解の評価回数(サンプル数)を、標本分散の信頼区間の許容誤差に基づき決定する手法を考案した。 2.精度保証付き最適化問題に対する最適化アルゴリズムの開発:精度保証付き最適化問題の解を効率的に求めるため、確率的多点探索手法の一つである差分進化(DE)を拡張した新たな最適化アルゴリズム(DEPC)を考案した。DEPCではPカットとCカットと呼ぶ2種類の枝刈り法により、1回の評価で解の質を推定し、有望な解に限って複数回の評価と予測区間の計算を実施する。また、提案したDEPCが精度保証付き最適化問題に極めて有効であることを、多くのテスト問題を対象とした数値実験により確認した。 3.マルチコアCPUを対象とした並行型差分進化の開発:複数のプロセッサを持つマルチコアCPUを有効に活用してDEの実行時間を短縮するため、DEの並行プログラムである並行型DEを開発した。当初の研究計画に並行プログラムは含まれていなかったが、SAWデバイスの精度保証付き設計にも役立つ成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、SAWデュプレクサのシミュレータの開発、並びにSAWデュプレクサの設計問題を多目的最適化問題として記述し、そのパレート最適解集合を求めることに成功した。今年度は、目的関数値の予測区間の上限値に基づき解を評価する精度保証付き最適化問題を定式化し、予測区間の計算に必要なサンプル数の決定方法を考案した。また、最適解を効率的に探索する最適化アルゴリズム(DEPC)も開発した。ここで、単目的の精度保証付き最適化問題に関する研究成果は、雑誌論文や学会を通じて発表している。精度保証付き最適化問題の多目的への拡張も完了しており、提案したDEPCについては単目的の最適化問題のみならず、多目的の最適化問題に対しても有効であることを確認している。これらの多目的の精度保証付き最適化問題に関する研究成果については、来年度、学会等で発表する予定である。以上のように、当初の研究計画に示した今年度までの研究目標は順調に達成できている。 マルチコアCPUを対象とした差分進化の並行プログラム(並行型差分進化)の開発は、当初の研究計画には含まれていなかった研究成果である。コンピュータ・シミュレーションに基づくSAWデュプレクサの性能評価には膨大な計算時間を要する。また、マルチコアCPUは市販のパソコンにも広く普及しており、そのコア(プロセッサ)数は更に増える傾向にある。したがって、並行型差分進化とその開発で培った並行プログラムの技術は、精度保証付きの設計手法を現実的なSAWデュプレクサの設計問題に適用する際に大いに役立つものと期待される。したがって、本研究は当初の研究計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、本研究の最終年度であるため、これまでに開発したプログラムや技法を統合して、SAWデュプレクサの小型・薄型化に有用な知見を獲得する。まず、現実的なSAWデュプレクサの設計問題を、本研究で考案した予測区間に基づく精度保証付き多目的最適化問題として記述する。次に、提案した最適化アルゴリズム(DEPC)を適用して、パレート最適解集合を求める。さらに、得られたパレート最適解集合を解析して、SAWデュプレクサの性能とそのサイズを含む設計変数の関係、並びに加工誤差や材料の品質、環境変化などのバラツキが及ぼす影響を明らかにする。 また、これまでの研究成果をまとめて雑誌論文や学会発表を通じて公開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究成果の1つである精度保証付き最適化問題と最適化アルゴリズム(DEPC)の多目的最適化問題への拡張は未発表である。したがって、それらの研究成果は来年度に学会等で発表する必要がある。 今年度の助成金の残額は、上記の研究成果を発表するための旅費の一部として使用する。
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Research Products
(11 results)