2012 Fiscal Year Research-status Report
光ストレス下での葉緑体チラコイド膜の構造変化と動態解析
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24570053
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
山本 泰 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (40091251)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 光合成 / 光化学系II / チラコイド膜 / 光ストレス / 熱ストレス / 生体膜構造 / 生体膜動態 / 国際情報交換(ハンガリー,チェコ) |
Research Abstract |
光化学系 IIのquality controlに焦点を絞った研究の中て、本年度は,チラコイド膜の構造変化と動態について解析を行った。研究手法は電子顕微鏡、EPR、蛍光の偏光解消測定、タンパク質の生化学的諸解析、タンパク質分解の分子生物学的解析を用いた。この研究によって、光化学系 IIのquality controlに関する理解が格段に進み、光合成の環境応答の研究が大きく前進した。 具体的には,光ストレス下でのチラコイド膜の構造を、マクロとミクロの両方の視点で解析した。マクロな構造変化として、主にチラコイドのunstackingの解析、ミクロな構造変化としては、主にチラコイドの膜流動性の変化、光化学系 II複合体やFtsHプロテアーゼ六量体の膜上での移動を解析した。チラコイドのunstackingについては、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた解析をJEOL(日本電子)との共同研究で行った。 また,ハンガリーのグループとの中性子散乱分析によるチラコイド膜間距離の測定も計画中である。チラコイド膜の動態に関しては、膜流動性の変化をEPR spin trapping 法および蛍光の偏光解消法で調べた。また、チラコイド膜上のタンパク質の移動(分布の変化)については、免疫電子顕微鏡法、膜分画とタンパク質のWestern分析等で解析した。これらの結果を総合して、光ストレス下で起きるチラコイド膜の構造変化と動態の実態を明らかにし、光ストレス下でのD1タンパク質分解の「反応の場」の性格を具体的に示す準備をしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高等植物の葉緑体チラコイド膜は、その約80%がstackした状態(膜が重なりあった状態)にある。ここに可視光が照射されると、光合成の電子伝達が駆動され、その結果、水素イオンがチラコイドルーメン(内腔)に蓄積し、それに伴い水がチラコイドルーメンに移動して、チラコイドの膨潤が起きる。しかし、このチラコイド膜の構造変化は可逆的で、光照射が停止されれば膜は収縮し元に戻る。一方、照射される光が光化学反応に必要な強度を超えると、光化学系 IおよびIIで活性酸素が生じ、光化学系 を構成するタンパク質や脂質が酸化的損傷を受け、その結果チラコイド膜の不可逆的なunstackingが起きる。 本研究では、ホウレンソウ葉緑体チラコイド膜の強光照射で起きる光化学系 IIの反応中心結合タンパク質D1の分解と、その過程を支える「反応の場」であるチラコイド膜の構造変化と動態との関係を明らかにすることを目的に、以下の実験を行った。 (1) 透過型電子顕微鏡(TEM)により、ホウレンソウ葉緑体チラコイド膜のunstackingを観察し、強光照射前後の膜間距離の変化を定量した。 (2) チラコイドの流動性の変化を、蛍光プローブ1,6-diphenyl-1,3,5 hexatriene の蛍光偏光解消測定から定量した。 以上の研究結果を,岡山大学光合成国際シンポジウムおよび植物生理学会シンポジウムで発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
光ストレス下でのチラコイド膜の動態を解析するために、前年に引き続き、各種手法を駆使した解析を行う。 (1) ホウレンソウ葉緑体チラコイド膜上のFtsHを含むタンパク質複合体の分布と移動については、免疫電子顕微鏡法を用いて解析する。 (2) チラコイドの流動性の変化に関しては、強光照射で起きる脂質過酸化と流動性変化の関係を中心に調べる。膜流動性変化をモニターするために、EPR spin trapping法を用いた研究を進める。 (3) 強光照射によるD1タンパク質分解速度を種々の条件で測定し、チラコイドのunstacking、膜の流動性変化、光化学系 II複合体とFtsHの分布の変化との関係を総合的に調べる。 これによって、強光によるD1タンパク質の損傷・分解と膜構造変化との関係解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品費(試薬とガラス器具),人件費(謝金)および学会出席旅費として使用する。
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