2012 Fiscal Year Research-status Report
磁気科学的手法によるセメンタイトの磁性の解明およびその析出挙動の制御
Project/Area Number |
24560804
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
寺井 智之 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20346183)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 磁場配向 / 強磁性体 / 鉄鋼材料 / 磁気科学 |
Research Abstract |
電解抽出法ならびに歪焼鈍法を用いてセメンタイト単結晶粉末および炭素過飽和フェライト単結晶を作製し、それらの試料を用いてセメンタイトの磁性およびフェライトにおける磁場中配向析出について調査した。 その結果、セメンタイトのキュリー温度および自発磁化の値を正確に決定(Tc=484K、1.80μB/Fe atom)することができた。さらに磁化容易軸を明らかにすることに世界で初めて成功し、それがc軸であることを示した。室温における磁化容易軸方向とそれに垂直方向の磁化曲線の測定結果より、磁気異方性エネルギーはKa=200kJ/m3、残留磁束密度および保磁力はそれぞれBs=0.16T、Hc=2.3kA/mとなり炭素鋼と同程度であることを明らかにした。また、自発磁化の温度依存性はJ=1の分子磁場近似とよく一致することから、セメンタイトの磁気モーメントは純鉄と同様に比較的よく局在していることが示唆された。 一方、炭素過飽和フェライト単結晶を用いた磁場中析出実験の結果より、フェライト単結晶内部の<111>方向に針状に析出するセメンタイトのうち印加磁場方向と磁化容易軸が平行になるセメンタイトの割合が増加していることが確認された。このことはフェライト中におけるセメンタイトの析出時に形状磁気異方性エネルギーよりも結晶磁気異方性エネルギーが低下する方向に優先的にセメンタイトが析出することを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標である、(1)電解抽出による純セメンタイト粉末の作製、(2)セメンタイト磁性測定、(3)炭素過飽和フェライト単結晶の作製、(4)炭素過飽和フェライト単結晶からの磁場中セメンタイト析出挙動の調査のうち、電解抽出法と機械的粉砕の粉砕の組み合わせにより(1)の単結晶セメンタイト粉末試料を作製、一方、歪焼鈍法により(3)の炭素過飽和フェライト単結晶を作製した。 次に目標(2)の達成のため、(1)によって作製された試料をエポキシ樹脂と混練して磁場中で固化させた。この磁場中固化により、樹脂内で単結晶粉末が回転し、磁場方向に磁化容易軸の向きが揃った試料が完成した。この試料に対してX線回折および磁化測定を行うことにより、セメンタイトの正確な磁気的性質を決定した。 最後に目標(4)の達成のため、(3)にて作製に成功したフェライト単結晶を磁場中で熱処理してその試料表面をSEM観察することに、磁場印加方向とそれに垂直な方向へのセメンタイト析出量に有意な差が現れることを見出した。 以上より本年度の目標(1)-(4)はすべて達成されており、本研究は計画当初の予定どおりに進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度において得られたセメンタイトの磁性および析出挙動に関する知見をもとに次年度は以下の項目について研究を行う。 (1)回転磁場を利用したセメンタイト粉末の3 軸配向および磁化測定 電解抽出により得られたセメンタイト粉末を樹脂中に分散し、その樹脂塊を超伝導マグネット内で回転させながら固化させる。このことにより樹脂塊には回転磁場が印加され、樹脂内のセメンタイト単結晶粒子のa 軸,b 軸,c 軸の3 軸の向きが互いに揃った状態で固化する。この試料に対して磁化測定を行い、3 軸それぞれの磁化率測定を行う。 さらに、磁場中配向させたセメンタイト粉末を用いて磁石を作製してその特性を調査する。セメンタイトと同一の結晶構造を持つFe3N が10kJ/m3程度の結晶磁気異方性エネルギーを有することから、セメンタイトも同程度の値を持つことが期待できる。この場合、ナノコンポジット磁石の軟磁性相の材料や、高い飽和磁化が必要かつ減磁が問題にならない用途(各種計器類・音響機器)への応用が可能か否かについて評価も行う。 (2)フェライト単結晶の機械的性質の調査 磁場中熱処理により特定方向にセメンタイトを配向させたフェライト単結晶の機械的性質を調査し、微細組織と機械的性質の関係を明らかにする。、微細組織と機械的性質の関係を明らかにする。さらに磁場中熱処理の温度および時間を変えることにより他の炭化物(εおよびχ炭化物)の析出過程についても調査を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究に用いるためのセメンタイト単結晶粉末およびフェライト単結晶の育成が当初の見積もりより早く作製できたため、試料作製のために購入を予定していた、金属および高純度ガス、溶剤、研磨材などの各種消耗品の購入量が少なくなった。そのため、本年度の研究に用いた費用が減少した。そこで本年度予算の剰余分について次年度の3軸配向実験および磁石の試作費に充て、より多くの実験データをとることを予定している。
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