2012 Fiscal Year Research-status Report
日本統治期朝鮮半島における社会事業関連施設の空間形態と社会的応答
Project/Area Number |
24560793
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima International University |
Principal Investigator |
砂本 文彦 広島国際大学, 工学部, 准教授 (70299379)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 朝鮮半島 / 社会事業 / 施設 / 日本統治期 / 空間形態 |
Research Abstract |
本研究は日本統治期朝鮮半島で整備された公共洗濯場、公設市場、公設浴場等、社会事業関連施設の空間形態と整備に伴う社会的応答について扱うものである。これまではその量的側面のみが着目されて、植民地近代化の成果ないしは文化侵略だったと語られてきた。だが、実際には生活や社会の変化に伴う「困惑」の増大と、為政者や名望家の目論みや現実的「対処」が合一化したことでもたらされた整備が多い。そもそもその空間形態は不明で、空間形態が地域社会にもたらした影響も明らかではない。例えば、元来洗濯を通じて河川に向いていた共同体意識が、高地に上水利用の公共洗濯場が設置されたことで地域社会までも再編した事実を考えてもそれはわかる。空間の近代とは、社会要因と空間形態の応答としてある。本研究は、こうした社会事業関連施設の空間形態を巡る「困惑」と「対処」等、近代特有の応答関係に視点を定めて、植民地空間の位相を浮かび上がらせるものである。 平成24年度は、まず既往研究と資料の整理、研究対象の定義を行った。社会事業関連施設の定量的把握と類型化を、『戦前・戦中期アジア研究資料1 植民地社会事業関連資料集』や各種統計資料に加え、行政要覧から行った。「官」による事業のみならず、民間事例の収集も新聞通覧により実施し、次年度も継続する。本調査は主に韓国や国内の文献所蔵先で行ったため、研究出張を実施した。また、社会学系、歴史学系の既往研究のレビューを進め、研究枠組みの設定をし、社会事業関連施設の定義を行った。 次いで空間形態の分析事例を選定するため、雑誌『朝鮮社会事業』の全冊購入を行うことにした。本誌は日本統治期にわたって記録されたレコードであり、復刻版が市販されている。事例選定においては手元に同雑誌が蔵書としてあり、比較考証をすすめることが有効であるため全冊購入を計画し、まずはシリーズ三分の一程度を購入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は韓国での文献・現地調査等をすすめたことで、日本統治期朝鮮半島における社会事業関連施設のおおよその状況を把握した。また、比較視点を得るために日本内地における社会事業施策と社会事業施設の展開についての基本文献、学術研究書を収集した。 研究対象とする社会事業関連施設の定義、研究事例選定のための検討など、現在までの達成度はおおむね順調である。ただ、当初計画では事例選定20箇所を見いだしていたはずであったが、雑誌『朝鮮社会事業』全冊購入を行っての比較考証を経ての事例選定とすることから、この点は作業を次年度に持ち越す予定である。また、平成24年度は雑誌『朝鮮社会事業』の復刊本シリーズの三分の一ほどを購入し、再度、詳細な文献調査を行う段取りを行ない、残り三分の二については次年度に購入をすすめていく。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、平成25年には資料の整理を行う。『戦前・戦中期アジア研究資料1 植民地社会事業関連資料集』(近現代資料刊行会)や各種統計資料、行政要覧の調査はほぼ終わっており、新聞の通覧調査は継続する。また、官公庁実施の社会事業の総体を把握するために、官公庁組織の編成についても研究を行う。社会課、社会局といった独立部局の人員、予算、事業内容についても把握する。さらに、社会事業は外郭団体(社会事業協会等)を通して管理を行う場合もあったことから、外郭団体についても把握を行う。日本語新聞のみならず、韓国語新聞にも目を配ることで、事例収集の最大化を図る。官・民合わせた総枠の把握こそが、本研究で扱う個別事例の正確な把握と分析に重大な影響をもたらすため、調査は時間をかけて実施する。 次いで、選定事例の空間形態の考察を行う。資料収集とともに分析に比重を置いていく。とりわけ地域史関連の資料収集を進める。また、現地調査を織り交ぜながら比較考証の視点を得る。文献偏重に陥らないよう、現地での目視確認、ヒアリング調査を実施して確度を高めるとともに、当時の社会背景や社会との応答関係を探るための調査も同時に行う。これら調査では韓国への研究出張、国内での文献調査を計画している。 年度末に向けて、研究成果の整理と研究計画と照らした課題の抽出・修正対応を行ない、論文執筆に向けての準備をすすめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
資料収集と資料整理に時間をかけたため韓国での現地調査回数が減少し、雑誌『朝鮮社会事業』の市販シリーズの三分の一程の購入を行ったため、当該助成金が生じた。次年度は、雑誌『朝鮮社会事業』の残りの未購入巻号の購入にこれを充てるとともに、当初計画通り韓国での現地調査、文献調査ならびに国内での文献調査を行う費用に充てる。
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