2012 Fiscal Year Research-status Report
精密小型加振機と無線センサネットワークを用いた構造センシングの高度化と実証実験
Project/Area Number |
24560586
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
佐伯 昌之 東京理科大学, 理工学部, 准教授 (70385516)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 精密小型加振機 / 無線センサネットワーク / 構造同定 / 振動計測 / 周波数伝達関数 |
Research Abstract |
本研究は,社会基盤構造物の保有性能を定量化することを最終目的とし,そのための構造センシングシステムを構築するものである.申請者は,以前より,精密小型加振機と加速度無線センサネットワークを時刻同期したシステムの開発を進めていた.H24度は,同システムの要素技術である制御手法,計測手法,解析手法について大きな進展が得られ,模型実験や原位置試験による性能評価に着手した. 本年度の研究では,まず,精密小型加振機の制御手法および振動モードの同定手法を確立した.これ等は一見したところ,別々の開発項目に見えるが,両者の利点を上手く活かすような方法とした.具体的には,精密小型加振機は高精度のサーボモータで制御するのだが,制御の追従性を高めるには,ある狭い周波数範囲に限定してFM制御する方が精度がよい.その様に制御すると,振動計測データは狭い周波数帯域しか持たず,一般的には情報量が少なくなり解析で不利となる.しかし,本研究では精密小型加振機と無線センサネットワークが高精度に時刻同期しているため,ARX法を適用することができる.その場合,対象構造物の固有振動数付近のみをピンポイントで励起してやることで,弱い加振力でも高いSN比を得ることができ,さらに固有振動数や減衰定数を高精度に同定することが可能となる.また,ARX法により推定される周波数伝達関数は,計測した周波数帯域のみならず,その帯域外でも高い精度を示している. 上記の手法の精度検証として,有限要素法を用いた数値実験,および室内における単純梁を用いた振動実験を行っている.特に,単純梁を用いた振動実験では,本システムにより推定される周波数伝達関数を,有限要素解析により計算される周波数伝達関数で表現することに成功している. 以上の結果は,現在,論文にまとめて投稿中・執筆中であり,土木学会応用力学論文集や,国際学会への投稿を予定している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では,H24度は,1)精密小型加振機の制御手法の確立,2)加速度センサ自動校正機能の開発,3)振動モード同定手法の高度化,4)梁模型を用いた損傷同定実験,5)原位置における軌道計測実験の立上げを予定していた. 1)の精密小型加振機の制御手法の確立では,対象構造物の固有振動数付近をピンポイントで計測することで,高いSN比が得られることを示した.また,固有振動数付近の加速度応答をARX法を用いて解析することで,振動モードを高精度に同定できることを示した.さらに,有限要素法を用いた数値実験により,固有振動数付近のデータのみを解析したにも関わらず,ARX法の推定により得られる周波数伝達関数は,全体的に精度よく正解に一致することも確認できた.これにより,上記1)および3)が完成し,精度検証も終えることができた. 2)の加速度センサ自動校正機能の開発のみは,当初予定通りには進んでいない.校正の基本となる高精度のセンサーとして,当初予定通り安価なレーザー変位計を購入したが,要求性能をもっていないことが判明した.今後,別の研究予算を手当てして,高精度のセンサーおよびデータロガーを購入する必要があることが分かった. 4)と5)の実験も予定通り行うことができた.梁模型を用いた振動実験では,室内で2m程度の鋼製単純梁を,本システムの実験用小型装置で加振し,計測された応答波形から周波数伝達関数を推定した.これを,有限要素解析により計算した周波数伝達関数と比較したところ,高精度に再現できることが確認できた.また,単純梁にある質量を固定して,その質量を逆推定できるかを検証し,良い結果を得た.上記以外にも,千葉市の協力を得て,市内にかかる人道橋・車道橋においても実験を行った.人道橋では振動モードの同定に成功したが,車道橋では試作機の加振力が弱く,十分に振動を励起できないことが分かった.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では,H24年度にシステムの基本的な開発を終え,H25年度とH26年度は梁模型を用いた損傷同定実験,原位置における機動計測実験を継続することになっていた. しかし,先にも述べた通り,加速度センサの自動校正手法は未完成であり,上記の実験以外にもこれを進める必要がある.当初予想していたよりも,本システムの計測精度が高く,10万円程度のレーザー変位計では,高精度な校正に用いることができなかった.本研究予算では,高精度のレーザー変位計(80万円程度)および時刻同期が可能なデータロガー(60万円程度)を購入することができないため,別途,研究予算を獲得することを考えている. 梁模型を用いた損傷同定実験は,これまで通りに進める.H24度までに質量変化をとらえる実験を行っており,本年度は,梁模型に損傷を与える実験に移行する予定である.また,当初の予定にはなかったが,構造逆推定アルゴリズムの開発を進めることとする.本実験および解析により,梁模型の逆推定が可能となれば,実用化に向けて大きく前進することになる.ただし,当初から予想されたことではあるが,有限要素解析において,梁の支持条件をどのようにモデル化するか,減衰という現象の原因を突き止め,これをどのようにモデル化するか,という難しい問題が残っている.現に,わずかな温度変化により振動特性が微小に変化することが計測で捉えられており,それを説明する有限要素モデルの構築では,減衰のモデル化が重要となっている.そのため,単に損傷を与えて同定を試みるという単純な実験のみならず,高度な温度管理下での実験も行うことを予定している.申請した研究費は,主に室内での高度に管理された振動実験の実施に振り向ける予定である. また,H24年度に実施した機動計測実験で,車道橋の振動モードを同定することができなかったため,試作機を改良し,再度試みる予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究費として,直接経費70万円が内定している.これらの項目別の使用予定は以下の通り. 物品費:単純梁模型の支承として,ローラー支承を購入する.昨年度は,本学の他の研究室から借りることができたが,本年度は自前で準備する必要がある.我々が調べた限りにおいては,ローラー支承のみを安価に販売しているところがなく,引き続き販売元もしくは安く譲ってくれるところを探す予定である.これに18万円程度を見込んでいる.また,温度管理された実験装置の組立材料費に20万円程度を見込んでいる. 旅費:本年度は,本システムと同様な構造センシング手法の研究を行っている名古屋大学の情報処理を専門とする研究者および兵庫県立大学の機械を専門とする研究者との情報交換を増やす予定でいる.これの勉強会開催・旅費として10万円程度を予定している.また,学会への旅費として2万円程度を予定する. その他:論文投稿費用・学会参加費用(応用力学シンポジウム,構造工学シンポジウム,国際学会)として10万円程度を予定する.また,これまでに作製してきた精密小型加振機の摩耗品交換・修理などのためのメンテナンス費として10間年程度を見込んでいる. 以上より,物品費38万円,旅費12万円,その他20万円,合計70万円を予定する.
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Research Products
(5 results)