2012 Fiscal Year Research-status Report
距離0mからの超近距離と対象物・マイクロホンの移動に対応した音響測距法
Project/Area Number |
24560533
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
中迫 昇 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (90188920)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 距離0mからの超近距離 / 音響測距 / 位相干渉 / 定在波 / パワースペクトル / 距離スペクトル / 対象物 / 移動 |
Research Abstract |
本研究の目的は、介護・福祉用ロボットのように人間に接するか接しないかの近距離の検出が必要な機器に対し、可聴音を用いて距離を検知する測距システムを実現することにある。既に位相干渉に基づく音響測距法については、様々な見地から有用性を確認しており、今年度は以下の成果が得られた。 1.最小探知距離は送信波の帯域幅に依存しており、最小探知距離を短くするためには帯域幅を広げる必要があった。この問題点を改善するために、パワースペクトルの代わりに解析信号を導入した(N.Nakasako et al., Proc. of 2012 IEEE ICSPCC, pp.680-685, 中迫他、電気学会論文誌C, 132巻, pp.1749-1755)。これにより、0m の超近距離からも原理的に測距可能と思われる。 2.従来の測距法は対象物の移動を考慮していない。この問題点を改善するために、帯域分割した帯域インパルス音に対して時間遅延を与えた信号を送信波として導入した(中山他、電気学会論文誌C, 132巻, pp.1774-1775)。これにより、移動体の距離と速度の測定が原理的に可能と思われる。 3.位相干渉に基づく音響測距法は様々な応用が期待される。例えば、音声を用いた測距(N.Nakayama et al., Proc. of 2012 IEEE ICSPCC, pp.674-679)、クロススペクトル法と音響測距法の組合せによる複数死角制御型ビームフォーマ(N.Nakayama et al., Acoustical Science and Technology, vol.34, pp.80-88)、パラメトリックスピーカを利用した音響測距に基づく立体音場再現(廣畑他、日本音響学会研究発表)などについて可能性を検討している。 以上の成果を踏まえ平成25年度以降の測距システムの開発につなげたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要でも述べたとおり、本研究の目的は、介護・福祉用ロボットのように人間に接するか接しないかのぎりぎりの距離の検出が必要な機器に対し、可聴音を用いて距離を検知する測距システムを実現することにある。距離を検知するための原理は、送信波と対象物からの反射波の重なりのために観測位置での位相干渉によって、観測信号のパワースペクトルは周期関数となり、その周期がマイクロホンと対象物に間の距離情報を含むため、もう一度フーリエ変換を施すと距離情報が得られるというものである。本研究テーマを開始する前に、基礎研究として多くの成果が得られており、これは2009年度~2011年度 科研費補助金 基盤研究(C)「自動車の排気音を用いたリアソナーの開発」(研究代表者:中迫昇、研究課題番号:21560454)の賜物である。よって、本年度はその基礎研究をもとに助成金を活用してスタートダッシュを切ることができた。 平成24年度の研究発表は、雑誌論文が5件(うち査読付論文が5件)、学会発表が12件である。1年間の成果としては十分であろうと判断する。内容的にも、従来の位相干渉に基づく音響測距法を発展させて0m の超近距離からも原理的に測距可能な手法を提案し、また、従来では対応できなかった移動物体に対して移動体の距離と速度の測定が原理的に可能な手法を提案した。これらの原理的手法は、平成25年度以降の測距システムの開発の礎になると確信する。 位相干渉に基づく音響測距法は様々な応用が期待され、本年度は上記の成果以外に、音声を用いた測距、クロススペクトル法と音響測距法の組み合せによる複数死角制御型ビームフォーマ、パラメトリックスピーカを利用した音響測距に基づく立体音場再現などについて可能性も検討することができた。以上のことから、本研究テーマは当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の成果と経験をもとに、提案手法を用いて本格的に近接距離に置かれた対象物までの測距の実験を始める。同時に、人間やロボットは動くため、移動する物体および移動するマイクロホンに対応する測距法を考案する必要がある。一部、移動物体の測距に関しては、原理的な内容についてのみ平成24年度に論文化しているが、実音場で移動物体の測距を行なうことは非常に困難であると予想される。平成25年度以降は次のような研究計画を立てている 1. 位相干渉に基づく音響測距法を理論と実験の両面からさらに深く掘り下げ、実環境に合った理論構築を行なう。 2. 測定系は静止・対象物は移動、測定系は移動・対象物は静止、測定系・対象物が個別に移動する場合など、それぞれの状況に応じて理論を考察する。 3. とくに移動物体をどのように実現するかが問題であり、市場で販売されている製品や製品類を組み合せて、人の歩行などを模擬した移動物体を実現し、測距実験を行ないたい。計測結果から理論を修正し、実際の音場におけるドップラー効果の影響などを明らかにし、本理論の振る舞いとその適用限界を明らかにする。 4. 位相干渉に基づく音響測距法の潜在的な応用可能性を、平成24年度に引き続き、様々な角度から検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述の「今後の推進方策」の通り、実際の音場で測距実験を行うためには、実験関係の消耗品が必要であり、実験補助やデータ処理のために学生アルバイトも必要である。専門家との意見を交換することによって理論の修正や実験の工夫を行うために、ここまでの成果を国内外の音響、計測制御、信号処理関係の学会で発表する旅費なども必要である。
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