2012 Fiscal Year Research-status Report
入射粒子に捉われない核破砕片生成モデルのための実験的研究
Project/Area Number |
24561051
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
佐波 俊哉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 放射線科学センター, 准教授 (90321538)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 核破砕片 / 二重微分断面積 / ブラックカーブカウンター |
Research Abstract |
近年の加速器技術の発展に伴い、数10 MeV から数100 MeV のいわゆる中高エネルギーを持つ粒子線は、医療を初めとするさまざまな分野で利用されている。中高エネルギー粒子の照射影響評価のためには、相互作用の基礎データが必要である。中高エネルギー粒子の相互作用の特徴的なものとして、核破砕片生成反応がある。この反応により生成された核破砕片は単位長さあたりのエネルギー付与が格段に大きく、大きな照射影響を引き起こす。この核破砕片の放出を完全に記述するモデルとパラメータはない。本研究は核破砕片放出過程の系統性を入射粒子種やエネルギーも含めた包括的な実測データにより明らかにすることを目的としている。 本年度は、核子入射と原子核入射の場合の核破砕片生成の系統性を調査するための実験データの取得に係わる準備実験を行った。実験条件は、これまでに陽子入射に対して取得したデータのある50MeV、70MeVに着目し、炭素72MeV、重陽子50MeV、ヘリウム70MeVを選択した。ブラックカーブカウンターを用いて、ベリリウム、炭素、アルミニウム、チタン、銅ターゲットから生成した核破砕片のエネルギーと角度分布の測定を行った。 この実験では、検出器系の可測定エネルギーを上げるために、ブラックカーブカウンターのガス圧力を上げ、薄膜アノード極板を用いて、通過粒子を半導体検出器で測定する試験もあわせて行った。これらのデータは次年度に検出器の改良とターゲットチェンバーとビームライン機器の設計・製作を行うために用いる。 測定で得られた結果と比較するために原子核入射反応を記述するQMDモデルを用いた炭素入射に対する核破砕片生成断面積の計算を行った。炭素72MeV入射の実験結果と計算結果を比較した。この比較からQMDモデルは核破砕片生成を過小評価する傾向があることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に予定された、核子入射と原子核入射の場合の核破砕片生成二重微分断面積の系統性を調査するための実験データの取得に係わる準備である、入射粒子種を変えた実験について、炭素72MeV、重陽子50MeV、ヘリウム70MeVのエネルギーについて、ベリリウム、炭素、アルミニウム、チタン、銅の各ターゲットについて実験を行った。これまでに得られている陽子の50,70MeV入射と比較可能なデータが取得できた。 また、検出器の高エネルギー化のための改良、については核破砕片の測定のためのブラックカーブカウンターのガス圧力を上げ、透過型アノード極板と半導体検出器を組み合わせた条件を実現することができた。この条件でデータ取得を行い、重粒子入射の際に前方に放出される、よりエネルギーの高い核破砕片に対応することが可能となる目処が得られた。 これらの進展により次年度以降の目的であるターゲットチェンバーとビームライン機器の設計を行うためのデータが取得できた。 また、測定で得られた結果と比較するためにQMDモデルを用いた複合粒子入射に対する核破砕片生成断面積の計算を行った。実験と計算の比較からモデルはこのエネルギー領域で核破砕片生成を過小評価する傾向があることがわかり、このエネルギー領域に対応する新たな核反応モデルが必要であることを明らかすることができた。 以上により、本課題はおおむね順調に進展しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に測定した実験データの整理を進め、追加の実験データを取得する。実験データの取得に際しては、本年の検出器系の改良試験の結果に基づき、ブラックカーブカウンターと半導体検出器を組み合わせたセットアップを確立する。 本年度測定した実験データのターゲット依存性、角度分布を考慮し、ターゲットチェンバーとビームライン機器の製作、実装を行う。このターゲットチェンバーとビームライン機器は、ブラックカーブカウンターを複数台同時に設置し、より多くのターゲットをセットするとともに、ターゲット透過後のビームをモニターする機構を備えるものとする。 取得したデータについて系統性を整理する。整理のための表式は、核子入射による核破砕片生成を記述したマクスウェル分布にクーロン障壁の寄与を加えた式を基本に検討する。また、既存の多粒子輸送モンテカルロコードによる核破砕片生成二重微分断面積の計算も行い、その結果の入射粒子依存性について調査するとともに、実験結果がどの程度再現できるかについての確認を行う。この検討に基づき、次年度測定するビーム種、ターゲット種、角度などを絞り込む。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の使用予定額のうち、物品費のブラックカーブカウンターの高エネルギー化に係わる費用を次年度使用額とする。これは当初、高エネルギー化のための半導体検出器を追加するなどの試作に使用する予定であったが、手持ちの半導体検出器を一時的に使用して組み込むことが出来たために、これを用いたデータ取得を通じて、より望ましい高エネルギー化改良を検討することにしたためである。この次年度使用額と併せた使用計画を以下に示す。 本年度の実験データに基づき、ブラックカーブカウンターを高エネルギー核破砕片の測定を可能とするように改良する。透過型アノード極板と半導体検出器の組み合わせを保持するための機構を付与するために、本年度より繰り越した物品費を利用する。 本年度の実験データの解析を進め、より効果的なターゲットセット、測定角度、ビームモニタリングの方法を検討して、これを実現するターゲットチェンバーとビームライン機器の製作、実装を行う。次年度に割り当てられている物品費より支出する予定である。 旅費は主にビーム実験のための移動と成果発表のために用いる。ビーム実験は放射線医学総合研究所のサイクロトロンを用いて行う。成果発表は日本原子力学会の秋の大会と春の年会、核データ研究会を予定している。
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Research Products
(5 results)