2012 Fiscal Year Research-status Report
超伝導性黒鉛層間化合物の新展開~CaC6の解析からMgCx等新化合物の創製へ~
Project/Area Number |
24560830
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Polytechnic University |
Principal Investigator |
松本 里香 東京工芸大学, 工学部, 准教授 (30338248)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 黒鉛層間化合物 / 超伝導 / CaC6 / MgC6 |
Research Abstract |
H24年度の実施計画は、[1]物性測定用GIC試料の合成、[2]77K~室温用物性測定装置改良と測定、[3]4K~室温用測定装置製作、であった。都合により、[3]の本格的開始をH25年度以降にずらし、H25年度以降に開始する予定であった「新規超伝導性GICの創製」の主要部分である[4]Mg-GICの合成、に着手した。 [1] GrafoilおよびPGSをホストとして、Ca-GIC、Ca-Li-GIC、Li-GICおよびK-GICを合成した。X線回折の理論計算を取り入れ、Ca-GICとCa-Li-GICの詳細な組成決定を可能とした。これにより、従来法でCaC6と同定した試料の中にも微量のLiが残存することが判明した。また、Liの残存程度はホスト黒鉛に依存することも明らかとなった。 [2] Ca-GIC、Ca-Li-GICおよびホスト黒鉛の77K~室温の物性測定を行なった。c軸方向の測定も開始したが、Grafoil系試料の場合は、測定ホルダー内で加わってしまう圧力により値が変化することが明らかとなった。 [3] 4K~室温の電気抵抗率測定装置の構築を始め、調整と予備測定を行なった。超伝導転移温度を調べるため小数点以下1桁の精度の温度測定が必要であるが、予定していた熱電対での実現は困難と判断し、抵抗温度計を採用することとした。この改良はH25年度に実施予定である。 [4]気相法によるMg-GIC合成を試みた。Mg粒とPGSを真空下400℃-850℃に加熱した結果、X線構造解析ではMg-GICの形成は確認できなかったが、600℃前後で加熱した試料で大きなゼーベック係数が観測された。挿入量が僅かであってもゼーベック係数には大きな変化が生じることを確認済みなので、期待している。ただし、熱・電気伝導率の値が一定しない等の問題もあり、慎重に検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度としては順調な達成状況であると判断できる。 研究を手伝ってくれる卒業研究生の興味を尊重し、上記[4]のMg-GICの創製を前倒しして実施した。その代わり、[2]の77K~室温用物性測定装置改良と測定が遅れてしまっているが、合成する試料が揃っているので、H25年度以降は、順次、実行していきたい。 本研究の主要部分でもある[3]の4K~室温用測定装置製作は予定よりも若干遅れている。理由としては、9月頃を想定していた装置の納品が、関連装置の手配や研究室の電源工事の遅れなどのため、12月になってしまったことにある。本研究では、Ca-GICが超電導転移を起こす10K前後の測定が要となるが、納品装置では10K前後の温度が安定しないことが判明した。これは、装置制作業者の設計ミスであったため、H25年の5月~6月にかけて業者による改良が行なわれる予定である。 [1]の測定用試料の合成に関しては、Yb-GICの合成に着手できなかった。これは、Ca-GICとCa-Li-GICの同定法の検討(X線回折の理論計算を利用することで解決)に時間を要してしまったことによる。また、HOPGをホストとした試料もストックされていない。これは、非常に高価なHOPGの利用を必要最小限に抑えるため、測定状況に応じて、その場で合成するように変更したためである。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、申請書の通り進める予定である。ただし、H24年度の結果を踏まえ、調整を行なう。 [1] 試料合成に関しては、Yb-GICの合成に着手する。これは未経験の合成となるため、文献調査から開始する。また、測定が本格化してくるため、試料の消費も進むので、効率よく均一組成の試料が合成できるように、反応管の改良等も行なっていく予定である。 [2] H24年度に遅れてしまった77K~室温用物性測定装置改良と測定を進める。特に、興味深い結果の出ているc軸方向の電気伝導率に関しては、高精度の測定を可能とするための測定方法の改良策を講じる予定である。また、H24年度に予備的に行なったCa-GICの電流磁気効果測定結果より試算した結果、Ca-GICの電子(正孔)密度が予想される数値よりも小さいことが判明した。ただし、Ca-GICは分解が速いことや組成均一性が低いことから、H25年度は、測定精度を向上させ、さらに測定データを蓄積する予定である。 [3] 4K~室温用測定装置製作と測定に関しては、H24年度に明らかになった問題点の改良を8月までに終了させ、9月からは本測定を開始したい。 [4] Mg-GICの合成に関しては、先行したH24年度に興味深い結果が得られているので、引き続きこの真偽を確かめることから始める。また、現在、極低濃度でインターカレートしたGICを同定する確実な方法はない。ゼーベック係数が最も敏感であることは確認しているが、ダブルチェックを行うために、他にももう一つ検出方法を確立したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主要装置はH24年度に導入済みであるので、H25年度以降は消耗品支出が中心となる。具体的には、試料合成用の試薬、不活性ガスや冷媒(液体窒素)、測定装置改良のための部品類、物性測定で必要となる電子部品や金属線、導電性ペースト等、および、温度計測等で必要となる小型の機器備品(デジタルボルトメータ等)である。 また、H25年度に参加を予定していた国際学会Carbon2013(ブラジル)は大学の業務日程との都合がつかなかったため参加を見送った。その代わり、国内で行なわれる国際会議ISIC17(仙台5月)およびICT2017(神戸7月)に参加予定のため、その旅費の一部に充填したい。 H26年度以降も、上記のような消耗品費、および、出張旅費が中心となる。
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