2012 Fiscal Year Research-status Report
実験及びMD計算統合による有機物を含む汚染土壌廃棄物中のCs脱離挙動の解明
Project/Area Number |
24561036
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡辺 直子 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (20624711)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小崎 完 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60234746)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 放射性セシウム / 土壌 / 収脱着 / MD計算 / 有機物 |
Research Abstract |
福島第一原子力発電所の事故により環境中に多量に放出されたCsの環境中での移行挙動を把握することが重要である。Csは土壌中の粘土質に強く収着する一方、その収脱着は土壌中の有機物の影響を受ける。本研究は、放射性Csを含む土壌廃棄物の処理・処分に際し、その構成要素である土壌自体の持つバリア機能について、長期信頼性・安定性の評価に資することを目的とし、実験と分子動力学(Molecular Dynamics :MD)計算を組み合わせ、粘土質・Csの相互作用に土壌有機物が影響を与えるメカニズムを理解することを目指す。平成24年度は、Csの収着サイトの差異を特定できるような脱離の実験的手法及びCsの収着特性に影響を与える有機物の性状を解析する手法を検討した。福島県にて採取した土壌試料を用い、バッチ式収着実験及び、イオン交換、酸による脱離試験を行った。K+による脱離は、フロイントリッヒ脱着等温線で表せた。また、イオン交換、酸による脱離量、残渣量は、CEC、有機物含有量、粘土サイズ含有量などの土壌特性とは相関を示さなかった。土壌及びベントナイトにフルボ酸及びフミン酸の溶液を加えて収着試験を行い、有機物が分配係数(Kd値)に与える影響について検討した。Kd値は、固相の種類、添加有機物の種類や有機物を加えるタイミング(Cs添加の前か後か)によって増加する場合と減少する場合があり、有機物がCsの移行挙動に与える影響は一様でないことがわかった。MD計算コードでは、層間を持たないパイロフィライトのACエッジにおけるCsの錯形成サイトのシミュレーションを行った。Csは、パイロフィライトのエッジ部分で複数の内圏錯体、外圏錯体、拡散層での錯体を形成するが、Csの分布ではほとんどが内圏錯体を形成していること、内圏錯体の一つは、パイロフィライトの2つの層を架橋する結合形態をとることがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
収着・脱離の実験手法については、福島県にて採取した土壌試料を用い、全土壌と分級したものそれぞれについてバッチ式収着実験及び、イオン交換、酸による脱離試験を行い、手法を確定することができた。また、溶存有機物を添加する実験については、Kd値の変化及びこれに伴う有機物の質の変化をHPLCとサイズ排除カラム及びオクタデシルシリル基カラムを用いて分子量及び親・疎水性特性を把握することとした。MD計算については、層間を持たないパイロフィライトを用い、エッジ部分での錯形成のシミュレーション手法を確立した。 計画事項として挙げていた点全てについて着手し、次のステップが見える段階までの成果を出しており、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
25年度は、マクロ的に関連づけられた有機物の特性がどのようにCsの収着に影響を与えるか、そのメカニズムの理解を目指す。有機物の特性(分子サイズ、官能基の種類と量、親水・疎水性等)と、それらが及ぼす粘土質の変化、その結果としてのCs収着への影響について、粘土質の表面、層間、エッジそれぞれへの収着についての仮説をたてる。有機物による収着挙動影響メカニズムの仮説に基づき、粘土鉱物-有機物錯体を形成した場合における、Csの収脱着挙動を粘土鉱物のみの場合と比較する。粘土鉱物-有機物錯体形成には、標準有機物を分子量、親水・疎水性等の特性ごとに分画したものや、土壌有機物のアナログと考えられる化学物質(多糖類、タンパク質、タンニン、脂肪酸等)を用いる。これらのモデル錯体へのCs収脱着実験より、仮説を検証する。また、溶存有機物が金属の溶解等の土壌中の鉱物変化を促し、その結果としてCs収着に影響が起こる場合を想定し、有機キレート剤溶液存在下での収脱着を比較する。MD計算においては、雲母粘土鉱物のエッジでのCs収着のシミュレーションを行う。また、計算を土壌有機物を含む系に拡張できるよう、モデル土壌有機物質についての計算条件の設定を行う。 26年度は、粘土鉱物と有機物の組み合わせについてCs収着が促進・阻害されるメカニズムについて、土壌有機物が粘土鉱物表面に吸着する場合と、溶存有機物が金属の溶解など粘土鉱物に変化を起こす場合の2つのケースについて整理する。MD計算では、粘土鉱物エッジ、有機物、Csの3元系でCs収着のシミュレーションを行い、収着の化学的な安定性、有機物が収着に及ぼす影響メカニズムを理論的に理解する。実験、MD計算両方の結果より、有機物、粘土それぞれの特性・量、pH、共存イオンの種類・濃度など環境条件が、有機物を含む土壌廃棄物中でのCsの安定性に及ぼす影響ついて総合的な評価を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度は主にMD計算を行い、また、国際学会に参加して情報収集を行った。実験については手法を検討するための予備実験が多かったため、実験関係の消耗品で未使用額が発生した。25年度には様々な土壌サンプルを入手し、本格的に実験を開始するため、必要な器具、試薬を購入して、24年度未使用分についても使用する予定である。
|
Research Products
(4 results)