2013 Fiscal Year Research-status Report
距離0mからの超近距離と対象物・マイクロホンの移動に対応した音響測距法
Project/Area Number |
24560533
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
中迫 昇 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (90188920)
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Keywords | 距離0mからの超近距離 / 音響測距 / 位相干渉 / 定在波 / パワースペクトル / 距離スペクトル / 対象物 / 移動 |
Research Abstract |
本研究の目的は、介護・福祉用ロボットのように人間に接するか接しないかの近距離の検出が必要な機器に対し、可聴音を用いて距離を検知する測距システムを実現することにある。既に位相干渉に基づく音響測距法については、様々な見地から有用性を確認しており、今年度は以下の成果が得られた。 1.最小探知距離は送信波の帯域幅に依存しており、最小探知距離を短くするには帯域幅を広げる必要があった。この問題点を改善するために、パワースペクトルの代わりに解析信号を導入しマイコンによる実装を試みた(N. Nakasako et al., Proc. of Internoise2013, 10ページ(CD-ROM収録), N. Nakasako et al., Proc. of GCCE2013, pp.112-115)。これにより、0m の超近距離からの測距が実現可能と思われる。 2.従来の測距法では測定系の影響のために近距離に偽の距離を検出する。この問題点を改善するために、2chマイクロホンの観測信号におけるクロススペクトルの揺らぎに着目する(N.Nakayama et al., Proc. of ICASSP2013, pp.423-427)か、あるいは測定系の移動を考慮した(N. Nakasako et al., Proc. of ISPACS2013, pp.332-335, N. Yamawaki et al., Proc. of ISPACS2013, pp.336-339)。これにより、測定系の影響の低減が可能と思われる。 3.位相干渉に基づく音響測距法は様々な応用が期待される。例えば、単一音源による測距だけでなく複数音源による対象物の位置推定(鈴木他、日本音響学会研究発表)、音響測距法用いた等価的な反射係数の推定(根木他、日本音響学会研究発表)などについて可能性を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要でも述べたとおり、本研究の目的は、介護・福祉用ロボットのように人間に接するか接しないかのぎりぎりの距離の検出が必要な機器に対し、可聴音を用いて距離を検知する測距システムを実現することにある。距離を検知するための原理は、送信波と対象物からの反射波の重なりのために観測位置での位相干渉によって、観測信号のパワースペクトルは周期関数となり、その周期がマイクロホンと対象物に間の距離情報を含むため、もう一度フーリエ変換を施すと距離情報が得られるというものである。 平成25年度の研究発表は、論文が5件(うち査読付論文が4件)、学会発表が9件である。1年間の成果としては十分であろうと判断する。内容的にも、従来の位相干渉に基づく音響測距法を発展させた0m の超近距離から測距可能な原理的手法について、マイコンによって実装が可能か検討した。測定系の影響を除去するために、2chマイクロホンの観測信号におけるクロススペクトルの揺らぎに着目した。また、1chマイクロホンによって測定系の影響を除去するために、対象物でなく測定機器が移動することによって対象物までの距離を測定する手法を提案した。これらの原理的手法は、平成26年度に完成を目指す測距システムの開発の礎になると確信する。 位相干渉に基づく音響測距法は様々な応用が期待され、本年度は上記の成果以外に、単一音源による測距だけでなく複数音源による対象物の位置推定、音響測距法用いた等価的な反射係数の推定などについて可能性も検討することができた。以上のことから、本研究テーマは当初の計画に比べておおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24、25年度の成果と経験をもとに、提案手法を用いて本格的に近接距離に置かれた対象物までの測距の実験を始める。同時に、人間やロボットは動くため、移動する物体および移動するマイクロホンに対応する測距法を考案する必要がある。移動物体の測距の測距に関しては、原理的な内容についてのみ平成24年度に論文化しており、一方、測定機器が移動する場合の測距に関しては、平成25年度に発表しているが、実音場で移動物体の測距を行なうことは非常に困難であると予想される。平成26年度は次のような研究計画を立てている 1. 位相干渉に基づく音響測距法を理論と実験の両面からさらに深く掘り下げ、実環境に合った理論構築を行なう。 2. 測定系は静止・対象物は移動、測定系は移動・対象物は静止、測定系・対象物が個別に移動する場合など、それぞれの状況に応じて理論を考察する。 3. とくに移動物体をどのように実現するかが問題であり、市場で販売されている製品や製品類を組み合せて、人の歩行などを模擬した移動物体を実現し、測距実験を行ないたい。計測結果から理論を修正し、実際の音場におけるドップラー効果の影響などを明らかにし、本理論の振る舞いとその適用限界を明らかにする。 4. 位相干渉に基づく音響測距法の潜在的な応用可能性を、平成25年度に引き続き、様々な角度から検討する。 5. 研究期間の最終年度にあたるために、得られた成果を国内外の学会発表や論文を通じて公表したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の目的は、介護・福祉用ロボットのように人間に接するか接しないかの近距離において、可聴音を用いて距離を検知する測距システムを実現することにある。この大きな目標を達成するために、予算作成の段階では測定機器や信号処理ソフトウエアなどの購入が不可欠であると考えていたが、測定機器については測定方法を工夫することによって、またソフトウエアについては自作することによって予算を節約できた。また、理論の確認のために予備的な音響実験を多数回繰り返す必要があるが、周到に準備することによって予備実験の回数を最小限にとどめることができ、予備実験にかかる消耗品費や人件費・謝金を節約できた。 本テーマの実現のためには、予備実験だけではなく、実際の音場において本格的な測距実験を多数回行うことが不可欠である。そのために、本格的な実験関係の消耗品が必要であり、実験補助やデータ処理のために学生アルバイトも必要である。また、研究期間の最終年度にあたるために、得られた成果を国内外の音響、計測制御、信号処理関係の学会での発表や論文投稿を通じて公表予定である。したがって、消耗品、学生アルバイト代、国際・国内会議参加登録料、論文別刷代などに、次年度分と合わせて使用する計画である。
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