2013 Fiscal Year Research-status Report
明治宮殿造営組織の建築技術者の経歴と近世大工組織との関連性
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24560788
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
小澤 朝江 東海大学, 工学部, 教授 (70212587)
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Keywords | 皇居造営事務局 / 建築技術者 / 大工 / 図工 / 明治宮殿 / 雛形 |
Research Abstract |
本研究は、近代初の一工事専従の国家的組織である皇居造営事務局について、建築技術者のうち大工出身者に注目し、人員編成における近世の大工組織との関係を明らかにするものである。平成24年度は、宮内庁書陵部所蔵の職員記録・履歴書等を基にデータベースを作成し、製図等の実務に当たった図工の任用状況を検討した。 平成25年度は、まず第一に、上記のデータベースを用いて専任技術者の検討に着手し、特に京都出身者および明治維新を主導した毛利藩・薩摩藩出身者を中心に経歴を検討した。皇居造営事務局において明治15年(1882) 設置~20年廃局に在籍した専任技術者70名のうち、京都出身者は13名で、明治2年以前に会計官営繕司に採用された7名と、明治10年代に宮内省に採用された6名に分かれる。前者は木子清敬のほか大徳寺大工の林準次郎、室町幕府御大工の末裔・池上宗孝らが該当し、会計官営繕司は慶応4年に禁裏修理職から組織替えしていることから、禁裏修理職の大工がそのまま異動したとみられるが、後者は織田仙吉など多くが図工から昇進しており、町大工の出身と推測される。一方山口出身者4名は、佐伯種知(清之丞)は藩御大工頭、中谷市左衛門は嘉永2年(1749)の明倫館増築に名があり、明治10年代に工部省技手見習で採用されており、藩大工と禁裏修理職は異なる採用経緯を採ったことが判明した。 第二に、雛形(模型)製作に関与した技術者について、宮内庁書陵部蔵『皇居造営録』『皇居御造営誌』の「仮設物雛形」「雑品」により検討した。雛形に関与した人員は大工3957人・鳶535人等で、図工の記載が無いのは本体設計に含まれたためと考えられる。これら職人が関与したとみられる東京国立博物館所蔵謁見所雛形および西溜ノ間上家雛形(九州国立博物館保管)について調査を行い、設計検討過程や組織との関係を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
専任技術者のうち、京都・山口・鹿児島出身者については、宮内庁所蔵の履歴書による検討および近世史料との照合もほぼ終了した。今後は、同様の手法により幕府作事方出身者を対象に、履歴書の検討を継続する。 また、雛形製作に関しては、本体設計と同一組織で行われたこと、鳶・大工など建築職人が多数関与したことが明らかとなり、現存する2体の雛形について設計過程との関係性を明らかにした。この成果については「東京国立博物館所蔵の明治宮殿関連雛形について」と題して日本建築学会技術報告集に投稿し、平成26年6月号への掲載が決定しており、順調に研究が進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
藩大工と禁裏修理職との採用経緯の相違をより明らかにするには、前者について新たに宮内省異動以前の工部省当時の史料を検討する必要がある。明治前期の工部省の職員の異動等については、国立公文書館の『太政類典』に文書がまとめられており、例えば佐伯種知については技手見習当時の徴兵免除書類により、履歴書に残る明治12年の技手見習採用以前、既に明治9年7月から仮皇居謁見所工事で採用されたことが判明する。また、『皇居造営録』『皇居御造営誌』に履歴書が無い人物について、宮内庁書陵部所蔵史料の範囲を広げて探索し、新たに幕府作事方出身とみられる技術者も含めて出自を検討する。 一方、課題として残る皇居造営事務局廃局後の図工の異動については、『官員録』等のデータベース化を行う。 以上を整理して、皇居造営事務局の建築技術者の任用・編成傾向を分析し、江戸期の大工組織との関係を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、上半期が研究休暇期間に当り、滋賀県立大学を受入先として京都市内に滞在して研究を行った。このため、京都府立総合資料館等の調査に要する予定の旅費が大幅に軽減され、かつ資料整理に当たる研究補助者が半期雇用できず、謝金も軽減された。ただし、研究休暇期間に研究に専念できたため、進捗状況に影響は無い。 「今後の研究の推進方策」で述べた通り、宮内庁史料に加え、新たに工部省史料の分析を行う必要が生じ、『官員録』等のデータベース化も含め、データ入力に従事する研究補助者が必要とされる。かつ、薩摩藩については、平成25年度に現地調査を実施しておらず、その旅費も予定している。 日本建築学会技術報告集への論文掲載料(約7万円)も研究が進捗したために生じた支出であり、以上を平成26年度に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)