2013 Fiscal Year Research-status Report
新規な刺激応答型ミセル形成ポリマーの開発による疎水性有機物分離システムの構築
Project/Area Number |
24560923
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
迫原 修治 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80108232)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 健彦 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10274127)
飯澤 孝司 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60130902)
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Keywords | ユニマーミセル / pH応答型ポリマー / 温度応答型ポリマー / グラフトポリマー / プラズマ開始重合 / ビスフェノールA / 吸着 / 疎水性相互作用 |
Research Abstract |
本研究は新規なpH応答型および温度応答型ユニマーミセル(単一高分子からなるミセル)形成ポリマーを開発し、これを用いて内分泌撹乱化学物質等の疎水性有機物の分離システムを構築することを目的としている。pH応答型は所定のpH以下でミセルが形成され、それ以上で崩壊が起こる。また、温度応答型は所定の温度以上でミセルが形成され、それ以下で崩壊が起こる。ミセルの疎水性ドメインには疎水性物質が安定に保持されるので、低濃度の疎水性物質の吸着分離が期待される。pH応答型では、親水性の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のナトリウム塩(NaAMPS)と、比較的長い疎水性側鎖の末端に-COONa基を持つメタクリルアミド系モノマーとの共重合ポリマーを検討する。また、温度応答型はNaAMPSと感温性のN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)のマクロモノマーの共重合ポリマーを検討する。 平成24年度は、疎水性側鎖の長さの異なる6-メタクリルアミドヘキサン酸のナトリウム塩(NaMmH)および8-メタクリルアミドオクタン酸のナトリウム塩(NaMmO)を合成し、これらとNaAMPSとの共重合ポリマーについてミセルの形成・崩壊が起こるpHを調べた。また、温度応答型では、分子量の異なる数種類のNIPAMマクロモノマーの合成法を検討した。また、合成したマクロモノマーの転移挙動、およびNaAMPSとの共重合ポリマーの転移挙動を調べた。 平成25年度は、pH応答型ポリマーをプラズマ開始重合法で支持体の多孔性のエチレンビニルアセテート(EVA)にグラフトし、代表的な内分泌撹乱化学物質であるビスフェノールA(BPA)の吸・脱着試験を行い、BPAの吸着に及ぼす疎水性モノマーの側鎖の長さの影響を明らかにした。温度応答型では、マクロモノマーの合成法をさらに検討すると共に、EVAへのグラフト方法について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既に検討している12-メタクリルアミドドデカン酸のナトリウム塩はpHが9付近でプロトン化(疎水化)が起こるが、24年度に新しく合成したNaMmHおよびNaMmOはどちらもpH約7付近(中性)でプロトン化が起こる。25年度はこれらとNaAMPSとの共重合ポリマーのミセル形成を動的光散乱法を用いて調べた。また、これらのポリマーを多孔性のEVAディスクにグラフトし、これにBPA溶液を透過して吸着特性を調べた。NaMmOとの共重合ポリマーはpH 7付近でミセルの形成が確認できたが、疎水性側鎖が短いNaMmHを共重合したポリマーは、NaMmHがプロトン化してもミセルの形成は見られなかった。これらのポリマーへの吸着はミセルを形成しなくても起こるが(側鎖の疎水性部分への吸着)、疎水性側鎖のプロトン化によって増加した。また、NaMmHを共重合したポリマーの場合はミセルを形成しないので容易に脱着したが、NaMmOを共重合したポリマーの場合はミセルを形成すると吸着したBPAは安定に保持された。このことから、中性付近でBPAを吸・脱着可能なpH応答型ミセル形成ポリマーが開発されたといえる。 一方、NIPAMマクロモノマーの合成に関しては、1段階目のアミノエタンチオールを連鎖移動剤とするNIPAMオリゴマーの合成、2段階目のアクリロイルクロリドとの反応によるNIPAMマクロモノマーの合成の各段階における精製が重要なことを見いだし、精製方法を検討することでマクロモノマーの合成法を確立した。また、NaAMPSとの共重合ポリマーは加温によってユニマーミセルを形成することをチンダル現象で確認した。さらに、グラフトに関してはpH応答型と同じパーオキサイド法を用いたプラズマ開始重合は困難であり、これに代わる方法を探索し、グラフトの可能性を見いだした。 以上のことから、概ね順調に推移していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
pH応答型および温度応答型のポリマーをプラズマ開始重合法によって支持体にグラフトする際、当初は吸・脱着挙動の詳細な検討にはポリプロピレン不織布を、また連続操作には多孔性EVAディスクを支持体として考えていたが、EVAの方がグラフト量の制御が容易であり、吸・脱着挙動の把握も可能なことから、26年度は支持体に多孔性EVAディスクを用いて以下の点を明らかにする。 pH応答型では、NaAMPSとNaMmOの共重合ポリマーによるミセルの形成・崩壊は中性付近で起こるが、BPAの吸着はミセルを形成していない場合も起こることから、pH 7を挟んでpHスイングを行った場合の吸・脱着挙動を詳細に検討する。また、ユニマーミセルの特徴の一つは低濃度の疎水性物質の吸着の可能性であるので、吸着量、特にミセル内の疎水性ドメインへの取込み量に及ぼすBPA濃度の影響について検討し、本研究の目的である低濃度の内分泌撹乱化学物質の吸着分離システムの構築の可能性を明らかにする。 温度応答型では、まずNIPAMマクロモノマーとNaAMPSとの共重合ポリマーをプラズマ開始重合法を用いてEVAディスクにグラフトする方法を検討する。NaAMPSを含む場合は通常のアルゴンプラズマによる方法では難しく、酸素ラジカルを発生するパーオキサイド法が適しているが、この方法では系を80℃以上に加熱する必要があり、NIPAMマクロモノマーを用いる場合には適用できない。しかし、最近、加熱しないで酸素ラジカルを発生させる方法が見いだされた。26年度はこの方法によってグラフトを行う。また、グラフトしたポリマーを用いて、BPAの吸着に及ぼす温度の影響を測定すると共に、NIPAMマクロモノマーの分子量の影響を明らかにする。さらに、昇温速度と疎水性ドメインへの取り込み量の関係を明らかに、pH応答型に変わる方法としての可能性について明らかにする。
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