2012 Fiscal Year Research-status Report
マイクロ流体デバイスを用いたバイオフィルムモデルの作成とバイオレメディエーション
Project/Area Number |
24560956
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
加藤 紀弘 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00261818)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松永 行子(津田行子) 東京大学, 生産技術研究所, 講師 (00533663)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | バイオフォルム / クオラムセンシング / ヒドロゲル / ミクロスフェア / マイクロ流路デバイス |
Research Abstract |
バイオフィルムの形成が多くの産業分野で問題となっている。工場などの配水管表面への細菌の付着・増殖に由来する金属の腐食、排水処理施設など菌体分離の濾過膜における濾過速度の低下、口腔内ではプラーク(歯垢)による歯周病、病院内ではカテーテルなど医療器具において感染症蔓延の温床となるなど、バイオフィルムの形成阻害技術の確立が望まれている。本研究では、バイオフィルム抑制法、抑制素材を開発するためには、再現性に優れた簡便なバイオフィルム形成技術を構築することが先決であると考え、マイクロ流路デバイスを利用して単分散ヒドロゲルミクロスフェア、ヒドロゲルカプセルを大量生産し、そこへ細菌を封入、培養することでカプセル内部において菌体増殖させる手法を試験した。 フォトリソグラフィー技術を用いて作成したポリジメチルシロキサンマイクロ流路、同軸型3次元マイクロ流路を作成し、2流体を混合させることで高分子ミクロスフェアを形成させた。本法により緑膿菌を封入したヒドロゲルスフェアの作成に成功した。さらに、ヒドロゲル内部に空間を保持したカプセル型担体の作成に成功し、内面を増殖させた菌体で被服したカプセルの作成法を構築した。遺伝子工学的手法を用いて作成した緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)を発現する緑膿菌をモデル細菌とした試験を実施し、顕微鏡による蛍光観察により菌体の増殖過程を追跡した。得られたカプセルは直径500から800μm程度であり、マイクロ流路の運転条件である流速及び流量比の制御によりそのサイズは可変であり、ハンドリングにも優れている。今後は、バイオフィルム形成技術に関し改良を重ねる一方で、細菌の細胞間情報伝達機構を人為制御する新たなアプローチで、バイオフィルム形成を抑制するための新手法を試験していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進展していると考えられる。平成24年度計画では、各種マイクロ流路デバイスを作成し、粒径が均一なヒドロゲルスフェア、ヒドロゲルカプセルの合成法を確立し、モデル細菌として緑膿菌を封入するバイオフィルム形成法の試験、蛍光観察による菌体増殖の観察、評価を最終目標としている。 複数の流路パターン、高分子溶液の組み合わせの中から、緑膿菌などのグラム陰性細菌の封入に適する単分散ヒドロゲルスフェアの作成には、同軸型3次元マイクロ流路デバイスが適しており、粒径のそろったヒドロゲルスフェアを作成可能であることを実証した。将来的には、さまざまな粒径のカプセルに加えて高分子ファイバーなど多様なバイオフィルム担体の作成が望まれることから、平成24年度に作成したマイクロ流路デバイスを試験する過程で高分子ファイバーを作成する新手法を見出し、特許出願した。 遺伝子工学的手法を用いて緑色蛍光タンパク質GFPを発現する緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa PAO1 (gfpuv)を取得することにも成功し、当初の予定通り実体顕微鏡[設備備品費で購入]の蛍光観察により、ヒドロゲルカプセル内面に緑膿菌が増殖可能であることを確認した。本手法を応用して次の研究ステップであるバイオフィルム抑制法の開発に着手できる。平成25年度の研究は予定通り開始できる状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
緑膿菌などのグラム陰性細菌のバイオフィルム形成に細胞密度依存性の遺伝子発現システムであるクオラムセンシング(QS)機構が関与することが報告されている。緑膿菌のクオラムセンシングでは、N-アシルホモセリンラクトン(AHL)がシグナル分子として生産されており、菌体密度の増加に伴うAHL濃度の上昇によりバイオフィルム形成が誘導されることが指摘されている。 遺伝子工学的手法を用いて、AHLが閾値よりも高濃度になると緑色蛍光タンパク質GFPを発現するQSセンサー株を作成し、ヒドロゲルカプセル内部における緑膿菌の増殖過程でQS機構が活性化されるか試験する。 さらに、本研究ではAHLの加水分解酵素であるAHLラクトナーゼを過剰発現するQS機構抑制細菌を遺伝子工学的手法により作成し、バイオフィルム形成菌である緑膿菌などと共培養し、菌体外に放出されたAHLシグナルを不活化する新しいシステムを試験する。AHL 加水分解酵素としては、Bacillus cereus ATCC14579株からクローニングしたAHLラクトナーゼAiiAなどの利用を計画している。 平成24年度に構築したマイクロ流路デバイスを利用するヒドロゲルカプセル合成法を用い、AHLラクトナーゼがカプセル内部に存在するときのQS機構抑制、バイオフィルム形成阻害について評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、設備備品として実体顕微鏡画像記録システム一式(設置場所:宇都宮大学)を導入し研究に大いに活用した。研究打ち合わせのための東大-宇都宮大間の国内旅費、国内学会旅費を計上した他は、マイクロ流路デバイス作成用器具・試薬類、遺伝子組み換え菌作成用の器具・試薬類、高分子ゲル合成用試薬類をはじめとする消耗品費に充当した。 研究を進める過程でマイクロ流路デバイスを用いる高分子担体作成法に関し新たな発明があり、当初の予定になかった特許出願手続きと検証実験に時間を割いたため連動してマイクロ流路デバイス作成、ゲル合成の消耗品費に残額が生じた。これらは平成25年度に、マイクロ流路デバイス作成、ゲル合成のための消耗品費として使用する。平成25年度の研究計画は当初の予定どおり開始できる状況にある。 平成25年度は、研究打ち合わせのため東大-宇都宮大間の国内旅費、学会での成果発表の国内旅費の他は、前年度未使用の予算と統合し消耗品費として使用する計画である。
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Research Products
(5 results)