2013 Fiscal Year Research-status Report
エタノール発酵糸状菌の二形性化を利用した単細胞化制御と糖化発酵同時進行への応用
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24560958
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
星野 一宏 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 准教授 (20222276)
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Keywords | エタノール発酵 / 糸状菌 / 接合菌 / 二形性 / バイオマス / セルラーゼ |
Research Abstract |
新規に見出した接合菌Mucor circinelloidesは、好気・嫌気条件で各種糖質を資化・発酵でき、さらに、cellulaseなどの多様な加水分解酵素を分泌することができる。これ故、新規なエタノール発酵微生物として期待されている。この接合菌の一種は古くよりMucor感染症の原因菌として研究が進んでおり、通常の好気条件下では糸状菌状態、また、生体内環境では単細胞化して存在することが知られていたが、この形態変化(二形性変化)の生化学的メカニズムは解明されていない。そこで、本研究では、接合菌エタノール発酵糸状菌の能力を最大限に発揮させるために、好気条件下で定常的な単細胞化を達成させ、バイオマスからの直接エタノール発酵へ応用させることを目標に、細胞膜中の脂質合成経路、及びErgosterol合成経路などに関与する酵素のグラフト情報とプロテォーム解析をもとに生化学的に二形性変化に係わる因子を検証した。その結果、従来より指摘されていた、培養液中の溶存炭酸ガスのレベル、Ergosterolの合成抑制、脂肪酸生合成の調節のみならず、胞子からの発芽初期の細胞内cAMPのレベルが二形性変化に大きく係わっていることを見出した。、cAMPの合成酵素であるAdenylyl cyclaseおよびcAMP分解酵素であるcyclic AMP phosphodiesteraseの阻害剤を添加した培養により、形態変化を調節できることを新規に発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が開発を進めているエタノール発酵糸状菌を実用化させるために、本糸状菌の二形性現象を解明し、安定な単細胞型エタノール発酵糸状菌を構築すること、さらに、この糸状菌のみを用いたセルロース系バイオマスからの糖化発酵同時進行(CBP)プロセスを開発することを目指し、平成24年度より、二形性の制御に取り組んできた。我々が発見したMucor circinelloides株は、N2/CO2は7/3の嫌気環壌下で確実に単細胞化すること、単細胞化した細胞膜中の成分である脂肪酸含量の減少や流動性に関与するErgostero1量が減少することを明らかにした。さらに、細胞内のcAMPのレベルが、二形成変化に大きく関係し、cAMP合成酵素促進剤の添加やcAMP分解酵素阻害剤の添加により、単細胞状態が維持できることを新規に見出した。本研究成果は、二形性を示す病原性糸状菌の感染抑制などにつながる大きな成果であると考えられる。また、細胞内のcAMPのシグナル伝達により、脂肪酸生合成やErgosterol生合成の阻害が生じ、糸状化への抑制を行ったいる可能性かが示唆された。。平成25年度は、形態変化に関わる細胞内成分、cAMPを見出し、二形性に係わるそれら代謝酵素群を生化学的に解明できたことから、おおむね順調に研究は進展しているといえる。さらに、本メカニズムを活用することで、通常の単細胞型エタノール発酵微生物である”酵母”と同様な発酵プロセスが構築できる可能性があることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
接合菌の単細胞化において平成24-25 年度の成果を踏まえて、細胞壁生合成の調整物質や、二形性変化に伴う細胞内cAMPのレベルを詳細に検討し、好気培養系でも単細胞化できる培養条件を確立する。生化学的検討において、細胞壁の形成に関わる酵素群、例えば、キチン合成酵素、脂肪酸伸張酵素、脂肪酸不飽和化酵素、cAMP合成酵素、cAMP分解酵素などをターゲットとして、プロテオーム解析(2D-PAGE + LC/MS/MS)などを行うと共に、発現タンパク質の相違により、単細胞化関連酵素群の特定を行う。さらに、この結果を活用し、単細胞化の安定化を目指し、最適培養条件の確立を行う。 次に、イオンビーム変異法は、近年、植物の変異やバクテリアの変異誘導に利用されてきたい新規な変異誘導技術である。そこで、本研究目的である糸状菌の単細胞化は、細胞膜および細胞壁の生合成に関わる酵素とcAMPに係わる酵素の変異により達成できると考えられる。そこで、培養工学的に単細胞化させた糸状菌に対して、イオンビーム変異を行い安定化した単細胞化株の取得を目指す。実際には、若狭湾エネルギー研究センターで、イオン源の種類(プロトン、カーボン)、照射強度を変えることにより変異誘導を行った後、スクリーニングを行い。単細胞化を目指す。さらに、獲得した単細胞型エタノール発酵糸状菌について、各種糖質のエタノール発酵能および各種加水分解酵素の分泌能を親株と比較する。また、培養条件を詳細に検証し、単細胞化した糸状菌のエタノール生産およびセルラーゼ分泌の向上を図る。最終的に、新規に開発した単細胞型エタノール発酵糸状菌のみを活用した糖化発酵同時進行(CBP)により、セルロース系バイオマスである稲わら、麦わら、刈り芝、コピー用紙、新聞紙などからエタノールを直接発酵生産することを実施する。
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Research Products
(10 results)