2012 Fiscal Year Research-status Report
高エネルギーイオンビームによる金属ナノ細線の形成と燃料電池触媒への展開
Project/Area Number |
24561047
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
八巻 徹也 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究主幹 (10354937)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | イオンビーム / 潜在飛跡 / 電子励起効果 / 放射線還元 / 金属ナノ細線 / 電極触媒 / 固体高分子形燃料電池 |
Research Abstract |
本研究では、高エネルギーイオンビームの軌跡に沿って形成される円柱状の潜在飛跡を金属イオンの還元場に利用することで金属ナノ細線を作製し、固体高分子形燃料電池に応用可能な電極触媒を開発する。このうち今年度は、金属塩の水溶液を含む固体試料を得て、それに対し大気圧の下で百MeV級の重イオンビームを照射することによって、金属ナノ細線の形成条件を検討した。具体的には、以下のとおりである。 まず、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、及び金(Au)の模擬金属として銅(Cu)に着目し、その塩である硫酸銅(CuSO4)を含む水溶液を調製する一方、高分子マトリックスとしてポリビニルアルコールの架橋ゲルをγ線照射により作製した。高分子マトリックスは、CuSO4水溶液に室温で6時間以上浸漬すると青色を呈したことから、銅イオンが吸収されていることを確認できた。 次に、イオンビーム照射実験においては、上記のように水を含む試料を真空中ではなく大気圧下で照射し、かつ照射による電子励起効果のみを利用することができるよう、予めTRIMコードによる理論計算を行った。その結果に基づき、高崎量子応用研究所の照射施設で供給可能なイオンビームの中から520 MeV 40Ar14+を選択した。散乱体と多重極電磁石とを用いて形成した均一ビームを大気中に取り出し、取出し窓から5 cmの距離で試料に照射したとき、試料への入射エネルギーは約330 MeVと計算された。 さらに、現有の装置を活用するとともに本研究費で関連部品を購入することによって、小規模の照射セルを設計、製作した。この照射セルをイオンビーム取出し窓の先に設置しその中に試料を保持することで、照射の雰囲気が制御可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
金属塩の水溶液を含む固体試料を作製、及び大気圧下における同試料への重イオンビーム照射を行い、金属ナノ細線の形成条件を検討することができた。照射試料において、高分子マトリックスに対する金属塩の濃度をできる限り高めることが必須であるが、γ線照射により作製したポリビニルアルコールの架橋ゲルを高分子マトリックスとして用いることでこの課題を予想以上に早く克服できた。 また、現有装置への適合性を考慮しながら、照射セルの設計、製作を完了させ、次年度に向けて試料の照射雰囲気が制御可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
イオンビーム照射試料の形態、結晶性を走査型、透過型電子顕微鏡観察とX線・電子線回折分析によりそれぞれ評価し、その結果を金属ナノ細線の作製条件に対してフィードバックをかける。金属塩の濃度や含水量、アルコールの種類と濃度、高分子マトリックスの種類など、照射試料の作製条件だけでなく、核種、エネルギーやフルエンス、及び温度などの照射パラメータも最適化していく。 また、試料の触媒性能を示唆する電気化学特性の評価を行い、その結果も実験条件へのフィードバックにおいて考慮する。実験条件との関連性において着目すべき電気化学特性は、サイクリックボルタモグラム(電流-電圧曲線)における反応の開始電位と電流、過電圧、さらには水素の吸脱着による電気量から計算できる有効活性面積である。また、回転電極法で得られる電荷移動速度も、電極表面の拡散層の影響を排除した真の反応活性を表すので重要である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主に、金属ナノ細線の作製と触媒活性評価のための試薬・ガス、ガラス器具などの消耗品費である。特に、Pt、Ru、Pd、Auの化合物は高価であるため、今年度と同様に比較的安価なCuなども模擬金属として使用する。また、研究成果の外部への発信や研究遂行上必要な情報収集に掛る費用として、国内旅費、外国旅費及び学会登録料を計上する予定である。
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Research Products
(13 results)