2012 Fiscal Year Research-status Report
オキシ水酸化物をホスト相とした同時置換型の蛍光体の開発
Project/Area Number |
24560827
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐俣 博章 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 教授 (90265554)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永田 勇二郎 青山学院大学, 理工学部, 教授 (90146308)
小澤 忠司 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (90450288)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 結晶成長 / オキシ水酸化物 / 光物性 |
Research Abstract |
1.ガドリニウムのオキシ水酸化物をホスト相とし、発光中心としてユウロピウムイオンとテルビウムイオンを同時置換した結晶を合成し、その特性評価を行った。ホスト相は、自然光下では透明な結晶であるが、同時置換する元素の比率を変えて合成した結晶は、紫外線の照射により、赤色、朱色、黄色、緑色に発光した。これらの結果より、発光効率が異なるイオンを同時置換しても、組成により演色性の制御が可能であること、また極端な発光効率の低下が起こらないことがわかった。ここで演色性とは、ある物体に光を照射した際、その物体の色の見え方に影響を及ぼす光源の性質であり、蛍光体を利用する上で重要な特性の一つとなる。 2.通常の蛍光現象では、照射光のエネルギーの一部が物質中で熱になるため、照射光より発光波長が長くなる。これに対し、長波長光の照射により短波長の発光が起こる現象をアップコンバージョンといい、太陽電池の発電の高効率化や光医療への応用が期待されている。この現象を発現させるための基礎的な実験として、増感剤となるイッテルビウムと発光中心となるイオンを同時置換した結晶を合成し、その特性を評価した。その結果、赤外光の照射により、エルビウムイオンとホルミウムイオンで緑色、ツリウムイオンで青色の発光を確認した。ただし、これらの結果は極端に出力の大きいレーザを用いた評価であるため、実用レベルにあるとは言えない。今後、組成の制御などさらなる実験が必要になる。 3.ユウロピウムのオキシ水酸化物の結晶を合成し、その特性を評価した。その結果、低温において Van Vleck 常磁性と呼ばれる特異な磁化率の温度依存性を観測し、その詳細な評価・解析を行った。優れた永久磁石材料の開発のためには、各ランタノイドイオンの持つ本質的な磁気的性質の解明が必要不可欠であり、本研究成果はその一端を担うものになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ランタノイドのオキシ水酸化物をホスト相とした新しい同時置換型の蛍光体の開発を目的としている。独自に開発した合成手法を駆使して、異なる元素を同時置換した結晶の合成を行い、得られた良質な結晶を用いて、蛍光特性などの物性評価と解析を行っている。 研究実績に記載したとおり、平成24年度に、発光中心としてユウロピウムイオンとテルビウムイオンを同時置換した結晶の評価において、発光効率が異なるイオンを同時置換しても、極端な発光効率の低下を起こすことなく演色性の制御が可能であることを明らかにした。また、アップコンバージョンを発現させるために必要となる、増感剤(イッテルビウム)と発光中心(エルビウム、ホルミウム、ツリウム)を同時置換した結晶の合成にも一部成功し、赤外光レーザの照射による可視光発光を確認した。ただし、これらの同時置換型の結晶の合成においては、その合成条件の最適化が非常に難しいことが明らかになった。特に合成温度の制御が重要であり、数度の制御が合成結果を大きく左右し、一部の組成においては必ずしも良質な結晶が得られていない。このため、各組成の結晶における合成条件の最適化には、今後もある程度の期間が必要となることが予想される。しかし、一部の組成の結晶合成には既に成功しており、今後の進展が期待できる。 また、ユウロピウムのオキシ水酸化物の良質な結晶を合成し、その Van Vleck 常磁性の評価・解析にも成功した。さらなる解析のためには、同時置換型の結晶の合成が必要となるが、そのための合成条件の最適化には、ある程度の期間が必要になると予想される。 以上のように、結晶合成の困難さはあるものの、当初目指していた研究成果がほぼ得られていることから、平成24年度については、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に得られた研究成果を基にして、同時置換型の蛍光体の開発を継続して行う。異なる発光中心を同時置換した系における評価については、ジスプロシウムなど本ホスト相における新しい発光中心の導入を試みるとともに、さらなる演色性の制御を試みる。また、引き続きオキシ水酸化物をホスト相とした物質群において、長波長光を短波長光に変換する技術であるアップコンバージョンの発現を試みる。さらに、非磁性元素であるイットリウムやランタンのオキシ水酸化物をホスト相として、ユウロピウムイオンまたはサマリウムイオンを同時置換した希釈系結晶を合成し、その磁性について詳細な評価・解析を行う予定である。これらの同時置換型の結晶を合成するためには、各組成における合成条件(特に合成温度)の最適化が不可欠であり、ある程度の期間が必要になることが予想されるが、これまでに得られている成果を基にすることで、目的とする組成の結晶が合成可能と考えている。 合成した結晶に対しては、X線回折とそのデータを用いたRietveld法による結晶学的性質の評価、ICP発光分光分析装置による組成分析、蛍光分光光度計と絶対PL量子収率測定装置による蛍光特性の評価、超伝導量子干渉素子磁束計による磁気的性質の評価を行う。特に、蛍光特性では、赤外光照射時のアップコンバージョン特性を中心に評価する。以上の内容により、オキシ水酸化物をホスト相とした新しい蛍光体の開発を目指す。 研究成果については、学術雑誌、国内の学術講演会及び国際会議において発表するとともに、大学・学会などで企画されるシーズ発表会などを通じて産業界へ発信する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度からの繰り越し金(22,882円)については、結晶合成に用いるランタノイド原料の購入(消耗品費)としての使用を予定している。
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