2012 Fiscal Year Research-status Report
イオンビームを用いた三次元構造を持つ機能性高分子シート作製に関する研究
Project/Area Number |
24561042
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
谷池 晃 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 准教授 (50283916)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 放射線グラフト重合 / イオンビーム / ゲル / 導電性ポリマー |
Research Abstract |
イオンビームグラフト重合法を用いてポリエチレン中の一部分にアクリル酸をグラフト重合した.グラフト鎖部分に水を吸収させゲル状態にし,その部分の抵抗値測定を行った.抵抗値は数MΩで,導電率は最大で50μS/cmとなった.この値は,イオン水よりも小さいが,水を吸収したときのみ導電性が現れるので,センサー,スイッチ等への応用が考えられる.また,水は10分以上保持できることがわかった.これは,試料表面から水が蒸発するためである.表面部分を後述のグラフト鎖が存在しない部分にすると蓋をすることができ,長時間保持することが出来ると思われる. 導電性ポリマー作製用のEDOTモノマーを用いて,導電性ポリマーPEDOTが合成できることを確認した.そして,PEDOTのポリエチレン内部への導入を試みた.イオンビームグラフト重合法を用いて直接PEDOTをグラフト重合する方法と,他のポリマー鎖にからめる方法を考えて実験を行った.これまで,設定条件が不十分なため,導電性は確認できていない. 高フルエンスで照射を行うことにより,引き続くイオンビームグラフト重合において,グラフト鎖が存在しない領域をポリエチレン中に形成することができた.また,イオンビーム照射によりポリエチレン内部に二重結合が生成することをフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)装置を用いて確認した.この二重結合はフルエンスの増加に対して増加することがわかった.このことは,イオンビーム―ポリマー相互作用の物理現象の詳細な説明ができる手がかりとすることができる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ポリエチレン中の一部分にアクリル酸をグラフト重合し,水を導入,ゲル領域を形成した.その部分の導電率を求めることはできたが,グラフト率,入射イオンのエネルギー等のこれまで取り扱ってきたパラメータ以外のパラメータ,例えば表面状態,が存在すると思われる.顕微鏡の観察等の追試が必要である.ただ,昨年度の生産工場の事故により,アクリル酸試薬の入手ができなくなった.現在は代替品を検討しているところであり,追試験が滞っている. 導電性ポリマーPEDOTの導入を試みた.イオンビームグラフト重合法で直接導入を行うか他のポリマー鎖にからめることを考えたが,設定条件が不十分なため,PEDOTの導入と導電性は確認できていない.これは,PEDOTのポリマー鎖は短いために,導電性を示さなかったと思われる.電子を有効的に運べるようなポリマー鎖の配置を考える必要がある. 高フルエンス照射によってグラフト鎖が導入されない部分の形成を行った.試料中の二重結合の量のフルエンスに対する依存性を測定できた.高フルエンス照射時のポリエチレン中のラジカルを電子スピン共鳴装置で測定することで,さらに有用な結果が得られると思われる. グラフト鎖をシートの中央のみに配置し,層を形成することを試みた.使用したポリエチレンシートの構造からか,層の形成は確認できていない.
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Strategy for Future Research Activity |
電子スピン共鳴装置を用いて,イオンビーム照射後のポリエチレン試料中のラジカル測定を行い,高フルエンス照射に対するラジカル量を測定する.平成24年度に測定した二重結合量も踏まえて,グラフト重合に関わるイオン―ポリマー相互作用について考える. 本学加速器のマイクロビームラインに照射システムを構築し,放射線グラフト重合法を行う.照射試料を動かすことにより,これまでは不可能であったような形状のグラフト鎖領域を作成する. 平成24年度にはできなかった,導電性ポリマーの導入を実施する.アクリル酸が購入できない場合,別のモノマーを検討する. ゲルの水分閉じ込めのために,ポリマー中にグラフト鎖層を形成する.そのためには厚さ方向に均質なポリマーが必要と思われるので,現在使用しているポリエチレンシート以外のポリマー材料を検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の生産工場の事故により,アクリル酸試薬の入手ができなくなった.十分な追試験が行われていないので,薬品の購入及びそれに伴う器具の購入ができなかった. 平成25年度は本学タンデム加速器のマイクロビームラインに新設するチェンバーに取り付けるx-y移動ステージを購入する.このとき,照射中に内部が観測できるように,ビューポート付きアクセスドアを購入し,取り付ける.さらに,本研究費は薬品,ガラス器具,その他消耗品および関連図書の購入に使用する.また,9月にベルギー行われる国際会議(ECAART11)で発表するため,その旅費等に用いる.
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