2013 Fiscal Year Research-status Report
六方晶マグネシウム基合金の低積層欠陥エネルギー化による高強度化とその学理
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24560856
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Research Institution | Toyama Prefectural University |
Principal Investigator |
鈴木 真由美 富山県立大学, 工学部, 准教授 (20292245)
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Keywords | 積層欠陥エネルギー / マグネシウム合金 / クリープ変形機構 / 拡張転位 / 非底面すべり |
Research Abstract |
希薄固溶体であるMg-0.3Y-0.02Zn合金に対し450~600Kの温度範囲,100MPa, 80MPaの応力にてクリープ変形挙動の調査を行い,そのクリープパラメータと変形組織観察から,本系合金のクリープ変形機構の同定と行った.クリープ試験の結果得られた応力指数および活性化エネルギーの値より,上記のクリープ条件でのクリープ変形機構は転位クリープであり、少なくとも480K以上では交差すべり律速の転位クリープであると推定される.変形機構が交差すべり律速から上昇運動律速に変化した場合,汎用マグネシウム合金を含む六方晶金属材料では活性化エネルギーが大きく変化するが,450Kまでのクリープ試験結果では大幅な活性化エネルギーの変化は認められない. 今年度新たに行った480K以下でのクリープ温度域において,組織観察試験の結果,480K以上では認められない多くの非底面上のc転位がクリープ変形後の組織に認められた.その一方で非底面すべりを生じるa転位の割合は明らかに低下していた.このような組織は希薄Mg-Mn合金やMg-Al固溶体合金の高温・高応力域で認められる組織と類似している.Mg-Y-Zn合金で認められたこの結果は従来の汎用・希薄マグネシウム合金とは逆の傾向である.このような変形を生じた理由として,積層欠陥エネルギーの低い本合金においてa転位の上昇運動は大幅に抑制されており,温度の低下によってa転位の非底面すべりが困難になったため,異なるすべり系が活動した可能性が考えられる.この変形はこれまで報告されている470K以下での純マグネシウムのクリープ変形機構とは明らかに異なっており,c転位の活動が実用温度域での本合金のクリープ強度を決定している可能性が実験的に示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年・25年度に計画した活性化エネルギーの実測値の変化を用いた変形機構の遷移の実測に関しては,当初の実験計画とは異なり,実験的に困難であることがわかったが,本年度新たに450K近傍で見出されたクリープ変形中の転位の活動様式は極めて重要であると考えられる.これは実験計画時には予想していなかった結果であるが,マグネシウム合金の低積層欠陥エネルギー化に伴って生じた独自の変形の素過程である可能性が高い.すなわちマグネシウム合金の低積層欠陥エネルギー化によって上昇運動による転位の回復速度が低下したことにより活性化した変形モードであると考えられる.これは前年度の研究によって得られた500K以上で認められるa転位の交差すべりと活性化の経緯としては類似であると考えられる.従って本合金の450K近傍およびそれ以下の温度でのクリープ変形機構を明らかにすることで,実用温度域での低積層欠陥エネルギー型マグネシウム合金の高強度化指針を提示出来ると考えられる. 当初の実験計画にあった,交差すべり律速におけるクリープの積層欠陥エネルギーの寄与のうち,活性化エネルギーの温度依存性の基礎データについては測定値の誤差が大きいことから温度パラメータを導入することが現時点では困難であるが,溶質濃度を変化させることでクリープ強度と積層欠陥エネルギーの相関については実験に基づいた相関の抽出が可能であると考えられる.従って本研究計画時のクリープ強度と積層欠陥エネルギーの相関については,500Kでの高温域について,温度パラメータが積層欠陥エネルギーに挿入されない形を取ることで実験的に構成方程式を作成することは可能であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年・25年度に計画した活性化エネルギーの実測値の変化による変形機構の遷移の観測は,本年度新たに明らかとなった480K以下での異なる変形機構の可能性により,実質上困難である.しかしながら450K近傍での変形機構の同定は極めて重要であると考えられるため,この点について平成26年度には重点的に研究を行う. 具体的には実際に活動する転位のすべり系を特定し,その寄与を検討する.本年度得られた組織観察結果からは活動するすべり系はc転位の柱面すべりと推定されるが,マグネシウムの変形においてはより大きなバーガースベクトルを持つa+cがまず導入し、その後a転位とc転位に分解するという報告もある.これらについては導入される各転位の構成率のひずみ依存性を調査すると共に,実験的により低温のクリープ試験を行う,組織凍結時の冷却温度を増加させるといった方向で,導入される転位の種類の同定を試みる.加えて,a+c転位やc転位の活動は底面aすべりに比べてより高い応力を必要とするため,応力依存性についても調査を行う.ただし,この方法は大幅なひずみ速度低下を招くおそれがあるため,低応力下での実験が測定精度的に困難である場合は,高応力側に実験条件を振り,a+c転位やc転位の活動をより活性化させる方向で検討する. 一方でTEM観察による転位の拡張幅からの積層欠陥エネルギーの測定については誤差が非常に大きく,積層欠陥エネルギーの温度依存性を実験的に明らかにするのは現時点では困難である.これについては測定データを増やすことで,今後も対応する.しかしながら高温では元素の拡散が速やかに生じると考えられるため,500K以上の高温度域については積層欠陥エネルギーの変化は小さいものとし,Zn濃度の変化に伴う積層欠陥エネルギーの変化から,交差すべり律速におけるクリープ強度の積層欠陥エネルギー依存性を検討する.
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