2013 Fiscal Year Research-status Report
ラテックスと無機粒子のヘテロ凝集制御による液相からのナノ粒子配列構造体の直接作製
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24560837
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
棚橋 満 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (70314036)
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Keywords | アクリルラテックス / 無機ナノ粒子 / ナノコンポジット / ヘテロ凝集 / 分散安定性 / フィルム化 / 均一分散 / 微構造 |
Research Abstract |
出発原料であるアクリルラテックスと無機ナノ粒子の混合水分散系の分散安定性制御とラテックスの造膜特性(フィルム化)の活用による新たなアクリル樹脂/無機系ナノコンポジット簡易調製法確立を目指し,平成25年度は交付申請時の計画ならびに前年度の研究進捗状況を踏まえて,以下の研究を実施した。 原料粒子混合分散系が静電反発によりヘテロ凝集を起こさないpH条件に制御して,ラテックスのフィルム化に対する最適な原料分散系の濃縮・乾燥条件の探索を行った。さらに電子顕微鏡観察による得られるナノコンポジットの無機ナノ粒子分散性を評価し,粒子分散相の微構造を決定する支配因子を検討した。とりわけ後者の検討では,安定な原料水分散系の濃縮時に無機ナノ粒子がアクリルラテックス間に閉じ込められる状態でラテックスの規則配列が進行することから,無機ナノ粒子によるラテックス一粒子当たりの表面被覆の程度が,無機ナノ粒子分散相の微構造に影響を及ぼすことが分かった。低被覆率の条件では,近接するラテックスは十分な面積の露出面を有しているためフィルム化が進行し,前年度の成果である無機ナノ粒子が一次粒子単位で均一分散したナノコンポジットとなる。高被覆率になると,近接するラテックス間の接触が表面を被覆している無機ナノ粒子により妨げられるため部分的なラテックスの融着(不完全なフィルム化)にとどまるため,無機ナノ粒子の連珠構造を呈する微構造(無機ナノ粒子のオープンセル型連続相)が形成された。さらに被覆率が高い条件では,ラテックス同士の接触が完全に遮断されるため,アクリル樹脂相が原料粒子形状のまま無機ナノ粒子連続相と複合化した微構造(無機ナノ粒子のクローズドセル型連続相)を形成した。この結果より,提案技術は,均一分散型からネットワーク構造型まで幅広く分散相の微構造を制御したアクリル樹脂系ナノコンポジットを調製可能であることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した当初の計画では,本年度は,ラテックスの均一なフィルム化を実現する原料分散系の濃縮乾燥条件の最適化と電子顕微鏡観察によるナノコンポジットの無機ナノ粒子分散性の評価を行うことが主たる研究内容であったが,前者については,一定の加熱条件による原料水分散系の濃縮・乾燥ではなく,この過程における粒子の充填構造形成メカニズムに着目した二段階加熱を提案することで,低コスト化,省エネルギー化といったプロセス生産性の向上につながることを発見するなど,当初の計画通り着実に成果を得ることができた。後者については,当初の計画の無機ナノ粒子分散相の分散性評価にとどまらず,先の「研究実績の概要」欄にて報告した通り,提案技術を用いたアクリル樹脂系ナノコンポジットの調製においては,均一分散型からネットワーク構造型まで幅広く無機ナノ粒子分散相の微構造の制御が可能であることを明らかにし,水分散系の調整条件を変化させることで,使用用途に応じた機能性ナノコンポジットの創製が容易に実現できる可能性を見出した。例えば,電気伝導性・熱伝導性に優れた無機ナノ粒子分散相を3次元網目状連続相(伝導パス)とすることで,電気・熱伝導性を兼ね備えた透明アクリル樹脂を創製することができ,ユニークな機能を有する新規光学樹脂材料としての適用を見据えた応用研究への展開が期待される。この当初想定していた提案技術の優位性以外の分散相の微構造制御が可能であるという予想外の知見については,成果を発表した学協会からも高く評価され,優秀発表賞や最優秀発表論文賞の受賞実績につながっている。このような学協会からの評価実績も考慮して,本年度の本研究の達成度を計画以上に進展しているものと自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究成果から,提案技術におけるアクリル樹脂/無機系ナノコンポジット調製条件探索として,加熱濃縮工程における原料分散系の安定性維持の必要性の確認ならびに微構造支配因子の解明が実施済みとなった。したがって,最終年度である平成26年度においては,当初の予定通り,調製条件を変化させて調製した無機ナノ粒子分散相の微構造を制御した各種アクリル樹脂系透明ナノコンポジットの光学特性や耐熱性等の熱特性を評価し,光学用途への適用の可能性を検討する。さらに,提案技術のさらなる優位性として期待される基材へのコンポジット膜のオンサイト製造の可能性を検証すべく,フィルム化を繰り返して多層階層構造を有するナノコンポジットの調製も試みる。具体的には,コンポジット膜の分散ナノ粒子の種類だけでなく分散相の微構造をも膜厚さ方向に徐々に変化させた傾斜材料の簡易調製に取り組み,平成24年度から得られた知見と総合して,本提案研究の最終目標であるガラス代替軽量透明材料の高機能化の達成度を評価軸とした成果のとりまとめを行う。
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