2013 Fiscal Year Research-status Report
二層凝集現象を用いた自己組織化ナノ構造薄膜の作製とその応用
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24560874
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神子 公男 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (80334366)
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Keywords | 自己組織化 / 微細加工 / ナノ材料 / 結晶成長 / 脱濡れ / ナノデバイス / 局在表面プラズモン共鳴 |
Research Abstract |
ナノ構造を特徴づける作製パラメーターが多岐にわたるため、本年度においても、スパッタリング法等用いて、多種多様な自己組織化ナノ構造薄膜を作製し、目的とする高密度・高機能ナノ構造薄膜の作製技術の確立、及び二層凝集現象における自己組織化(脱濡れ現象)の詳細なメカニズムの検討を行った。また、作製したナノ構造薄膜の光学特性を測定し、光学素子への応用を図る研究を行った。本年度の研究成果の概要を以下に示す。 1.シード層制御によるドットの構造制御ー 本作製プロセスの特徴である、遷移金属(Ti、Fe)シード層の膜厚等を制御することにより、貴金属凝集層(Au、Ag)の脱濡れにより形成されるナノ・ドットの大きさや密度、均一性が劇的に変化することが確認された。この結果は、シード層を用いる二層凝集現象の特徴であり、通常の単層凝集では起こりえない。 2.ナノ・ドット形成に至る詳細メカニズムの検討ー 二層凝集の場合、通常の凝集現象に比べ、薄膜の基板に対する脱濡れを促進させる効果がある。この主たる要因は、基板と凝集層の間にシード層を挟むことで、熱膨張による貴金属層の圧縮応力が増大することであると判明した。また、ドット化に至る凝集(脱濡れ)過程に関してより詳細に観察した結果、通常の固体凝集過程とは異なった現象が発生していることを見出した。特に、脱濡れ開始後に見られるホールのエッジ(端)部分を詳細に観測した結果、液体の凝集現象に近い要素が含まれていることが判明した。 3.ナノ・ロッドの作製と光学特性ー 表面が2回対称であるMgO(110)基板を用いて、形状の異なる多様なAgナノ・ロッドを作製し、その光学測定を行った。その結果、ロッドの長軸と短軸の長さに依存した二つの吸収ピークを得ることに成功した。また、長軸由来のピークが赤外光領域に存在するAgロッドも得られ、光素子として高機能性を有するナノ薄膜を作製できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、汎用性の高いスパッタリング手法等の薄膜作製法を用い、二層構造(シード層と凝集層)を有する薄膜の熱凝集(脱濡れ)現象を用いて、ボトムアップ型の自己組織化したナノ構造薄膜を作製し、その詳細なメカニズムを明らかにすることで、形成されるナノ構造体の形状や密度等の微細構造制御を行うことを主眼として研究を行っている。更に、作製したナノ構造薄膜の物性を測定し、光センサーや磁気メディア等への応用を目指した研究である。 研究期間内の具体的な目標は、(1) 二層凝集現象を利用し、自己組織化ナノ構造薄膜の成長制御と作製技術の確立、(2)均一性が良い高密度で高品質なナノ構造薄膜を、本手法を用いて作製し、光特性や磁気特性などの機能性の向上を図ることである。 平成25年度では、昨年度に引き続き、薄膜作製のパラメータを多岐にわたり変化させることにより、自己組織化ナノ構造体の表面の形状や密度等の微細構造の更なる制御に関して、成果を得ることができた。特に、本研究の特徴でもある、シード層の構造を変化させて、その上の貴金属凝集層の微細構造制御にも成功し、ドットの高密度化や高均一化に成功した。また、ナノ・ドット化のメカニズムついても、その形成過程のみならず、ドット化促進の物理的要因も明らかにすることができた。更に、作製した自己組織化ナノ構造薄膜、特に棒状の構造を持つナノ・ロッド薄膜の特異な光学特性を得ることができた。これらの結果は、光センサーやバイオセンサーへの本手法の更なる応用の可能性を示唆するものであった。 現在まで、海外共同研究者である韓国・光云大学の河在根教授のグループとの研究協力関係は有効に機能しており、研究目標と照らし合わせ、本研究は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
二層凝集(脱濡れ)現象をより詳細に考察するためには、作製したナノ構造薄膜の微細構造をより緻密に観測する必要がある。そのためには、透過型電子顕微鏡による膜の断面像やオージェ電子分光法を用いた微小領域の組成分析等、外注により得て解析を行うことも検討している。 ナノ構造体を用いたセンサーやデバイス等を広く応用する場合には、安価なシリコン酸化基板、ガラス基板等の結晶性の良くない基板を用いる必要がある。単結晶基板を用いて得られた知見を基に、これらの基板上に自己組織化されたナノ構造の発現を目指す。本研究では、貴金属凝集層としてAuやAgを用いている。AuやAgのナノ・ドットは、各々が特有の局在表面プラズモン共鳴波長を有している。それらの共鳴波長は、形状によっても変化するが、その組成比でも変化することが考えられる。本研究を用いると、容易にAuとAgの組成比を制御した合金ナノ・ドットが形成されると考えられる。この合金ナノ・ドットを本手法により作製する。また、この合金ナノ・ドットをシリコン酸化基板の上に作製し、その光学特性を測定する。 磁性材料としての具体例の一つ目として、ナノ・ドット化による垂直磁気異方性(PMA)の増大を目指した研究を行う。磁性材料をナノ・ドット化する(低次元化する)ことで、PMAの増大を目指す。均一性の良い高密度な表面ナノ構造薄膜(例えばAu/Fe/MgO(001))をテンプレート層として用い、その上に機能性薄膜(PMAを有するFePd(001)規則合金薄膜等)を蒸着させ、再度アニール処理を施すことで、上部機能層をナノ・ドット化を実現し、PMAの増大を目指す。 自己組織化ナノ構造薄膜の光特性や磁気特性に関して得られた結果を取りまとめ、研究成果の発表を行う。 本研究は、事業期間を通して韓国・光云大学の河在根教授(海外共同研究者)や芝浦工大の弓野健太郎教授と共に行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた理由は以下の通りである。 平成25年度は論文を複数投稿し、出版されたが、その際の論文校閲料と投稿料の一部を、海外協力研究者である韓国・光云大学の河在根教授が一部負担なされたため、その分の支出額(約5万円)が減少した。また、機器修理費用の一部を支出する予定であったが、平成25年度は機器修理の必要がなかったため、その分の経費(10万程度)が必要にならなかったからである。 二層凝集現象を用いた自己組織化ナノ構造薄膜の作製技術の確立のため、多種多様な試料を作製することが必要となる。そのため、多くの単結晶基板、高純度ターゲット、真空部品等を多く消費する。本年度も、これら物品費(50~60万円)がかかるものと推測される。作製した試料の微細構造を詳細に検討するため、必要であれば、透過型電子顕微鏡やオージェ電子分光法による膜の構造解析を外注(10~20万/試料程度)することも検討している。 本年度に引き続き、国内学界や国際会議に参加して本研究内容を発表する予定であり、本研究では、海外研究協力者である河在根教授との研究打合せを予定である。これら、国内・国外出張の費用の全額、及び一部の支出として、40万程度の支出を見積もっている。最終年度ということもあり、論文発表を複数行う予定である。そのため、論文校閲料と投稿料の費用として、15万程度の支出を見積もっている。
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