2013 Fiscal Year Research-status Report
水中音響特性に着目した魚道の機能評価と河川魚類生息場の自然度診断システム
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24560630
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Research Institution | Gifu National College of Technology |
Principal Investigator |
和田 清 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (50191820)
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Keywords | 魚道 / サイフォン式パイプ魚道 / 魚道カルテ / 遺伝的多様性 / マイクロサテライトDNA |
Research Abstract |
本研究では、水理実験と現地調査により、1)各種魚道における機能評価、2)サイフォン式パイプ魚道を用いた改善策の実証、3)在来魚類の個体群間の遺伝的交流の実態解明について実施した。具体的には、魚道改善案として、サイフォン式パイプ魚道を提案した。主な材料は、市販の塩化ビニル樹脂やコルゲート管を利用することができ、低コストで容易に作製可能である。現地河川および農業用水路における遡上実験より、落差1~2m程度の堰において管内流速を魚類が遊泳する突進速度以下に低減させる流速制御の構造形式を考案し、魚類の生息場改善案としてサイフォン式パイプ魚道の有効性を評価した。その結果、現地に設置後のモニタリング期間において、サイフォン効果により途切れることなく流水状態が維持され、現地の在来魚が管内に侵入し、本魚道を遡上する様子が確認されている。また、より遡上率を高めるために、鉛直部の2箇所に一時的に休憩可能な止水域を設置し、管内の遊泳行動を観察のために透明な塩ビ管に改良した。これらの現地遡上実験により、サイフォン式パイプ魚道が十分な遡上機能を有していることが明らかとなった。さらに、生息場の多様性では、岐阜県指定希少野生生物であるハリヨを対象魚とし、魚類生息場環境より生息場に及ぼす要因を抽出して、植生分布などに加えて湧水による水質環境が関連していることが示された.加えて、遺伝的多様性では、タモロコが河川、農業用水、水田を往来し、生態系ネットワークの連続性を把握する上で主要な魚種とした。そのタモロコのマイクロサテライトDNA分析による遺伝的多様性を検討するために、12遺伝子座の中から、ヘテロ接合度の出現割合が80%以下のプライマーを絞り込んだ結果、6遺伝子座が比較的偏りが少なく犀川流域のタモロコに有効であることが明らかにされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、1)魚道における機能評価、2)魚類生息場における音環境の適性基準を導入した評価、3)在来魚類の個体群間の遺伝的交流の実態解明を三本柱としている。1)魚道における機能評価については、魚類の遡上が困難となる落差1~2mにおいて、従来の発想にはない簡易的な魚道形式を実証した。そのアイデアは、サイフォン式パイプ魚道(管路内を急拡・急縮管を連続させ、エネルギー減衰を大きくして魚類の突進速度以下に減速する魚道)である。水理実験により所定の水位差と急拡・急縮管の個数、内部流速などの関係式が算定され、現地河川および農業用水路における現地実験により、稚アユ、オイカワ、ヨシノボリなどの19種類の在来種の遡上が確認されている。2)魚類生息場における音環境評価については、ダム湖のようなバックグラウンドが静穏な場所での効果が確認されたが、通常の河川などの多種類のノイズが混在する場所では信号処理には工夫が必要となることが判明した。そのため、魚道などの比較的単純なプール内の水中音響を収録分析して、魚道プール内の静穏度と魚道の機能評価を関連づけるために、その共鳴などの音振動スペクトル特性の変化まで定量的に評価する必要がある。3)在来魚類の個体群間の遺伝的交流の実態解明については、陸封されたダム湖の稚アユを対象にして遺伝的な多様性を把握するマイクロサテライトDNAによる分析を行った。阿木川ダム湖の個体群は、琵琶湖産、海産、人工種苗などに比べて、海産系と同程度に多様性が保持されていることが明らかとなった。また、小河川・農業用水などにおける個体群のネットワーク(遺伝的交流)の実態解明を根尾川流域の農業用水路網において実施するために、12遺伝子座の中から、主要な6遺伝子座のマーカーが犀川流域のタモロコに有効であることが明らかにされた。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、計画は概ね順調に進展しており、より確実な成果とするためには以下の点を重点的に行う。1)岐阜県内における魚道点検の分析と補修方法の提案:岐阜県では魚類等の遡上・降下の確保に向けて魚道の維持管理が進められている。2012~2013年にかけて、魚道点検が673の河川横断施設について総合評価(ABC)が行われている。これらのデータを多変量解析により機能不全に陥っている要因を抽出し、代表的な魚道を重点的にモニタリングする。この際、年数回の踏査では見えにくい非定常性(水位変動や遡上量など)について、センサ類やwebツールを利用して可視化する。これらにより、断片的なデータを時系列的な中で水理環境と魚類の生活史と関連づけて、魚道の機能修復に関する種々の改善策に資する情報を提供することができる。2)簡易魚道や水辺の小ワザの提案:サイフォン式パイプ式魚道が新たに提案され、河川や農業用水において有効性が実証されている。また、遡上時に簡易的に着脱できる魚道形式や小規模ながらもその水辺に相応しい効率的な改善策を様々な視点で工夫する取り組みを、上述した魚道点検や新たな現地実験サイトを設定して有効性を検証する。3)音響データによる魚道診断:魚道の機能評価には、遡上経路において流速や水深などの水理量の計測を伴う。一方、階段式魚道は全体の70%を占めているので、このプール内の静穏度を水中音響特性により評価すれば、魚道診断に有効となる。この観点から、現地実験において、流量が変動した際における水理量と水中音響特性を計測し合理的な診断方法を提案することを検討している。4)在来魚類の個体群間の遺伝的交流の実態解明: 小河川・農業用水などの個体群のネットワーク(遺伝的交流)の実態解明については、主要な6遺伝子座のマーカーが特定された犀川流域のタモロコについて検討する。
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