2012 Fiscal Year Research-status Report
悪臭環境が脳疲労および作業誤認に及ぼす影響に関する研究
Project/Area Number |
24560728
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Matsue National College of Technology |
Principal Investigator |
山田 裕巳 松江工業高等専門学校, 環境・建設工学科, 准教授 (30610787)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 疲労 / 自律神経 / 臭気 / アンモニア / イソ吉草酸 |
Research Abstract |
高齢者介護施設におけるし尿・汚物から発散される臭気は長期的なストレス環境を生じさせる恐れがある。このような介護環境は、介護者の長期的な健康状態および作業パフォーマンスに悪影響をもたらすことが懸念される。そこで本研究は、悪臭が作業パフォーマンス及び疲労へ及ぼす影響を明らかにした。 実験は、臭気の存在様式の異なる3空間(臭気なし・アンモニア・イソ吉草酸)を対象として、これら異なる臭気環境下での疲労負荷(2-back試験)時におけるパフォーマンス(p-ツール)、主観的評価(v-ツール)および自律神経変動(加速度脈波)を疲労前、疲労負荷後、回復後において比較検証した。 実験の結果、悪臭環境が被験者の主観的評価に悪影響を及ぼしていることが分かった。アンモニア濃度とイソ吉草酸濃度の臭気強度は同等になるように設定したものの、「イソ吉草酸」条件は、「アンモニア」条件に比較して不満足度が高い結果となった。パフォーマンス評価に関しては、「イソ吉草酸」条件は作業速度に影響し、タスク処理数が低下する結果となった。自律神経への影響に関しては、疲労負荷前後及び安静後のLF/HF比の結果から、各条件とも疲労負荷後にはLF/HF比が増大する傾向を示したものの、「イソ吉草酸」条件では疲労負荷後、有意に上昇しており(p<0.05)、交感神経系の上昇、すなわちストレスの上昇が確認された。また、安静後においては「臭気設定なし」条件では回復傾向がみられたが、「イソ吉草酸」条件ではあまり下降しない傾向を示した。このことから同等の臭気強度であっても、悪臭成分の違いによって、疲労、作業パフォーマンスに及ぼす影響が異なる可能性があることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、臭気が自律神経やパフォーマンスへどの程度影響し、その改善の方法を探るものである。現在までに臭気が健康に及ぼす影響を明らかとするために、具体的には、自律神経系への影響を明らかにするための具体的研究実施計画を立案し、これに基づき研究を推進した。本研究では、被験者への臭気の与え方が結果に影響を及ぼす恐れがあるとして、被験者の鼻部のみに臭気を供給する方法ではなく、被験者が滞在する空間濃度を調整することを目指したため、その臭気汚染物質の発生方法、測定分析手法など臭気環境の調整に関する技術を構築した。次に、実施にあたっては本研究が被験者の健康への影響が考慮されたため、倫理審査委員会を学内に設置し、被験者への倫理的条件を整えることができた。また、パフォーマンス評価として、早稲田大学 田辺研究室の協力の元、p-ツールと呼ばれる実務能力評価用ソフトの採用及び自律神経評価機器を導入し、被験者を使った測定を可能とした。 以上の研究により、当初目標とした臭気環境と各種健康指標との関係を得ることができた。特に、臭気対象物質としてアンモニア及びイソ吉草酸の2種類を用いたが、両方の物質とも約2.5~3と同等の臭気強度としたものの、成分の違いによって、疲労、作業パフォーマンスが異なるという知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画における次年度推進内容は、介護環境下における疲労調査であったものの、具体的な問題解決方法を導く方向性に転換することとし、最終目的として、介護環境下では臭気を完全に除去できないという前提の元、臭気環境下においても健康に影響を及ぼさない建築的手法を明らかにすることとする。例えば、他の香り物質によるマスキング、臭気強度を低下させた場合の健康影響及び人の意識が悪臭に向かわない場合における健康性への影響の緩和の可能性などによる効果を明らかにする。このため、今後の研究の推進方策として、以下の検討を進める。 1)臭気環境下において健康影響を緩和することが可能な最新の研究動向を収集する。 2)1)を元に様々な角度から新規技術の方向性を決定 3)悪臭環境下において新規技術を加えた際の健康性に及ぼす影響を被験者を用いて明らかにする。 以上の推進を行うことで、最終年度に作業パフォーマンス及び疲労への影響とその改善技術の提案に関してまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画として、昨年度の研究成果を日本建築学会(札幌)に発表するために研究費を使用する。また、今後の研究の推進方策に示した活動を推進するために、最新の研究動向を直接収集することを目的として、新たな問題解決方法に関する諸外国の取り組み事例を得るためにプラハで行われる国際学会(CLIMA 2013)に参加する。 また、これら最新情報を分析したうえで、臭気環境下においても健康に影響を及ぼさない建築的手法を明確化し、これに関する技術試作を行う。この技術試作のために研究費を使用する予定である。 加えて、健康性への影響評価に関しては、多人数での同時評価を実現する必要があり、昨年度本研究の使用目的で購入した自律神経評価システムに加えて、製造元から複数台の評価システムをレンタルすることで適切に研究を推進する。更には、松江高専倫理審査委員会の承認を行った上で研究を推進する必要があるが、この際、被験者に対して定められた対価を支払うことが重要である。この被験者への対価のために研究費を使用する予定である。最後に本研究成果を国際学会に発表するための論文の校閲に関して、外部へ発注する費用を予定している。
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Research Products
(1 results)