2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24570032
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagano University |
Principal Investigator |
高橋 大輔 長野大学, 環境ツーリズム学部, 教授 (90422922)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 性淘汰 / 雌の性的形質 / 配偶者選択 / ハラスメント |
Research Abstract |
本研究は、これまで性淘汰理論の研究分野において未解決であった雌の二次性徴形質の進化メカニズムの解明を目的とする。申請者は、雌の二次性徴形質は、雄の行動的操作を通じた雌の配偶者選択の精度の向上に有利なために進化するという新規の仮説を提案する。この仮説を検証するために、雌が婚姻色を示すハゼ科魚類トウヨシノボリを研究材料にして、光環境を操作した水槽実験を行う。そして、本種の雌の婚姻色が、雄を雌に素早く遠距離から引き寄せることにより、雌が配偶者選択に要する時間等の確保や他個体からのハラスメントを回避し、雌の配偶者選択の精度の上昇に貢献するかを検討する。 平成24年度は、1)雌の体内卵数と雌の婚姻色の発現の程度との関係、2)雌の婚姻色の発現程度に対する雄の配偶者選択性を調べると共に、3)雌の婚姻色が雌の配偶者選択の精度に及ぼす効果を調べるための予備実験を行った。偏相関分析の結果、雌の全長と体内卵数とは正の相関関係にあったが、雌の婚姻色の発現程度[婚姻色面積比(体側面積/婚姻色面積)、婚姻色の色相・彩度・明度]と雌の体内卵数及び生理的コンディション(肝量指数)との間に有意な相関は認められなかった。また、二者択一法を用いた雄の配偶者選択実験では、雄は雌の婚姻色の発現程度や全長に対する選好性を示さなかった。以上より、本種の雄は婚姻色の発現程度も含め雌の外部形態に基づく配偶者選択を行わないことが示唆される。従って、雌の性的形質の進化を説明する仮説の1つである相互的配偶者選択は、本種の雌の婚姻色の進化の説明としては不適であると思われた。また、雌の婚姻色が雌の配偶者選択の精度に及ぼす効果を調べるための大型水槽を用いた予備実験を行い、水槽設定(ライトやビデオカメラの配置等)を確認すると共に、雌の婚姻色に近い色のカラーフィルターを選別をした。これらの成果は、次年度の実験に利用する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に実施予定だった3つの調査項目[1)雌の体内卵数と雌の婚姻色の発現の程度との関係、2)雌の婚姻色の発現程度に対する雄の配偶者選択性、3)雌の婚姻色が雌の配偶者選択の精度に及ぼす効果を調べるための予備実験]は概ね遂行することができた。特に平成24年度の研究の重点項目であった雄の配偶者選択性については、雌の婚姻色との間に関連性を持たないことが明らかとなった。これまで申請者がしばしば利用してきた二者択一法を雄の配偶者選択実験に採用したことが、平成24年度の実験をスムーズに行うことができた最大の要因であると思われる。当年度の実験結果は、これまで雌の性的形質の進化を説明する仮説としてしばしば用いられていた相互的配偶者選択が、本種では適応できないことを強く示唆するものである。この仮説が棄却できたことは、本研究が確実に一歩前進したことを意味し、本研究が指摘するように、雌の性的形質の進化について新規の理論を構築が不可欠であることを強く支持するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、雌の婚姻色が雄の雌発見効率及び雄からのハラスメント回避、そして雌の配偶者選択性の精度に及ぼす効果の検討に関わる飼育実験を行う予定である。雌の婚姻色が、雄からの発見されやすさや、求愛を受けていない雄からのハラスメント頻度、そして雌 の配偶者選択性の精度にどのような効果を及ぼすのかを知るために、光環境を操作した水槽実験を行う。まず、 野外で採集した個体を蛍光色素の皮下注射により個体識別を行った後、雌雄別々に飼育水槽に入れて1週間程度 飼育し、室内環境に順化させる。実験には、実験水槽内を通常の白色光ライトで照らした白色光水槽と、Long a nd Houde(1989. Ethology 82: 316-324)を参考に、カラーフィルター(フィルターの色の選別は平成24年度に実施済み)を用いて雌の婚姻色と同じ青色光で水槽内を照射し、雌の婚姻色の色彩効果を低減させた青色光水槽の2つの光条件を作る。実験水槽内に、全長や雌が配偶者選択の手がかりに用いる第一背鰭長 (Suk and Choe 2002. J. Fish Biol. 61: 899-914)などの外部形態を計測した雄5個体と婚姻色を示した雌( 以下、婚姻色雌)1個体を投入し、雌雄の行動を観察する。行動観察にはデジタルビデオカメラを用い、撮影した映像をコンピューターに取り込んで、婚姻色雌の水槽への投入から雄が雌を発見するまでに要する時間や、雌雄の移動距離、雄の求愛頻度、雄間の闘争頻度を通常光水槽と青色光水槽とで比較する。また、最終的に雌が産卵した雄(すなわち、雌が好んだ雄)の第一背鰭長を両水槽間で比較し[解析手法はSuk and Choe(2002. J. F ish Biol. 61: 899-914)を参考にする]、雌の婚姻色が雌の配偶者選択の精度に及ぼす効果を推定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の直接経費600000円(物品費75000円、旅費160000円、人件費・謝金150000円、その他215000円)および平成24年度の直接経費繰越金11663円の使用計画は以下である。平成24年度の繰越金(11663円)および平成25年度物品費(計75000円)は、飼育実験の遂行に必要な消耗品[人工飼料(30000円)、標本用ホルマリン(10000円)、保存用サンプル管等(45000円)]の購入に充てる予定である。また、旅費(計160000円)は、研究成果の公表を目的とした日本魚類学会年会(2013年10月に宮崎市で開催予定:60000円)および日本生態学会大会(2014年3月に広島市で開催予定:100000円)への参加に関わる旅費に使用する。人件費・謝金(計150000円)は、行動観察データの採取と標本の計測ならびに解剖に関わる謝金として使用する。その他の費目(計215000円)は、学術誌への研究成果の投稿料(100000円)や外国論文の校閲費用(100000円)、日本魚類学会年会参加費(7000円)、日本生態学会大会参加費(8000円)に充てる予定である。
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