2012 Fiscal Year Research-status Report
エタノール発酵糸状菌の二形性化を利用した単細胞化制御と糖化発酵同時進行への応用
Project/Area Number |
24560958
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
星野 一宏 富山大学, その他の研究科, 准教授 (20222276)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | エタノール発酵 / 接合菌 / 二形性 / バイオマス / 糸状菌 / 加水分解酵素 / セルラーゼ |
Research Abstract |
糸状菌Mucorは、好気及び嫌気条件で各種糖質を資化発酵でき、さらにCellulaseなどの多様なバイオマス加水分解酵素の分泌に優れている。この接合菌の一種は古くよりMucor感染症の原因菌として研究が進んでおり、通常の好気条件下では糸状菌状態、また、生体内では単細胞化して存在することが知られていたが、この形態変化(二形性変化)の生化学的メカニズムは解明されていない。そこで、本研究では、エタノール発酵糸状菌の能力を最大限に発揮させるために、好気条件下で定常的な単細胞化を達成させ、エタノール発酵へ応用させることを目標に、細胞膜中の脂質合成経路及びErgosterol合成経路に関与する酵素のグラフト情報とプロテォーム解析をもとに生化学的に二形性変化に係わる因子を検証した。その結果、本発酵糸状菌は、CO2が含まれる嫌気条件下で単細胞化することを確認した。さらに、糸状体の菌糸および単細胞化した細胞の脂質含量及びErgosterol含量などを調べた結果、単細胞では、細胞中の脂肪酸含量が低下すると共に不飽和脂肪酸含量も減少すること、さらに、Ergosterol含量も減少することを明らかにした。これらの結果は、脂肪酸及びErgosterol生合成経路を調節することで菌体の形態学的変化が達成できることを示唆する。そこで、Ergosterol合成阻害剤であるトリアゾール系及びスタチン系化合物の添加による形態変化を調べたところ、菌糸の成長抑制が達成できることを確認した。さらに、脂肪酸合成酵素の阻害剤に関する報告がほとんど無いことから、その補酵素であるNADPHの供給源であるGlucose-6P Dehydrogenase阻害剤を添加し糸状菌を培養した結果、好気培養条件下で増殖阻害が起こるものの単細胞化が達成できた。さらに、この二形性変化がCO2により引き起こされる手かがりを掴んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が開発を進めているエタノール発酵糸状菌を実用化させるために、本糸状菌の二形性現象を解明し、安定な単細胞型エタノール発酵糸状菌を構築すること、さらに、この糸状菌のみを用いたセルロース系バイオマスからの糖化発酵同時進行(CBP)プロセスを開発することを目指し、平成24年度は、エタノール発酵糸状菌の単細胞化の現象解明を主に検討した。我々が発見したMucor 属の菌株は、N2/CO2 =7/3 の嫌気環境下で確実に単細胞化すること実証した。また、単細胞化した細胞膜中の成分である脂肪酸含量の減少や流動性に関与するErgosterol量が減少することを明らかにした。これらの成果は、研究開始当初の計画通りの成果である。さらに、これら細胞内成分の生合成抑制が形態変化へ影響することが示唆されたため、それぞれの阻害剤を添加した培養により、単細胞化へ多少関連していることを見出した。これらの研究成果より、エタノール発酵糸状菌Mucorの単細胞化は、一つの環境因子による抑制では達成することはできず、脂肪酸生合成抑制、Ergosterol合成抑制、さらに、NADPHなどが複合的に影響していることが判明した。特に、ペントースリン酸経路に係わるNADPHの生成は、菌体の増殖や細胞膜成分に強く影響し、これらの生合成経路を緻密に調節することが、単細胞化を達成させるために重要であることがわかった。平成24年度は、形態変化に関わる酵素群を抽出し、二形性に係わる代謝酵素群の生化学的に解明できたことから、おおむね順調に研究は進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、以下の2項目の検討を実施する。1) 平成24 年度の成果を踏まえて、細胞壁生合成の調整物質、阻害剤ななどを詳細に検討し、好気培養系でも単細胞化できる培養条件を検討する。この際、生化学的な視点と、発酵槽の生物化学工学的視点の両面から検証する。生化学的観点からは、細胞壁の形成に関わる酵素群、例えば、キチン合成酵素、脂肪酸伸張酵素、脂肪酸不飽和化酵素などをターゲットとして、プロテオーム解析(2D-PAGE + LC/MS/MS)などを行うと共に、発現タンパク質の相違により、単細胞化関連酵素群の特定を行う。さらに、この結果を活用し、単細胞化の安定化を目指し、最適培養条件の確立を行う。2) 次に、培養工学的に単細胞化させた糸状菌に対して、イオンビーム変異を行い安定化した単細胞化株の取得を目指す。本研究で開発した接合菌Mucor もペントース発酵能を向上させるために、カーボンイオンビームを実施し、育種を行ってきた経緯がある。本研究目的である糸状菌の単細胞化は、細胞膜および細胞壁の生合成に関わる酵素の変異により達成できると考えられる。実際には、若狭湾エネルギー研究センターで、イオン源の種類(プロトン、カーボン)、照射強度(~4,000 Gy)を変えることにより変異誘導を行った後、スクリーニングを行い。単細胞化を目指す。さらに、単細胞として安定化させた株に対して、プロテオーム解析(2D-PAGE+ LC/MS/MS)などを行い、親株と比較することにより変異誘導酵素を明確にする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度において、糸状体及び単細胞化細胞内の脂肪酸合成及びErgosterol合成酵素などの代謝酵素及びそれら代謝関連遺伝子の解析を実施する予定である。培養液からこれら細胞を回収し、タンパク質及びDNA・mRNAを安定に得るためには、短時間の処理が重要である。その第一段階として、培養液から細胞を回収し迅速に脱水させるための装置とし、減圧遠心式濃縮機が必須である。さらに、生化学的分岐は試薬及び遺伝子関連試薬などの多くの分析試薬を使用し研究を実施する。また、対象とするエタノール発酵糸状菌の近縁種が本研究で確立した方法により二形性変化を示すか調べるために、(独)製品開発評価技術基盤機構のバイオテクノロジーセンター(NBRC)より約40株の菌株分譲を行い、比較検討する。 一方、研究実施においてイオンビーム変異株を取得するために、(財)若狭湾エネルギー研究センターのマシーンスケジュールに合わせて出向き、糸状菌サンプルへ照射するなどの実験や研究打合せを行う予定である。さらに、平成25年度に開催されるイオンビーム育種研究会大会や化学工学会年会などへ出席し、研究調査ならびに研究成果の報告を行う。
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Research Products
(5 results)