2013 Fiscal Year Research-status Report
材料の強度特性・破壊予測を目指した放射光X線によるミクロ組織イメージング法の構築
Project/Area Number |
24560869
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 成男 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (40509056)
|
Keywords | 金属組織解析 / ミクロひずみ解析 / X線回折 / ラインプロファイル解析 / 放射光 |
Research Abstract |
金属構造体の加工強化、破壊などの材料強度特性予測をめざし、転位、残留応力などのミクロ組織パラメーターの2D分布解析法の開発を目的とする。この解析にはX線回折における回折指数による非等方的なピーク拡がりやピークシフトを解析する。構造体内部の情報をミクロ領域で評価することが必要であるため、マイクロビームX線を利用した測定法構築が不可欠になる。H24年度は高エネルギー白色X線を利用したエネルギー分散型X線回折法による測定システムの構築を実施した。残留応力と転位の構造体内部の分布状態を解析する成果を得たが、逆空間分解能の限界による試料制約が生じた。そこで、H25年度は「高分解能化」をキーワードに放射光のアンジュレーター高輝度線源を利用した角度分散型X線回折法によるラインプロファイル解析システムの構築を実施した。 角度分散型X線回折法では角度分解能の高分解能化により、測定に対するステップが小さくなる。このため通常の測定法では長い測定時間を要し、マッピング測定には適していない。そこで、PILATUS-2次元検出器をスキャンし、測定時間の大幅な短縮を行った。実際の測定では2台の検出器を同時に走査し、さらなる測定時間の短縮を行った。 本研究では伸線加工パーライト鋼を測定対象試料とした。ワイヤ材(φ3mm)内部の転位密度分布を評価することに成功した。さらに高分解能化により転位密度の配置パラメーターが精確に決定され、転位dipole形成と塑性ひずみ量の関係が明らかにされた。また、伸線方向とその直交方向の転位形成の異方性も明らかにされた。これらミクロ組織パラメーターは回折計の高分解能化が実現されて初めて得られた知見であり、産学の材料解析にかかわる研究への波及効果が期待できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H25年度はH24年度で課題となった逆空間分解能の向上とそれに基づく材料解析を目標とした。そこで、高輝度線源を利用した角度分散型回折計の開発を行った。 実験装置はSPring-8 BL22XUのアンジュレーター高輝度X線源を利用した回折計とした。2台のPILATUS-2次元検出器を同時に走査し、3分程度の測定時間でフェライトの110から310の回折をカバーする光学系とした。ラインプロファイル解析では回折計由来のピーク拡がりをデコンボリューションする必要がある。一般にはLaB6粉末を標準試料として測定するが、粒径が大きいため、高平行マイクロビーム線源では回折リングを測定することが不可能である。このため、通常の方法では回折計由来のピーク拡がりをデコンボリューションできない。この問題を解決するため、CeO2粉末とLaB6粉末を併用した回折計由来のピーク拡がりの解析法を構築した。この方法は実験室系回折装置にてCeO2粉末の構造由来の拡がりをあらかじめ定義しておき、その結果をもとに放射光の回折計由来の拡がりを定義する方法である。この方法により、実試料に対する測定プロファイルに対し、構造由来プロファイルをデコンボリューションすることに成功した。 開発した測定・解析系を用い伸線加工パーライト鋼の解析を行った。エネルギー分散型X線回折法によるラインプロファイル解析では、逆空間分解能が高くはなかったため、転位の配置パラメーターの精度や転位密度のエラーバーは大きかった。一方、回折計の高分解能化を実現することで、これらミクロ組織パラメーターを精度良く求めることに成功した。 また、高温その場測定X線回折測定をトライし、高温下での時分割変化の可能性と課題を確認した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の主題は測定法開発と実用材料への応用である。これまでに「白色X線を利用したエネルギー分散型X線回折」および「高輝度マイクロビームを利用した角度分散型X線回折」によるラインプロファイル解析システムの開発に成功している。この測定法を動的な材料変化の状態に進展させ、また、鉄鋼材料以外の実用材料への展開を目指す。 材料の動的な変化については、高温下での転位の回復と残留応力の緩和現象の同時追跡を目的とした測定法構築を行う。高温下でのデバイワーラー因子による回折拡がりのデコンボリューションが課題となる。この問題については適切な標準試料の選択とそのデバイワーラー因子の定義から克服する予定である。それをもとに伸線加工パーライト鋼のひずみ時効と高温での転位の回復を解析を実施予定である。 また、実用材料へのさらなる展開として生体材料であるCoCrMo合金について解析を進める。CoCrMo合金の高延性・耐摩耗性は、塑性変形中に起こる熱間加工により導入された転位の運動と、それに起因したひずみ誘起γ(fcc)→ε(hcp)マルテンサイト変態に由来する。高密度の転位を含む結晶格子におけるマルテンサイト変態のkineticsを理解する場合、マルテンサイト変態そのものの観察だけではなく、結晶粒方位により変化する弾塑性ひずみ量、および転位キャラクターの変化を同時に観測する必要がある。そこで、CoCrMo合金の荷重変形下におけるマルテンサイト形成、相応力発達、転位形成をX線回折ラインプロファイル解析をもとにその場解析する。得られる知見をもとに引張変形中のミクロ組織変化をX線回折法により調べ、材料特性とマルテンサイト形成・転位運動の関係を明らかにすることを目的とする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度の研究成果を踏まえ、H26年度はJ-PARCにおける中性子回折による構造体内部のミクロ組織解析への展開を予定している。この研究実費として、次年度使用への予算配分を行った。 中性子回折引張ステージに搭載する試料治具の開発費用として、平成26年度請求額とあわせて使用する。
|