2012 Fiscal Year Research-status Report
水文学的視点からの再生可能エネルギーの限界と脆弱性
Project/Area Number |
24560617
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
鼎 信次郎 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (20313108)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 水資源 / エネルギー / 陸面モデル |
Research Abstract |
エネルギー問題と温暖化対策への切り札は、再生可能エネルギーである。しかし、未来社会における再生可能エネルギーの限界と脆弱性は、ほとんど検討されてこなかった。ここでは二つの側面を取り上げる。一つは、将来の90億人の食料確保の上でのバイオ燃料の増産は、水資源の限界によって不可能かもしれないという恐れ。二つ目は、洪水・干ばつ等の極端現象の激化が危惧されているが、自然環境に依存する再生可能エネルギーは、極端現象の変化に対してきわめて脆弱かもしれないこと。この二つについてのアセスメントを全球について行うことが目的である。今年度は、バイオ燃料ポテンシャルだけでなく他の項目においても共通の基礎データとなる気候データ、土地利用データ、陸面水文モデルのための標高データ、それと整合した新たな河川網データの整備等の収集・整備を行った。また過去の気候データについては申請者らがこれまで構築してきたデータセットをベースとし、将来の気候データはIPCCの最新データセットであるCMIP5の出力を適切にバイアス補正・ダウンスケールすることによって作成した。また、極端現象の主要な要素の一つとして、世界全体の洪水が過去から将来についてどのようになるかについて、推定計算を進めた。また、複数の食料必要量シナリオを設定し、それらを全球統合水資源モデルへと導入することによって、それらに対応した全球バイオ燃料ポテンシャルをこれまでも計算してきたが、その手法、内容、結果を再整理し、論文集へと投稿し、レビューコメントを踏まえて論文改訂を行い、受理の形までこぎつけた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、共通の基礎データとなる気候データ、土地利用データ、陸面水文モデルのための標高データ、それと整合した新たな河川網データの整備等の収集・整備は順調に進んでいる。次に、全球水資源モデルにおいて、水資源と食料およびバイオ燃料などの再生エネルギーとを結びつける重要な鍵の一つである遠隔導水などのモデル改良についても順調に進んでいる。また、極端現象に注目するということであるが、最新温暖化シナリオ化での洪水の変化についても順調にシミュレーションがされた。また、全球の様々な条件下でのバイオ燃料ポテンシャルについて、専門家のレビューに堪えうる形でまとめ上げ、論文誌に受理されたことは大きな進捗であったといえる。将来の気候データについて、IPCCの最新データセットであるCMIP5の出力を適切にバイアス補正・ダウンスケールすることによって作成したことも順調な進展の一つである。これは再生可能エネルギー研究以外の他の研究にも応用の効くものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
再生可能エネルギーを水文学的視点から評価・モデル化する際に、低水および高水についての水文シミュレーションの改良は必須である。低水については、地下水モデルの改良により低水シミュレーションの精度を上げると同時に、温暖化の影響が大きいと考えられる氷河と積雪からの融解水文量に関して精度を上げる予定である。高水についても、氾濫水の流下スキームの改良や低平デルタ地域での河道分岐の際のシミュレーションの種々の問題の解決を試みる。その際、河道深・河道幅パラメータの妥当な決定法が一つの鍵になってくると考えられ、その調整をすでに開始している。また、現実の水利用の、ある程度あるいは結構な部分は、河川網に沿わない遠隔導水による水資源を利用したものであるが、そういった要素は既存の全球統合水資源モデルには明示的には含まれていない。その改良を続ける。また、共通データの整備については前年度に引き続き行う。それらの数値シミュレーションを進める中で、水資源制約下での食料やバイオ燃料ポテンシャルの限界値、さらには洪水や干ばつなどが世界中で同時発生した際の脆弱性についても評価を開始する。これらの統合的な検討例の一つを、メコン川を対象として行うことを考えている。 H24年度はIPCC準拠の社会シナリオの作成が国際的なコミュニティにおいて行われることになっており、本研究でもそれらを利用する予定であった。しかし、その進展が国際的に遅れたため、当研究でもその対応を遅らせH25年度に行うこととした。そのためのリソースとして一部の資金をH25年度に繰り越した。一方で、メコン川を対象とすることを暫定的に決め、その下準備をH24年度中は行った。この準備については資金はほとんど必要としなかったが、時間面においては上記の当初H24年度実行を予定していたが繰り越した内容と、入れ替えを行った。そのため全体としての作業進捗には問題ない。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
翌年度以降に請求する研究費と合わせた使用計画について、まず記す。物品としては、大規模データの保存のためのストレージ機器を購入することが必要と考えられ、また様々な分野にわたる広範な情報・知識を必要とするため、書籍等の資料の購入が必要とされる。またシステムダイナミクスやGISを使う予定でもあり、それらのソフトウェア代も必要になると考えられる。次に旅費としては、国内外の学会で成果発表を行うための費用を必要とする。これによって、外部の方と科学的な議論を深めることができるとともに、学会等において様々な情報収集を行うことが可能になる。次いで人件費・謝金としては、データ整理および数値モデルシミュレーション補助として、リサーチアシスタント(あるいは謝金)のための費用を必要とする。最後に、その他であるが、研究成果を英文化し国際論文に投稿する際に、英文校閲料さらには投稿料などが必要になると考える。学会で成果発表を行う際の参加登録料などもこちらに含まれる。 上記では合わせて記したが、当該研究費が生じた状況およびその今後の使用計画について記す。H24年度からH25年度へと繰り越した状況は上記別欄の通りであるが、それら繰り越したシナリオデータのためにストレージ等の機器が必要であるため、H24年度の資金の一部はその目的に使用する。また一部、その繰り越したシナリオデータ整備と解釈のための旅費とデータ整理補助にも使用する予定である。これらは本欄内上記の、合わせての使用計画の中にも含んで記述した。
|
Research Products
(5 results)