2012 Fiscal Year Research-status Report
新規な刺激応答型ミセル形成ポリマーの開発による疎水性有機物分離システムの構築
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24560923
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
迫原 修治 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80108232)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 健彦 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10274127)
飯澤 孝司 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60130902)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ユニマーミセル / pH応答型ポリマー / 温度応答型ポリマー / グラフトポリマー / プラズマ開始重合 / ビスフェノールA / 吸着 / 疎水性相互作用 |
Research Abstract |
本研究は新規なpH応答型および温度応答型ユニマーミセル形成ポリマーを開発し、これを用いて内分泌撹乱化学物質等の疎水性有機物の分離システムを構築することを目的としている。ユニマーミセルは単一高分子からなるミセルで、pH応答型は所定のpH以下でミセルの形成が起こり、pHがこれを超えるとミセルは崩壊する。また、温度応答型は所定の温度以上でミセルが形成され、それ以下ではミセルは崩壊する。ユニマーミセルの疎水性ドメインには疎水性物質が安定に保持されることから、低濃度の内分泌撹乱化学物質の吸着分離が期待される。pH応答型ポリマーは、親水性の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のナトリウム塩(NaAMPS)と、比較的長い疎水性側鎖の末端に-COONa基を持つメタクリルアミド系モノマーを共重合することによって合成する。また、温度応答型はNaAMPSと感温性のN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)のマクロモノマーの共重合によって合成する。 平成24年度は、pH応答型ユニマーミセルが形成されるpHは疎水性側鎖の長さに依存すると考えられることから、計画通り疎水性側鎖の長さの異なるメタクリルアミド系モノマーを合成した。さらに、これらとNaAMPSの共重合ポリマーを合成し、ミセルの形成・崩壊が起こるpHを調べた。また、温度応答型に関しては、ユニマーミセルの形成は共重合される感温性成分のNIPAMマクロモノマーの分子量に依存すると考えられることから、計画通り分子量の異なる数種類のNIPAMマクロモノマーを合成した。このマクロモノマーの転移挙動を測定すると共に、これらをNaAMPSと共重合したポリマーを合成し、このポリマーの転移挙動についても測定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
疎水性側鎖の長さの異なるメタクリルアミド系モノマーの合成については、既に検討している12-メタクリルアミドドデカン酸のナトリウム塩(NaMmD)に加えて、当初の計画通り、側鎖中のメチレン基の数が5および7の6-メタクリルアミドヘキサン酸のナトリウム塩(NaMmH)および8-メタクリルアミドオクタン酸のナトリウム塩(NaMmO)を合成した。これらとNaAMPSとの共重合ポリマーによるユニマーミセルの形成は、これらの疎水性成分の側鎖の-COONaのプロトン化によって起こる。そこで、プロトン化が起こるpHを本研究で新規に購入した自動滴定装置を用いて測定した。その結果、NaMmDのプロトン化はpHが約9で、NaMmHとNaMmOはpHが約7付近でそれぞれ起こった。このことから当初の目標通り、ミセルの形成・崩壊が起こるpHの制御が可能になった。 一方、NIPAMマクロモノマーの合成に関しては、分子量が3000~8000の間のものを合成した。合成は、2段階からなり、1段階目ではアミノエタンチオール(AESH)を連鎖移動剤として末端にアミンを持つNIPAMオリゴマーを合成した。2段階目ではこの末端のアミンとアクリロイルクロリドを反応させてビニル基を付加し、NIPAMマクロモノマーを合成した。分子量は1段階目のAESHとNIPAMの比率によって調整したが、分子量範囲は当初の予定より若干大きくなった。この点は今後さらに検討する予定である。合成したNIPAMマクロモノマーの転移温度は、転移が起こると水に不溶になり溶液が白濁することを利用して、NIPAMマクロモノマー水溶液の透過度の温度依存性を測定して評価した。その結果、NIPAMマクロモノマーの分子量が低下すると若干転移温度が上昇することを見いだした。 以上のことから、当初計画したことは予定通り達成できたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
pH応答型および温度応答型のポリマーをプラズマ開始重合法によってポリプロピレン不織布にグラフトし、代表的な内分泌撹乱化学物質であるビスフェノールA(BPA)の吸・脱着試験を行う。グラフトは、プラズマ開始重合法で行う。なお、分離システムの構築には連続操作が好ましく、そのために最終的には基材に多孔体を用いるが、吸・脱着挙動の詳細な検討には、多孔体よりも不織布へグラフトしたものの方が適していることから、ここではポリプロピレン不織布へグラフトする。また、吸着はミセルの疎水性ドメインに取り込まれるものと、ミセル外の疎水基に疎水性相互作用によって吸着されるものがあることを既に見いだしているが、安定に保持されるのは疎水性ドメイン内であり、ここへの取り込み量の増加が重要となる。 pH応答型では、BPAの吸着における最適pHと疎水性モノマーの側鎖の長さの関係を明らかにする。また、pH応答型の場合は、pHを徐々に変化させると疎水性ドメインへの取り込み量が増加することを既に見いだしている。そこで、pHの変化速度と疎水性ドメインへの取り込み量の関係を明らかにする。 一方、温度応答型では、種々の温度でのBPAの吸着等温線を測定すると共に、BPAの吸着に及ぼすNIPAMマクロモノマーの分子量の影響を明らかにする。さらに、pH応答型の場合のpHを徐々に変化させる方法に対応して、昇温速度と疎水性ドメインへの取り込み量の関係を明らかにする。 これらの結果から、pH応答型および温度応答型ユニマーミセルを用いたそれぞれの吸・脱着システムの特徴を明らかにする。さらに、今後ポリマーをグラフトするための基材として利用する予定である多孔質基材についても、基材の空隙率、孔径がグラフトに及ぼす影響、BPA吸着量に及ぼす影響についても検討を着手する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
分担研究「感温性高分子の親疎水転移を利用した新しい吸脱着機構をもつレアメタル吸着剤の開発」では、約4万円の残額がある。分担内容は、吸着剤の金属イオン吸着機構の検討であったが、この検討における金属イオンの吸着量測定に必要な物品(消耗品)に関しては、当研究室で実施している他の研究との共通性が多く、結果として物品購入費に残額が生じた。この残額は、今年度の分担「ゲル型感温性吸着剤を選択的吸着分離操作に応用する際の課題の検討」に必要な試薬類の購入に当てることで有効活用する。
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