2012 Fiscal Year Research-status Report
障碍者の主体的行動の促進と介助者の見守りを支援する建築環境システムの開発
Project/Area Number |
24560723
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
土川 忠浩 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (50180005)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 託夢 奈良先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 助教 (80549220)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 身体障碍者 / 温熱環境 / 体温 / 車いす |
Research Abstract |
本研究では脊損者・頸損者の様々な生活場面での体温等の生理情報と身体負荷のリアルタイムな把握、主体的行動に伴う生理的状況(主として体温)の予測と適切な制御、および介助者に対する障碍者等の個人的プロフィールに基づく介助支援方法の提示機能等を有する人体-建築環境-介助支援の連携システム構築の基礎的検討を行うことを目的としている。本年度は主に頸損者の体温調節に関する個人差・温熱環境プロフィール及び体温提示・予測システム開発に関する実験等を行った。 頸損者に対して体温調節に関する経験・対処等のヒアリング調査を行い、その構造の基礎的検討を行った。頸損者等の体温調節機能の個人差は、健常者の体温調節の個人差(例えば寒がり・暑がりなど)とは質的に異なり、健常者よりも安全・健康性に対して格段に影響が大きく、さらに先行研究も希有であり、その意義や重要度は高い。 このような脊損者の個人差等をシステムに反映するためには、単に障碍の程度、受傷年数等の医療カルテ的なものだけではなく、受傷後の身体的機能の変化など自身による主観的な感覚変化の履歴や独自の体温維持のための対処方法等も必要となる。このような体温調節に関する個人的経験や履歴を「温熱環境プロフィール」(仮)として新たに提案し、その必要性と方向性を検討した。 以上のようなプロフィール概念構築と並行して、具体的な体温提示・予測システムの試作を行った。その装置には体温提示・予測シミュレーションモデルの開発が必須であり、先行研究で提案されている健常者の体温調節モデルに頸損者の障碍の程度や行動を組み込んだモデルの開発を行うとともに、必要な物性値(車いす乗車日射投影面積など)の測定を行った。また、その機能に必要な深部温予測を検討するために頸損者を被験者とした屋外移動観測を行って検討した。頸損者を被験者とした非定常体温測定の研究はほとんど無く、重要かつ意義深い。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
障碍者(主に頸損者)に対するヒアリング調査の結果、受傷からの体温調節機能の経過変動やその対処方法の変化、日常生活における温度、湿度、気圧等に対する感度(感受性)の違い、体温異常時の身体生理反応やその対処方法、さらに将来的な身体変化に対する不安や改善のための要望など基本的事項が抽出された。これらのことは個人差を構造化する上で大きな成果となる。 このような障碍者の個人差等を将来的に連携・制御システムに組み込むため、体温調節に関する個人的経験や履歴を「温熱環境プロフィール」(仮)として新たに提案し、その必要性と方向性の検討を行った。この温熱環境プロフィールは健常者の体温調節の心理・生理反応を基礎とするものであるが、ヒアリング調査から得た結果による頸損者の生理的特徴、対処方法、さらには介助者との関係を含めており、脊損者の体温調節に対して総合的な視点を構築する上で意義深いと考える。 体温調節シミュレーションモデルの開発においては、脊損者の深部体温予測が重要となる。被験者(脊損者)による日常生活における体温調節反応測定によって、深部体温の変動把握を行うともに、その代替としての人体表面部位(車いすとの接触部等)の妥当性の検討を行った。その結果、深部温との良い対応を示す部位もあったが、実用性についてはさらに検討が必要であった。また、屋外行動を考慮した体温シミュレーションモデルの開発、提示装置への組み込みの検討も行った。頸損者の日常生活の行為をモデルに組み込むことで実測値との対応にほぼ同様の傾向を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
24年度に行った成果をもとに次のように発展させる。 【1.体温調節機能等の個人差と温熱環境に対する感受性の関係】前年度に行ったパイロット調査を基に、構造把握と各種要因との関係性について検討し、さらにヒアリング調査を拡大し、その構造の検討・発展を図る。 【2.障碍者の個人プロフィールを考慮した見守り・支援方法の検討】前年度行った障碍者個人プロフィールのあり方と構造に上記の個人差の統合を図り、体温提示・支援システムへの組み込みを検討する。また、介助者との関係についても検討する。 【3.体温調節シミュレーションモデルの開発と環境制御・見守り・支援装置の試作検討】前年度までのシミュレーションモデルの改良と試作した支援システムの実用化を行うための試験を行う。実際に障碍者(主として脊損者・頸損者)ならびに健常者を対象に室内における生活場面で試験を行い、課題の抽出と改良を行う。さらに空間環境調整との連携を図るため、車いす等の福祉機器や環境調整機器等との連携の技術的検討を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する研究費が生じたのは、ヒアリング調査(3月初旬)を予定していた対象者(障碍を持つ研究者。関東在住)から体調不良により相当期間の延期の申し出があり、その調査旅費を次年度に使用することとしたためである。この旅費を含め次年度にヒアリング等の調査旅費として執行する予定である。
|