2013 Fiscal Year Research-status Report
メカノケミカルキャビテーションによる表面・界面制御技術の開発
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24560898
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Research Institution | Tokyo University of Science, Yamaguchi |
Principal Investigator |
吉村 敏彦 山口東京理科大学, 工学部, 教授 (20353310)
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Keywords | メカノケミカルキャビテーション / 表面界面制御 / 表面不活性化 / リサイクル技術 |
Research Abstract |
従来の表面不活性化処理としては、機械的処理、化学薬品による化学的処理、加熱などの熱的処理等があるが、一長一短あり決定的な技術にはなっていない。このような技術では、表面・界面の制御により信頼性を向上するとともに、プロセスの短縮化を求められている。メカノケミカルキャビテーション噴流は、上記目的に適合する技術になると期待される。 H25年度の研究では、炭素鋼にメカノケミカルキャビテーション(MC)を噴射することにより真空中のガスが付着しづらく、水素等のガスが材料内部から拡散放出しにくい不活性な表面の作製技術を開発し、最も工業的に使用されている炭素鋼の高機能化を目的として研究を推進した。 次亜塩素酸ナトリウムを僅かに含んだ水をエジェクタノズルの副流から吸引し、35MPaの高圧水と混合し、MCを発生させた。MCを炭素鋼表面に噴射し、表面改質させ、低放出化のための試料を作製した。その他の試料として、受入材、M処理材(ウォータージェットキャビテーション噴射のみ)、C処理材(次亜塩素酸ナトリウムへの浸漬)、及びM+C処理材(M処理後C処理を実施)を比較した。超高真空の放出ガス測定容器および試料を4端子法(通電加熱+熱電対)による昇温機構から成る昇温脱離装置を開発した。 本装置を用いて、上記各種処理を施した試験片を昇温脱離し、発生するH2やO2、H2O、CO2を四重極質量分析計で測定した。全ての試料において、35℃付近にH2の吸着ピークが認められた。H2の発生量が最も少ないのは、MC処理材であることが明らかになった。表面粗さ測定や電子顕微鏡観察により、MC処理材が最も滑らかであることも分かった。また、MC処理によって、H2OやCO2、O2等のH2以外のガスの脱離ピークも小さくなり、放出ガスが抑制されることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
エゼクタノズルから発生するメカノケミカルキャビテーション(MC)を各種条件で噴射し、耐食性試験を行った。また、耐食性向上に有効なメカノケミカルキャビテーション処理の噴射条件を確立した。MCの機械的処理効果としては、腐食の起点となる表面欠陥(き裂、格子欠陥等)の封止効果がある。MCの化学的処理効果としては、不動態皮膜(耐食性膜等)の形成がある。これら封止効果と不動態皮膜の形成により、耐食性が向上する。また、相乗効果により、化学的処理単独で不動態皮膜を形成させる場合に必要な化学薬品の量に比べて、少ない薬品で不動態化できることを示すことができた。また、腐食試験は水浸漬試験と高湿度試験(温度、湿度制御)を実施し、表面観察・組成分析や表面粗さ測定すること等により、多角的に腐食の進行度を評価することができた。 H25年度の低放出ガス化技術の開発では、MC処理を行うことにより、金属表面から発生する放出ガスを抑制する効果があることを明らかにした。日本ウォータージェット学会の噴流工学に「メカノケミカルキャビテーション噴流による炭素鋼の耐食性向上に関する研究」と題した論文が出版されることが決定した(噴流工学 第31巻 第1号 2014年)。 また本研究の波及効果として、エジェクタノズルの副流から光触媒材料である酸化チタンとその助触媒である白金を導入し、酸化チタンにMC加工を施し、白金を担持させることにより、光触媒作用による水分解特性を飛躍的に向上させることが明らかになった。その成果を日本機械学会2013年次大会(岡山大学)において発表した。また、日本ウォータージェット学会の噴流工学に「エジェクタ法による酸化チタンの光触媒特性向上に関する研究」と題した論文が出版されることが決定した(噴流工学 第31巻 第1号 2014年)。 以上のことより、当初の計画以上に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
近年世界的な金属資源の需要拡大に伴い、レアメタルなどの金属資源の安定供給確保の懸念が高まっている。なかでも、レアメタルは、家電産業、IT 産業、自動車産業をはじめとする多くの製造業に必要不可欠な金属であり、我が国製造業の国際競争力の維持・強化のために、その安定供給確保は極めて重要かつ緊急な課題である。 レアメタルのリサイクル技術が求められる中、レアメタルを含んだ金属から薄膜を除去する技術やレアメタルの薄膜を金属から剥離させる技術等が検討されている。液晶パネルの製造工程におけるインジウムの回収・リサイクルは技術開発の目処がつきつつあるが、スクラップパネルからのインジウム回収は技術的には可能であるものの、現状、経済性に大きな問題がある。メカノケミカルキャビテーション噴流は、レアメタルの回収技術として有用であると考えられる。 液晶パネルの透明電極表面には、ITO膜が塗布されている。ITO膜は酸化インジウムに酸化スズを1~5重量%ほど加えた合金である。通常のリサイクルの工程としては、液晶パネルを10mm以下の大きさに破砕し、液晶パネル中のITO導電膜を、塩酸を主成分とする酸に溶出させる。 本年度の研究では,リサイクルコスト低減を目指し、スクラップパネルの破砕とITO導電膜の分離をメカノケミカルキャビテーションにより行う。MCの機械的処理によりスクラップパネルは破砕され、それと同時に塩酸を含んだMCの化学的処理と機械的処理の相乗効果により、効率よくITO導電膜を分離する。メカノケミカルキャビテーションの最適噴射条件(圧力、薬品濃度、噴射角度等)を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度所属先が呉工業高等専門学校から山口東京理科大学に変更になったが、本科研費で購入した物品は移管することができた。しかしながら、メカノケミカルキャビテーションを発生させる高圧ポンプ(マルヤマエクセル(株)製ポンプユニット MW7HP40Lx11kW、H20~H22年度 科研費基盤(c)研究課題番号:20510084「メカノケミカルキャビテーション噴流によるバラスト水処理技術の開発」において購入、1,428,000円)の移管ができないため、本科研費で再度購入した。以上のように、申請時には計画になかった高圧ポンプを購入したため、H24年度の耐食性向上試験、H25年度の低放出ガス化試験およびH26年度のレアアース回収試験において購入する消耗品を節約するともに、各年度の消耗品の支出バランスを調整し変更した。その結果、H25年度からH26年度に約40万円繰り越すことが研究推進上好ましいと判断し、繰り越しを行った。 消耗品としては、液晶パネル、液晶パネル試験片加工、試験片取付用治具、薬品類、論文校正費等に使用する。また、メカノケミカルキャビテーションによりITO膜を除去した表面を観察分析するために、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)及び走査プロープ顕微鏡(SPM)を活用するため、機器使用料(山口東京理科大学機器センター)を見込んでいる。 また、本年9月3~5日に、オランダで開催される22nd International Conference Water Jetting 2014の国際学会において、メカノケミカルキャビテーションに関連する研究成果を発表する予定であり、国際学会の旅費および参加登録費に使用する予定である。
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