2013 Fiscal Year Research-status Report
高融点金属に高温耐食性を付与する新しい表面改質法の開発
Project/Area Number |
24560887
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
森園 靖浩 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (70274694)
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Keywords | 高融点金属 / 鉄粉 / グラファイト / 窒素 / 表面改質 / 炭化物 / 窒化物 |
Research Abstract |
モリブデンは,融点が2896Kと非常に高く,ニッケル基超合金よりも高温域で使用可能な合金の主要成分として注目されている。このモリブデンをはじめとするIV,V,VI族の高融点金属は,表面に安定な酸化皮膜が存在することから,従来のガス浸炭等によって炭化物層や窒化物層をそれらの表面に形成することは難しい。このため,プラズマ浸炭やプラズマ窒化等の適用が検討されているが,これらは専用設備が必要であり,また処理工程が複雑になる等の問題がある。これに対し,我々の研究グループでは,これらの高融点金属を鉄粉やグラファイトを主体とした混合粉末に埋め込み,窒素フロー中で加熱・保持するという従来の表面処理法に比べて非常に簡便な熱処理で,これらの金属中に炭素や窒素を拡散させ,表面改質できることを見出した(平成24年度研究実績)。以後,本手法を『鉄粉パック法』と呼称する。この場合,金属表面に形成される反応相の種類(炭化物・窒化物・炭窒化物)や形態(層状・島状)は,金属の種類によって異なることが特筆すべき点として挙げられる。そこで本研究では,炭化物が層状に形成されるモリブデン,島状に生じるタンタルの2つに注目し,反応相の形成過程について調査した。 [1] モリブデンを1073~1373Kの温度域で鉄粉パック法に供した結果,いずれの温度域でもMo2C層が均一に生じた。これは保持時間の平方根に比例して成長し,層成長に対する活性化エネルギーは257kJ/molと見積もられた。 [2] 代表的なモリブデン合金であるTZM合金に対してもMo2C層の形成が可能であり,鉄粉パック法が適用できることがわかった。 [3] タンタルを1273Kで鉄粉パック法に供した場合,保持時間3.6ksではTaCが島状を呈した。しかし,さらに保持時間を増加させると層状に変化した。この原因として,TaNの生成が影響したことが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の「科学研究費助成事業 実施状況報告書」では,今後の研究推進方策として以下のように記している。 [1] 高融点金属の中でもモリブデンとタンタルに絞って,処理条件の最適化を図る。 [2] モリブデンの場合,Mo2Cの生成開始温度,成長挙動,微細構造などを調査し,表面保護層としてのメリット・デメリットを明らかにする。 [3] モリブデン合金(TZM合金)に対する表面改質効果も調査する。 [4] タンタルの場合,TaCの成長挙動や微細組織を調査し,層形成に至らない原因を明らかにする。 これらの各項目については,ほぼ調査を終えることができた。しかし,耐酸化性に乏しいモリブデンの表面保護層として,Mo2C層の有効性を検証するためには酸化試験の実施が必要であり,現時点では明らかになっていない。また,タンタルにおいては,高温下での保持時間を増加させることで,TaCが島状から層状に変化することを確認したが,層状を呈した後は厚さが10ミクロン程度で一定となり,放物線則に従った層成長を示さない。このような特徴的な挙動も今後の解決すべき課題として残っている
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成26年度では,工業的に非常に簡便であり,応用範囲が広いと思われる,「クロムめっき皮膜」に重点を置いて研究を進める。クロムめっきは,我が国では1925年頃に工業化されたと言われており,耐食性・耐摩耗性を有し,自動車部品をはじめ,油圧機器のシャフト,印刷・圧延用のロール,金型など,多くの産業で用いられている。このクロムめっき皮膜を鉄粉パック法によりクロム炭化物・窒化物の皮膜に容易に変更できれば,さらなる耐食性・耐摩耗性・耐酸化性の向上により,部品や機器の高寿命化・高性能化が期待できる。 まず,クロムめっきを研究室独自に行うことを検討する。基材には低炭素鋼板を選択し,膜厚10ミクロンの均一な皮膜を得るための処理条件を調査する。クロムめっき皮膜には微細なクラックが導入されることが知られているため,鉄粉パック法に際してはその影響に対して注意を払う必要がある。実験では処理温度・保持時間を変化させ,めっき皮膜内の炭化・窒化過程を明らかにするとともに,皮膜と基材との間での拡散現象や,得られた基材表面部の機械的性質について調査する。さらに酸化試験を実施し,「めっき+鉄粉パック」の複合処理の有効性を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予算内で十分な消耗品が購入できたが,結果として若干の差額が生じた。 【消耗品費】として,「金属素材」をはじめ,試料の切断・研磨作業に用いる「ダイヤモンド砥石・研磨剤」,研磨後のエッチング等に用いる「化学薬品」,熱処理に要する「電気炉補修部品・窒素ガス」などの支出にあてる。
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