2013 Fiscal Year Research-status Report
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24570015
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
工藤 岳 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (30221930)
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Keywords | 気候変動 / 生態系応答 / 高山生態系 / 植生変化 / 生物間相互作用 / 生物多様性 / 大雪山国立公園 |
Research Abstract |
本研究は、高山生態系における急速な植生変化の現状把握とメカニズムの解明を目的としており、環境変動に対する生理特性の応答、繁殖特性の応答、個体群動態、植生構造の変化といった様々なレベルで生じている生態学的プロセスを解明するものである。平成25年度は、北海道大雪山系において以下の調査を行った。気候変動に対するハイマツ帯の応答について、温暖処理ならびに被陰処理実験を行い、環境変化に対するハイマツの成長応答について解析した。主要な花粉媒介昆虫であるマルハナバチ類ならびにハエ類の訪花活性の季節動態と主要な高山植物の開花時期の対応、結実率との関係を調査した。さらに、湿生高山草原への侵入が進行しているチシマザサの刈取り処理実験の追跡調査を行い、ササの除去により高山植生がどの程度回復するのかについて測定を行った。 ハイマツの成長応答については前年の生育期の気象条件が作用するため、環境操作実験の解析には次年度の継続実験が必要である。温暖年にはマルハナバチの出現時期と高山植物の開花時期に不一致が生じ、ハチ媒花植物との送粉共生系に負の影響が起こる危険性が高まるが、ハエ媒花植物については気候変動の影響が起き難いことが示された。さらに、大雪山系における湿生お花畑へのササの侵入は、雪解けの早期化に関連した土壌乾燥化が主要因であり、ササの被圧により高山植生が急速に衰退するが、ササの除去により植生回復が見込まれること等が明らかとなった。これらの成果は、生態学会で公表するとともに、複数の学術論文に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに行ったハイマツの気候変動に対する成長応答を、実験的に再現する研究に着手できた。気候変動が高山生態系の送粉系相互作用に及ぼす影響については、これまで主に膜翅目昆虫(マルハナバチ類)にのみ着目してきたが、非常に一般的な花粉媒介昆虫である双翅目昆虫(ハエ類)を含めたモニタリング調査に拡張できた。さらに、2008年に開始したチシマザサの刈取り実験を継続し、刈取り処理後5年間の植生構造変化を計測でき、ササの除去にともなう高山植生の回復過程を定量的に評価することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度には昨年度行った調査を継続し、その結果を解析して総括を行い、成果を学術誌に公表する。 次年度新たに計画している調査として、ハイマツの気候変動に対する応答を生理的に評価するために、蛍光光合成活性を測定して春の温暖化がもたらす負の効果(耐寒性の低下後の霜害によるストレス)についても検討する。また、チシマザサの分布拡大過程の解明として、地上部刈取りならびに地下部の掘り取り調査により、バイオマスの蓄積過程を地下茎の発達に伴う栄養成長の観点から評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
データ処理のために予定していた人材確保が予定通りにできず、人件費として計上していた経費の一部が残ったため。 当初の予定通りの人材を確保し、データ処理のための人件費として使用予定。
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