2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24570015
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
工藤 岳 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (30221930)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 気候変動 / 生態系応答 / 高山生態系 / 植生変化 / 生物間相互作用 / 生物多様性 |
Research Abstract |
本研究は、高山生態系における急速な植生変化の現状把握とメカニズムの解明を目的としており、環境変動に対する生理特性の応答、繁殖特性の応答、個体群動態、植生構造の変化といった様々なレベルで生じている生態学的プロセスを解明するものである。初年度は、1970年代に行われた植生調査の再調査を行い、過去30~40年間にどの程度の植生変化が起きているのかを評価するデータを収集した。そして高山帯を特徴づけるハイマツ帯の動態を定量化するために航空写真の解析と過去20年間のシュート伸長速度を計測し、気候変動に対するハイマツの応答について解析した。また、大規模個体群の消失が進行しているハクサンイチゲの個体群動態解析を行った。さらに、主要な花粉媒介昆虫であるマルハナバチ類の季節動態と主要な高山植物の開花時期の対応を調査した。 以上の結果から、ハイマツの年枝成長は前年の夏の気温と日射量が関係しており、多くの山域で夏の気温上昇が見られることが明らかとなった。それに対応し、ハイマツ帯の分布域が過去30年間で顕著に拡大していることが判明した。一方で、春の温暖化は凍害による成長阻害を引き起こす可能性も示唆された。春の気温が温暖な年には、マルハナバチの出現時期と高山植物の開花時期に不一致が生じ(フェノロジカルミスマッチ)、その結果マルハナバチと植物の双方にマイナスの影響が起こり得ることが示された。さらに、大雪山系における湿生お花畑の消失は、雪解けの早期化に関連した土壌乾燥化が主要因であり、乾燥ストレスにより個体群の衰退が引き起こされることが示唆された。これらの成果は、生態学会で公表するとともに、複数の学術論文に投稿中、あるいは投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去30~40年間の高山植生変化を明らかにするために、過去の植生データと対応する現在の植生状況調査を行ない、植生変化の解析を行うデータが収集できたことは大きな成果である。今後の解析により、生育地に特異的な植生変化や多様性の変化の定量化が期待される。 日本の高山帯を特徴づけるハイマツの成長及び分布拡大を複数の山域で定量的に明らかにできたことは大きな成果である。その解析結果は、現在学術誌に投稿中である。 これまで長期に渡り観測してきた高山植物の開花状況データと対応する花粉媒介昆虫(マルハナバチ)の季節変動モニタリングを開始したことにより、気候変動が生物間相互作用に及ぼす影響を評価するモニタリングシステムを構築することができた。その最初の成果として温暖気候は高山植物の開花時期と花粉媒介昆虫の季節性のミスマッチを引き起こす可能性があることを実証できた。この成果については現在、論文執筆中である。 高山生態系で最も顕著な植生変化である湿生お花畑の大規模な消失の主要因として、雪解け時期の早期化による乾燥ストレスが重要であることを突き止め、実際の個体群衰退を予測する個体群動態モデルの構築を進めることができた。これは、気候変動に伴う高山植生変化を予測する上で、大変重要なパイオニアワークと位置づけられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究に関しては、基本的に前年度と同様の現地調査を行い、更なるデータの追加ならびに年変動の解析のための野外生態データならびに気象データの収集を行う。同時に、これまでの調査で得られたデータ解析を行い、成果のまとめと公表に向けての論文執筆を行う。 今年新たに行う計画としては、春の温暖化がハイマツの光合成機能に及ぼす負の効果を生理生態学視点から計測する。そして、ハイマツの成長が温暖化とともにどのように変化し、その結果として他の高山植物の組成や多様性にどのように影響するのかを評価するデータ収集を行う。 また、気候変動が植物と訪花性昆虫の相互作用に及ぼす影響をより普遍的に評価するために、マルハナバチに加えてハエやハナアブの季節動態も含めて調査し、季節性のミスマッチが植物の繁殖成功度にどの程度影響を及ぼすのかを明らかにする。 さらに、近年お花畑への侵入拡大が進行しているチシマザサの生産能力、分布拡大様式を解析し、ササの拡大に伴うお花畑衰退のメカニズム解明に向けた現地調査を強化する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度の野外調査は天候不順により調査回数が予定よりも少なかったため、予定していた調査旅費の一部は次年度の野外調査に使用予定である。また、冬期に気象観測機器が破損する可能性もあり、計測機器のメインテナンス経費として使用する可能性がある。
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Research Products
(1 results)