2013 Fiscal Year Research-status Report
表面ダイナミクスに依拠した炭素質感応膜の有機ガス応答過程の解明
Project/Area Number |
24560863
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Research Institution | Tokyo University of Technology |
Principal Investigator |
杉本 岩雄 東京工科大学, コンピュータサイエンス学部, 教授 (70350501)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 和彦 同志社大学, 理工学部, 教授 (90332808)
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Keywords | ニオイセンサ / ガス吸着 / 炭素質薄膜 / 表面 / プローブ顕微鏡 |
Research Abstract |
高周波スパッタリングによる炭素質薄膜作製に関して、スパッタ材料を多糖類に焦点をあてて探索した。アガロース、セルロース、カードラン、キチンはペクチン同様稠密カラム構造より成る炭素質薄膜を生じた。カルボキシル基を有するアルギン酸は分解が激しく成膜できなかった。 これらの炭素質薄膜を被覆した水晶振動子をインピーダンス解析したところ、主共振に加えて微小な副共振が高周波側に認められるものが多かった。セルロース膜は緻密な構造より成るため副共振が抑制されQ値が高かった。また、エタノールやブタノール(200ppm)を吸着することでQ値が低下し、コンプライアンスや抵抗(内部摩擦によるエネルギー損出)は上昇する傾向が見られた。膜の軟化が示唆される。 ガス吸着状況下におけるガス吸着膜表面の状態をプローブ顕微鏡(SPM)により解析すべく、水蒸気の発生装置を自作しSPMチャンバー内の相対湿度を0~50%の範囲で調整できるようにした。稠密カラム構造より成るペクチンスパッタ膜表面の表面電位測定を行ったところ、表面電位は水蒸気導入により、相対湿度30%以下の低湿度では-600~-900mVの範囲内でほぼ安定化する。これは基板であるSiより大きく負側にシフトしており、吸着水の影響が示唆された。 VOCガスの発生は、窒素をキャリアとしたガス拡散管法に依り、1000ppmになるよう調整した。水・エタノール・2-プロパノール・酢酸エチル・シクロヘキサン・ヘキサン・ジエチルエーテルをガス源とした。DFM測定より、極性ガス吸着で相互作用が増大し、非極性ガスでは減少する傾向が認められた。KFM測定より、VOCガス吸着によりおしなべて、負電位にシフトするが、極性ガスほど顕著になる。これらのVOC吸着による電位変化は、VOCガス分子の屈折率・誘電率・分極率など外部電場に対する感受性と正の相関があることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
高周波スパッタリングによる成膜条件の策定には、スパッタリングに利用できる入手容易な8種類の多糖類およびタンパク質を選び出し、研究代表者が休日を返上して取り組んだ。また、インピーダンス解析に関しては、卒研生を1名担当させたが、モチベーションの低さから期待した進展は見られなかった。しかし、熱心に指導した結果、装置の立ちあげ、ガス発生器の組み込みなど測定環境を調えることができた。また、実際アルコール類のガス吸着により、本研究で注目している稠密カラム構造を有する炭素質薄膜が軟化し、振動摩擦が増大していることを示唆する情報が得られた。 プローブ顕微鏡観察に関しては、平成25年度初めから装置の不具合のため、7月に修理が完了するまで滞っていた。さらに担当する博士過程の学生が、体調不良のため7月より年度末まで休学した。この窮地を打開すべく、実験講師をあてがい研究を遂行した。このための謝金が直接経費の支出にのしかかった。平成26年2月より、無償にて実験室に供給されていた窒素ラインが停止することになった。理由は、大学内の共通設備としての大型液体窒素タンクの老朽化によるもので、新しいタンクに交換することはしない措置が大学側でとられた。2~3月は実質上実験が出来ない状況であった。今後必要な場合は、ボンベにて各研究室で対応するよう求められ、次年度よりそのようにする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
①インピーダンス解析の進展: VOCガス吸着により誘導される水晶振動子式センサの振動特性の変化をインピーダンス解析により明らかにする。この変化は感応膜における粘弾性の変化に対応しており、感応膜の膜構造の特徴とVOCガス分子の特徴とを関連させて解析を進める。また、スパッタリング由来の膜に限らず、他の特徴的な構造を有する薄膜(蒸着膜やウェットコート膜)との比較を通じて、理解を深める。例えば、アミノ酸蒸着膜は粒塊が緻密に集合した層状構造を有することが分かっている。 ②表面吸着水存在下におけるVOCガス導入による表面物性変化の追求: プローブ顕微鏡(SPM)に係る表面物性値(表面電位や位相シフト量)とVOCガスの分子記述因子との関連性を構造物性相関により明らかにし、ガス吸着により誘導される表面物性変化を膜構成組織レベルで整理・把握する。また、実環境において常に存在するものと想定される表面吸着水はVOCガス種によっては収着サイトでもあり、かつまたブロックサイトでもあり得る。この表面吸着水の表面物性に及ぼす影響をSPM測定により明らかにし、新たなVOCガスセンサ開発の礎になるようにしたい。 ③センサ応答のシミュレーション: VOCガスの表面吸着から膜内部拡散にいたる収着現象を、実環境を想定した表面吸着水を関与させてシミュレーションを行う。また、VOC源からの空間伝搬(拡散)課程を組み合わせて、よりリアルな系を設定した解析を行いたい。膜表面における到達VOC分子と吸着水分子との相互作用に関するダイナミクスの記述に焦点をあてたい。また、VOCガスが表面吸着水へ溶解する(親水性ガス)場合と、溶解しない(疎水性ガス)場合とに分離して解析を進めたい。さらに表面吸着水の表面被覆率と組み合わせて検討を加える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
価格の値下げにより差額が発生したため。 実験遂行のための人件費(謝金)および国際会議のための旅費として使用する予定。
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Research Products
(1 results)