2013 Fiscal Year Research-status Report
鉄鋼材料表面におけるバイオフィルム易形成機構の解明
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24560914
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Research Institution | Suzuka National College of Technology |
Principal Investigator |
生貝 初 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (60184389)
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Keywords | バイオフィルム / 金属生産工学 / 鉄鋼材料 / 緑膿菌 / 微生物腐食 / 3D可視化 |
Research Abstract |
(1)リン酸亜鉛による防錆処理を施したSS400に対する緑膿菌(PAO1)のバイオフィルム(BF)形成について検討した。鉄イオン無添加M9培地中でPAO1と各試験片を48時間培養すると、防錆未処理のSS400はBFが形成され、リン酸亜鉛処理したSS400はBFの形成が認められなかった。これらのことから、SS400から溶出した鉄イオンがBF形成を誘導していることがわかった。 (2)元来BFを形成しにくいSUS304やスズを硫酸鉄添加(0、25、50μM )M9培地にPAO1と共に48時間培養したが、これらの表面にBFは形成されなかった。一方、同一条件のM9培地でSS400をPAO1と共に培養すると、25μM硫酸鉄を添加したM9培地よりも50μM添加した培地の方がBF形成量は約50%増加した。これらの結果から、(i)PAO1は鉄イオンが培地中に含まれていてもSUS304やスズの表面でBFを形成しにくく、(ii)培養液中に鉄イオンが存在するとSS400表面(防錆未処理)でさらにBF形成が高まることがわかった。 (3)SPring-8の放射光を用いてSS400表面に形成されたPAO1のBFと微生物腐食を3D可視化する実験を行った(課題番号:013A1181、課題名:鉄鋼材料に発生する微生物腐食の3D可視化)。現在、これらのデータをもとに3D画像を再構成中である。 (4)0~100μMの硫酸鉄を加えたM9寒天培地でPAO1の運動性を調べた。運動性は形成されたコロニーの大きさで判定した。その結果、コロニーは硫酸鉄の濃度に比例して大きくなっていくことがわかった。コロニーはswarmingの特徴を示す形状だったので、添加した硫酸鉄は鞭毛の運動性を高めていることがわかった。 平成25年度は第27回Bacterial adherence & biofilm学術集会、日本防菌防黴学会第40回年次大会、日本鉄鋼協会第166回秋季講演大会、第87回日本細菌学会で研究成果を発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、炭素鋼SS400表面は緑膿菌(PAO1)のBFが形成しやすい構造であることを以下のような実験によって証明することができた。先ず、SS400からの鉄イオンの溶出がBF形成にとって必要な条件になっていると考え、SS400表面にリン酸亜鉛処理を施して鉄イオンの溶出を抑える試験片を作製し、BF形成実験を行った。その結果、この防錆処理を施したSS400表面でのBF形成はほとんど抑制することができた。 さらに平成25年度に鉄イオンによるPAO1の運動性に与える影響を調べたところ、鉄イオンは鞭毛の運動性を高めていることが明らかになった。当初、BFのZ軸方向への成長は鞭毛による運動性阻害のためではないかと予測し、この項目に関する実験を始めたが、予想と正反対の結果となった。鉄イオンはBFの成長にどのような作用を及ぼしているのか、さらに検討を進める必要があると思われた。 加えて平成25年度は、SPring-8の放射光を用いて炭素鋼表面でのBF形成の3D可視化の実験を行うことができた。3Dの再構成画像は目下解析中であるが、CTスキャンした切片画像を観察すると、炭素鋼表面にBFが形成されていることが明らかになった。この結果から、金属表面におけるBF形成研究の新しい解析法として放射光を用いたX線CT法は有効な技術のように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)SS400表面でPAO1のBFの成長が高まる原因として、SS400から溶出した鉄イオンによる可能性が平成25年度の研究によって明らかになった。さらにPAO1の鞭毛による運動性を高めることもわかった。これまで鉄イオンを加えるとBFの典型的な構造であるマッシュルーム構造の成長が促進することが顕微鏡下で確認されている。このことから、鉄イオンが鞭毛の運動性を阻害するために、平面上の成長が阻害されZ軸方向、すなわちBFの構造が厚くなると考えられてきたが、得られた結果は全く正反対であった。そこで平成26年度はBFの成長と運動性の昂進の間にどのような関係があるか、そして鉄イオン以外にもBFの成長に関与する成分があるかどうかを調べる予定である。 (2)鉄イオン存在下あるいはSS400表面においてPAO1のBFが形成された際にオートインデューサーが産生されているかどうか調べる。 (3)放射光を用いたSS400表面において形成されたPAO1のBFとSS400のX線CTによる撮像データを再構成(3D可視化)し、SS400の微生物腐食を3次元的に解析する。 (4)本研究の成果を学会や論文をとおして外部へ発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度予定した研究の一部を次年度に繰り越したため、その研究に要する消耗品費を繰り越した。 平成26年度は直接経費として600,000円と繰越金80,027円を合わせて680,027円が交付される予定である。研究費の内訳は、物品費が380,027円、旅費が100,000円、謝金50,000、印刷費等その他150,000円である。物品費は、試薬、プラスチック製品、ガラス製品、金属試験片などの購入に使用する予定である。旅費は、研究成果の発表などに要する経費として使用する予定である。
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Research Products
(7 results)