2013 Fiscal Year Research-status Report
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24570032
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Research Institution | Nagano University |
Principal Investigator |
高橋 大輔 長野大学, 環境ツーリズム学部, 教授 (90422922)
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Keywords | 性淘汰 / 雌の性的形質 / 配偶者選択 / ハラスメント |
Research Abstract |
本研究は、これまで性淘汰理論の分野において未解決であった雌の二次性徴形質の進化メカニズムの解明を目的とする。申請者は、雌の二次性徴形質は、雄の行動的操作を通じた雌の配偶者選択の精度の向上に有利なために進化するという新規の仮説を提案する。この仮説を検証するために、雌が婚姻色を示すハゼ科魚類トウヨシノボリにおいて光環境を操作した水槽実験を行い、雌の婚姻色が配偶者選択の精度の上昇に貢献するかを検討する。 平成25年度は、雌の婚姻色が雌雄の求愛行動や雌の配偶者選択性の精度にどのような効果を及ぼすのかを知るために、光環境を操作した水槽実験を行った。実験には、水槽内を通常光に近い白色光ライトで照らした白色光水槽と、雌の婚姻色の色彩効果を低減させるために雌の婚姻色に近い青色光ライトで水槽内を照射した青色光水槽を用いた。そして、それぞれの水槽に雄5個体、雌1個体を投入し、雌が産卵するまでの雌雄の行動をデジタルビデオカメラで記録しながら観察した。最終的に雌と番った雄を雌に好まれた雄とみなし、雌の選好性と雄の形質との関係を一般化線形モデルを用いて解析したところ、白色光水槽では雄の全長、第1背鰭長、肥満度が雌の選好性に関係していることがわかった。一方、青色光水槽では、雌の選好性は雄の全長及び肥満度で説明できることが明らかとなった。これらの結果は、雌の婚姻色の色彩効果が弱まると、雌は雄の第1背鰭のサイズに基づく配偶者選択を行わないことを示唆する。また、白色光水槽よりも青色光水槽の方が、雄からの雌へのインタラクション頻度が高い傾向が見られた。もし雄の雌への過剰なインタラクションが雌の的確な配偶者選択を阻害するのであれば、青色光水槽において、雄の第1背鰭長に対する雌の選好性が観察されなかったことは、雄のインタラクション頻度が高かったことによって説明できるかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度に実施予定だった雌の婚姻色の視覚的効果を操作した水槽実験をおおむね遂行することができた。当該年度の実験結果は、雌の婚姻色は、雄の雌へのインタラクションを抑え、雌が十分な配偶者選択を行うために機能する可能性を示唆する。そのため、雌の二次性徴形質は雄の行動的操作を通じて雌の配偶者選択の精度の上昇に貢献するという申請者の仮説は支持される。次年度は、当該年度と同様の水槽実験を継続し、より詳細な行動解析を行うことで、雄の雌へのインタラクションが具体的にどのように雌の配偶者選択性に影響を及ぼすのかを明らかにする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、雌の婚姻色が雄の雌発見効率及び他個体からのハラスメント回避、そして雌の配偶者選択性の精度に及ぼす効果の検討を知るために、平成25年度に引き続き、光環境を操作した水槽実験を行う。野外で採集した個体を蛍光色素の皮下注射により個体識別を行った後、雌雄別々に飼育水槽に入れて1週間程度飼育し、室内環境に順化させる。そして、前年度に使用した白色光水槽と青色光水槽を用い、これらの実験水槽内に全長や第一背鰭長などの外部形態を計測した雄5個体と婚姻色雌1個体、そして婚姻色を示していない雌(非婚姻色雌)4個体を投入し、雌雄の行動をデジタルビデオカメラによって撮影する。撮影した映像はコンピューターに取り込んで、婚姻色雌の水槽への投入から雄が雌を発見するまでに要する時間や、雌雄の移動距離、雄の求愛頻度、雄間の闘争頻度、非婚姻色雌の求愛妨害頻度などを通常光水槽と青色光水槽とで比較する。また、婚姻色雌が産卵した雄の第一背鰭長を通常光水槽と青色光水槽とで比較し、雌の婚姻色が雌の配偶者選択の精度に及ぼす効果を推定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末の2月及び3月に実施した動画記録の解析に関わる謝金業務において、当初予定していた業務量よりも実際の業務量が若干少なくなったため、未使用金が発生した。 平成26年度の直接経費1000000円(物品費82000円、旅費450000円、人件費・謝金150000円、その他318000円)及び平成25年度の直接経費繰越金15750円の使用計画は以下である。平成25年度の繰越金及び平成26年度物品費は、飼育実験の遂行に必要な消耗品(人工飼料等)の購入に充てる。また、旅費は、研究成果の公表ならびに情報収集を目的とした日本動物行動学会大会(2014年11月に長崎県で開催予定)、日本生態学会大会(2015年3月に鹿児島県で開催予定)等の本研究と関連する学会大会及び研究会への参加に関わる旅費に使用する。人件費・謝金は、行動観察データの分析等に関わる謝金として使用する。その他の費目は、学会誌への研究成果の投稿料や外国論文の校閲費用、学会大会参加費等に充てる予定である。
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