2012 Fiscal Year Research-status Report
βGRPとカードランによる簡便で低コストな組換えタンパク質固定化法の研究
Project/Area Number |
24560954
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
堀内 正隆 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (90322825)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
落合 正則 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (10241382)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | タンパク質 / バイオテクノロジー / バイオリアクター / 生物・生体工学 / ナノ材料 |
Research Abstract |
カイコβGRPは真菌等の病原体の表層に存在するβ-1,3-glucanを認識し、カイコの自然免疫系を活性化するセンサータンパク質である。本研究ではカイコβGRPのN末端ドメイン (GRP-tag) と直鎖β-1,3-glucanであるカードランによるアフィニティーシステムの特性を明らかにし、これを応用したアプリケーションを開発することを目的としている。平成24年度は、大腸菌におけるGRP-tag融合タンパク質の発現系を構築した (担当: 堀内)。GRP-tagに融合する標的として、 (i) 細胞内タンパク質: 細胞増殖抑制因子、RNA分解酵素及びインターフェロン遺伝子転写因子、(ii) 分泌タンパク質: 成長因子様タンパク質、緑内障関連タンパク質、(iii) 膜タンパク質細胞外領域: 糖転移酵素、糖脂質合成酵素及びホルモン受容体を用いた。その結果、細胞内タンパク質については大腸菌で可溶性画分として得ることができたが、分泌タンパク質や膜タンパク質細胞外領域については、ほとんどが不溶化した。次にGRP-tagによる発現効率や可溶性への影響を調べるため、同じ細胞内タンパク質をグルタチオン-S-トランスフェラーゼ (GST) と融合したものを大腸菌で生産し、GRP-tagの優位性について比較したところ、GRP-tagを融合した場合の方がGST-tagよりも可溶性タンパク質の収量が増大することが明らかとなった。またカードランビーズの大量調製法の開発も進めた (担当: 落合)。今年度はカードランの初期濃度や、ホモジナイザーによる撹拌速度を調節することで、カラムのエンドフィッティングを通り抜けない均質なビーズを生産することに成功した。以上のとおり、平成24年度は、GRPシステムを用いた低コストな組換えタンパク質アフィニティー精製システムの基盤技術を確立することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の目的では、実施内容を2段階に分けて設定している。(1) 複数の標的タンパク質をGRP-tag融合タンパク質として大腸菌、昆虫細胞、動物細胞あるいはカイコ虫体で発現させ、GRP-tag融合タンパク質の種類や発現宿主との関係を明らかにする。(2) カードランをコーティングしたマイクロプレートにGRP-tag融合タンパク質を固定化した簡易型のプロテインチップやカードランにGRP-tag融合酵素を固定化したバイオリアクターを作製し、その実用性を評価する。 平成24年度は (1) のGRP-tag融合タンパク質発現系のうち、大腸菌を用いた系を構築することを計画し、概ね達成できた。結果として、分泌タンパク質や膜タンパク質が不溶化してしまったが、これは当初から大腸菌による生産は困難であると予想していたものである。むしろ大腸菌発現系において、GRPシステムを適用すべき標的を選択する基準が明確にできたと考えている。今回不溶化した標的については、当初の計画どおり、来年度から実施する昆虫細胞、動物細胞あるいはカイコ虫体を用いてあらためて生産を試みる予定である。今年度の予備実験では、分泌シグナルを有するGRP-tagに分泌タンパク質として成長ホルモン様タンパク質を、そして膜タンパク質としてGタンパク質共役受容体を融合させて昆虫細胞で発現させることに成功している。そして前者は培地中に分泌され、後者は膜画分に局在していることを確認した。来年度はこれらを大量生産し、GRPシステムを用いて精製する方法を確立することを計画している。 (2) のGRPシステムを用いた簡易型プロテインチップやバイオリアクター創出の試みは、当初計画通り最終年度に実施する予定だが、今年度からカードランコーティングするためのプロテインチップやバイオリアクター向けの新規基材の選定を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、昆虫細胞、動物細胞およびカイコ虫体を宿主とするGRP-tag融合タンパク質の発現系を構築する。特に大腸菌では生産の難しかった分泌タンパク質や膜タンパク質の生産に力点を置いて研究を進める。βGRPは生来のカイコでは体液中に分泌されるタンパク質であり、発現直後にはGRP-tag領域のアミノ末端側に分泌シグナルペプチドが付加されている。そこでこの分泌シグナルのついたGRP-tag (secGRP-tag) を作製し、さまざまなタンパク質と融合させることで、昆虫細胞、動物細胞あるいはカイコ虫体における分泌生産を試みる。もし分泌効率が十分でなかった場合には、昆虫細胞やカイコ虫体であれば、ミツバチのメリチンペプチドの分泌シグナルとの換装を行う。同様に動物細胞であればインターロイキン2などの分泌シグナルと換装し、GRP-tag融合タンパク質の分泌効率を増強させていく予定である。 次にGRP-tag融合タンパク質が本来の生物学的機能を有しているかどうかについて検討を行う。例えばGRP-tagを融合したpoly(A)-RNA分解酵素をカードランビーズでアフィニティー精製し、これに基質となるpoly(A)-RNAを添加する。その際のRNA切断反応の特異性を電気泳動によって解析する。またGタンパク質共役型受容体の場合には、界面活性剤で可溶化した受容体をカードランビーズ上に固定し、蛍光標識した特異的リガンドの結合量を蛍光光度計で定量する。 また最終年度に実施する低コストな薬剤探索用プロテインチップや工業用固定化酵素の作製に向け、カードランシートあるいはカードランチューブに適した新たな担体の創製を行う。特にカードランをコーティングする低コストかつ薬剤耐性の高い基剤あるいは生分解性の高い基剤の探索を進めることを計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度より、研究代表者は北海道大学から北海道医療大学へ異動することが内定している。異動先には十分な実験設備が揃っておらず、本研究を推進するための研究環境を新たに構築する必要がある。そこで平成25年度は遺伝子組換え、細胞培養およびタンパク質精製に必要な設備品を本研究費で購入することを計画している。 具体的な購入備品と購入理由は次のとおりである。(1)オートクレーブ: 遺伝子組換え実験における物理的封じ込めレベルP1実験室を実現するために必要である。(2) 微量高速遠心機およびローター: 遺伝子組換え実験、細胞培養あるいはタンパク質精製に必要である。(3) クリーンベンチ: 無菌状態での細胞培養実験に必要である。(4) フラクションコレクター: タンパク質精製の際、クロマトグラフィー装置で分離したタンパク質を回収するために必要である。 また消耗品費として、遺伝子組換え、細胞培養およびタンパク質精製に必要となるディスポーザブルのピペット、遠心管、フラスコおよびシャーレなどの器具、プラスミドやタンパク質精製およびカードラン担体作製に必要な試薬、そして細胞培養に必要な培地やトランスフェクション用試薬などを購入する。 さらに情報収集のための国内学会への参加、あるいは共同研究打ち合わせのための出張旅費を申請する。そのほかに、論文校正や投稿料として謝金を計上している。
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Research Products
(1 results)