2013 Fiscal Year Research-status Report
多次元定量データに基づく天然出芽酵母の細胞形態多様性の分子機構の解明
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24570005
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野上 識 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特任准教授 (60332996)
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Keywords | 表現型多様性 / 細胞形態 / ノイズ表現型 |
Research Abstract |
平成25年度は、地理的にも環境的にも異なる場所から単離された S. cerevisiae 36 株に実験室株を加えた37株について、定量的細胞形態情報を用いて、ゲノムワイド関連解析を行い、37 株間に存在する細胞形態の違いが遺伝子多型に起因するかどうかを調べる予定であった。これらの 36 株は共同研究者のSchacherer(CNRS, France)らにより精密な遺伝子多型マッピングが行われている(Schacherer ら(2009))ため、表現型の違いが遺伝子多型に起因するかどうかを関連解析により検討することができる。前年度までに、これらの 37 株について細胞を培養・固定・染色し、顕微鏡観察により細胞外形・核 DNA・アクチン細胞骨格の形態情報を取得し、酵母細胞形態定量化プログラムCalMorphで細胞形態を501の形態パラメータでの数値化を完了した。その過程で、個々の細胞に着目すると、標本内分散が大きいパラメータおよび株があることが分かった。すなわち特定の形態パラメータにおいて、同一株であっても細胞によって大きく値が異なる場合があることがわかった。このような現象は表現型のノイズとして知られており、ノイズを評価するために不偏分散から平均値の効果をlowess法で分離した残差成分について解析を行なったところ、ノイズ自体が株によって異なることがわかり、ノイズそのものも表現型の一つと考えられることがわかった。株によるノイズの違いは特定の形態で見られることが多いが、多くの形態でノイズが大きくなる株も存在した。表現型のノイズは種分化や細胞応答の多様性の原因の一つとして最近注目されているが、本研究の成果はノイズの緩衝効果の表現型進化における役割についてその一端を明らかにしたものであり、これらの結果をまとめ、論文として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Nogamiら(2007)において研究代表者は、解析対象群を多型の有無で二群に分け、群間に表現型の差があるかどうかを全ての遺伝子多型・表現型の組み合わせについて検定し、並べ替え検定で False-discovery rate (FDR)を算出し、有意差のある組み合わせを見積もることで、形態表現型の多型マッピングに成功した。本研究計画でも同様の解析を行う予定で、平成24年度には、野生型株を加えた37 株の細胞形態の違いを統計的に評価するために、各株 5 回ずつの独立実験データを取得完了したため、平成25年度には、Nogamiら(2007)の方法で関連解析を試みた。多数のSNPs、多数の表現型データを扱うため検定試験数が莫大となり、検出力の低下を招くことが事前に想定されたため、一株にのみ存在する SNPs を除く、近接した SNPs はまとめて一つと見なす、標本内分散が大きい形態パラメータを使用しないなどにより、あらかじめ有効な SNPs および形態パラメータを選抜することで検出力を上げる工夫をしてみたものの、有意な関連を検出するには至らなかった。これには、本研究の過程で明らかとなったノイズの大きい株や形態パラメータの存在が検出力を下げている可能性が考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、引き続き野生酵母37株についてSNPと表現型データとの間の関連解析を行なう。前年度同様、検出力の増大を図るために、一株にのみ存在する SNPs を除く、近接した SNPs はまとめて一つと見なす、標本内分散が大きい形態パラメータを使用しないなどにより、あらかじめ有効な SNPs および形態パラメータを選抜することにする。検出力を上げるための他の対策として、必要に応じ追加実験を行ないサンプル数(株および繰り返し数)の増加を行なう。またCalMorphで測定する形態定量データは形態パラメータごとに分布や分布域が異なる。このようなデータで二群間の表現型データの差を検出するために、Nogamiら(2007)ではノンパラメトリックな検定法である U 検定およびその変法を用いたが、U 検定は頑健性がある一方で、データを順位に変換してから検定に用いるため、定量データの持つ情報を活かしているとは言いがたい。そこで、37 株の表現型データの分布を混合正規分布にフィット(Fraley(2007))することで 37 株を表現型に基づく二群に分割し、分割した二群と一致を示す SNPs を二項分布に基づく一般化線形混合モデル(GLMM)(Brostrom(2008))で検出する。 検出された遺伝子多型が細胞形態の違いの原因であるかどうかを、(1)実験室酵母株に多型アリルを導入した株、 (2)候補遺伝子の多型アリルを交換した株、 (3)天然出芽酵母株の交配による子株、(4)実験室酵母株での複数遺伝子同時変異株などを作成し、関連解析や表現型解析を行ない、実験的に検証する。
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Research Products
(1 results)