2013 Fiscal Year Research-status Report
植物の二次代謝物質がアリ共生型アブラムシの起源と進化に与えた影響について
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24570016
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
八尾 泉 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 農学研究院研究員 (70374204)
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Keywords | タンニン / アリ共生型アブラムシ / カシワ / 含水率 / 個体群動態 / 二次代謝物質 / 季節変化 |
Research Abstract |
研究の目的:植物篩管液を吸汁するアブラムシは,季節進行による寄主植物の栄養劣化や葉の物理的硬化の影響をうけて,春から夏にかけて体サイズや胚子数が減少していく。カシワに寄生するカシワホシブチアブラムシはアリと共生する種で,通年カシワの葉にコロニーを形成する。アリとアブラムシは,アブラムシの尾部から排出される甘露の質と量で共生関係が可塑的に成立しており,寄主植物の栄養状態がその関係に影響を与えていると考えられている。本研究では,植物の二次代謝物質としてよく知られているタンニンを,カシワから経時的に抽出・定量し,カシワホシブチアブラムシとアリの個体群動態との相関を検証した。 研究実施計画:北海道石狩市の海岸草原にパッチ状に点在する10本のカシワを定点木として選び,6~10月の期間に2週間ごとに,木ごとに5枚の葉をランダムにサンプリングした。採集した葉は,葉面積を測定するためにスキャナーで画像を取り込んだ。また湿重量と乾燥重量から含水率を測定した。また一穴パンチで葉柄付近の葉をくりぬき,乾燥後にウルトラマイクロ天秤で重量を測定した。これは葉の厚みを経時的に測定するために行った。乾燥させた葉は5枚まとめてミルサーで粉砕し,タンニンの定量に使用した。タンニンは,加水分解型タンニンと縮合型タンニンの両方を定量した。結果:現段階で得られている結果を示す。 (1)アブラムシの個体群は8月初旬がピークとなり,その後減少し,秋まで少ない個体数で推移した。 (2)葉の含水率は,測定開始時の6月初旬が72%の最大値を記録し,その後7月下旬の55%まで減少した。その後10月下旬まで55%前後で推移した。 (3)加水分解型タンニンは,6月が最大値を記録し,その後減少していき,低い値で10月まで推移した。 (4)縮合型タンニンは,6月初旬には検出されず,その後増加していき7月下旬に最大値に達した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の二本柱である植物の二次代謝物質とアリ共生型アブラムシの関わりにおいて,植物の二次代謝物質として代表的なタンニンの定量は,加水分解型と縮合型とに分けて経時的に定量することができた。特に,タンニンに関する先行研究の多くが,縮合型タンニンのみを定量化しているなかで,本研究では加水分解型タンニンも同時に定量している点で,優れているといえる。さらにカシワの葉の外部形態に関する諸形質も記録できた。今後は生データを分析し,グラフ化する予定である。 一方,タンニン分解酵素を産する細菌がアブラムシ内に存在するのかという点については,現段階では検出されず,今後の展開を考慮中である。また,アブラムシ内の細菌叢を調べている段階で,ブフネラとボルバキアが検出され,それらの季節的定量や,ブフネラとアリ共生型アブラムシの進化的な関係が見出されてきており,当初予想していなかった現象が明らかになってきた。 ブフネラとボルバキアの定量において,リアルタイムPCRを使用するが,この際reference geneとしてハウスキーピング遺伝子とよばれる遺伝子も増幅させるが,最近このハウスキーピング遺伝子の発現が,必ずしも一定ではないという報告がされており,ブフネラとボルバキアの定量の前に,ハウスキーピング遺伝子候補の7つの遺伝子に関して,その安定性を確かめる実験を追加することになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,タンニン含有量とアブラムシ個体群動態との相関,あるいはタンニン含有量とアブラムシの形態形質との相関を分析し,論文にまとめる。一方,アブラムシ内の微生物,ブフネラとボルバキアは,それぞれの季節ごとの定量化を試みる。両者の定量をする前に,前述した7つのハウスキーピング遺伝子の季節ごと・アリ共生の有無・実験木ごとの安定性を調査する予定である。どのような結果が得られても,ハウスキーピング遺伝子の安定性を野外で調べた研究は他になく,この調査は意義があるだろう。 7つのハウスキーピング遺伝子の中で最も安定したものを用いて,ブフネラとボルバキアの定量を上記のカテゴライズで調査する。 また,アリ共生とブフネラの関わりについて,Tuberculatus属アブラムシ23種を対象に,ブフネラ特有の遺伝子を複数領域調べ,現在16Sr-RNA遺伝子で作成した分子系統樹から得られた結果「アリ共生型アブラムシのブフネラは,ホストアブラムシの種間で遺伝的差異が小さい」ことを,さらに検証する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予想していなかった,共生細菌ブフネラがアリ共生型アブラムシの進化に関与している傾向が見られたために,その研究内容を生態学会(広島大会)で発表するための旅費として必要となったため,前倒ししたところ、残額が生じたため。 「Tuberculatus属アブラムシの共生細菌ブフネラは宿主のアリ随伴と体色に関与しているか?」というタイトルで,生態学会(広島大会)で発表した。請求金額は10万円単位でしかできないために,学会参加後に残額が生じた。しかし次年度に繰り越された残額は,平成26年度に予定しているアブラムシ内共生細菌ブフネラの季節的定量を行うための実験に使用する予定である。
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Research Products
(9 results)