2015 Fiscal Year Annual Research Report
サケ科魚類における雄の降海性と降海型雄の繁殖形質の関係:進化生態学からの検証
Project/Area Number |
24570036
|
Research Institution | Japan Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
玉手 剛 国立研究開発法人水産総合研究センター, その他部局等, 研究支援職員 (30374200)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 性淘汰 / 性比 / 雄間闘争 / 体サイズ / 二次性徴形質 / 可塑性 / 生活史戦略 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度の野外調査は秋季のサクラマス親魚調査を重点的に行った。その主な調査河川は前年度と同様,北海道東部太平洋側に位置する当縁川と三陸中部の女遊戸川および音部川である。当縁川では計29尾の遡上親魚(降海型親魚)が採捕され,うち雌15尾(平均尾叉長50.9㎝),雄14尾(同46.4㎝)と,昨季同様,本種個体群における遡上親魚の性比としては雄の割合が高かった。一方,女遊戸川で捕獲した遡上親魚3尾は全て雌(同52.4㎝)であり,音部川で採捕した遡上親魚9尾中8尾が雌(同52.5㎝,雄の尾叉長は68.0㎝)と,昨季同様,これらの三陸中部河川における遡上親魚の性比は雌に偏っていた。以上のような最終年度までに得られた野外データを用い,総括的な解析・検証を行った(下段参照)。なお,今年度の論文・学会等の成果発表として,Tamate (2015, Zool Sci),玉手(2015, 第37回魚類系統研究会)等がある。
本課題では,北海道から三陸にかけての5程度の個体群における野外データを得ることができた。データ解析の結果,雄の降海性(スモルトや降海型親魚の性比で評価)と降海型雄親魚の体サイズおよび代表的な二次性徴形質(上顎長と背っぱりの高さ)との間に予想したような関係性は認められなかった。その理由の1つとして,本課題では結果的に調査個体群数が少なくなってしまったため,雄の降海性は降海型雄親魚にはたらく性淘汰圧の良い指標ではなかった可能性が考えられた。一方,降海型雄親魚のサンプルサイズが比較的大きかった北海道太平洋側の個体群において(個体群内において),雄親魚の体サイズと背っぱりの高さに年間差はなかったが上顎長に有意な年間差が認められたことから,海洋での成育条件に応じて繁殖成功に対する貢献度が相対的に低い形質(上顎長)を柔軟に変化させるという雄の生活史戦略の存在が示唆された。
|