2012 Fiscal Year Research-status Report
植物のグルタミン酸受容体は気孔閉鎖シグナリングとして機能し得るか?
Project/Area Number |
24570056
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
吉田 理一郎 鹿児島大学, 農学部, 助教 (70301786)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / 遺伝子発現 / 気孔応答 |
Research Abstract |
今年度は、以下の研究を中心に行った。 1)グルタミン酸(Glu)およびグリシン(Gly)による病害抵抗性遺伝子PR1の発現誘導:シロイヌナズナおよびトマト(マイクロトム)を用い、GluおよびGlyによるPR1遺伝子の発現誘導を検討した。その結果、両植物種においてこれら二つのアミノ酸がPR1の発現を誘導することが確認された。なお、この発現誘導には10時間以上の時間を必要とした。 2)サリチル酸(SA)関連遺伝子変異体(sid2、npr1)およびelf3変異体を用いた解析:GluによるPR1の発現誘導がSAを介するか否かを確認するため、SA合成欠損遺伝子変異体sid2およびSA非感受性変異体npr1を用いた解析を行った。その結果、sid2およびnpr1変異体ではGluによるPR1遺伝子の発現が強く抑制された。また、これら二つの変異体では、Gluによる気孔閉鎖に対しても非感受性を示した。一方、elf3-1変異体もGluによる気孔閉鎖に非感受性を示した。しかし、PR1遺伝子の発現誘導は正常であった。 3)Glu誘導性遺伝子の探索:Gluシグナル伝達に関与するシグナル因子を探索するため、PCR法をベースとしたGeneFishingにより、Glu処理で短時間に発現誘導される遺伝子の検索を行った。その結果、5時間のGlu処理により発現誘導される遺伝子をいくつか同定した。 4)SRK2E/OST1シグナリングとの関連性:これまでにSRK2E/OST1のT-DNA挿入変異体がGluによる気孔閉鎖に非感受性を示すことを明らかにしている。今年度は、Landsberg electa ecotypeで得られたost1-2を用いて同様の解析を行った。その結果、ost1-2においてもGluによる気孔閉鎖が抑制されることが確認された。また、ost1-2ではSAによる気孔閉鎖に対しても非感受性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、GluおよびGlyが病害抵抗性遺伝子PR1の発現を誘導するか否かの確認を中心に行ない、予想通りの結果が得られた。また、突然変異体を用いた解析により、GluによるPR1遺伝子の発現誘導および気孔閉鎖がSA合成を必要とする可能性も示唆され、これらアミノ酸のシグナル伝達を把握する上で重要な指針が得られたと判断している。 また、このシグナル伝達の性質を把握するため、Gluにより早期に発現が上昇する遺伝子の探索を行い、いくつかの興味深い結果も得られ始めている。更に、トマトを用いた解析も取り入れ、トマトでも同様にGluによるPR1遺伝子の発現誘導を確認することができたことは、今後、他の植物種でも応用可能であることの裏付けができたと考えている。 気孔閉鎖シグナリングに関してはost1-2変異体を用いた解析から、SRK2E/OST1が関与することをサポートする結果が得られた。しかし、GLR遺伝子に関わる機能解析がほとんど進行しておらず、次年度以降へ課題が残された。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られた成果より、GluによるPR1遺伝子の発現誘導にはSAの合成を必要とすることが強く示唆された。そこで、実際にGluおよびGly処理を行った植物体の内生SAレベルを定量したい。また、GluがSA合成の鍵酵素であるイソコリスミン酸合成酵素遺伝子(SID2/ICS1)あるいはその上流因子にどのように作用するかをEDS1、PAD4等の突然変異体を用いた遺伝子発現解析等により解析する。この遺伝子発現におけるGLRの関与を調査するため、GLR機能欠損変異体とSAとの関連性についても詳細な解析を行う。更に、Gluにより早期に発現が上昇する遺伝子の同定を進め、Gluシグナル伝達特性における基礎的情報を得る。 今回、SRK2E/OST1の機能欠損変異体(srk2e、ost1-2)が、GluおよびSAによる気孔閉鎖に対して非感受性を示す結果が得られた。SA非感受性変異体であるnpr1もGluによる気孔閉鎖に非感受性を示すこと、また、npr1はSAによる気孔閉鎖にも非感受性を示すことが報告されていることから、両遺伝子間に何らかの機能的な相互作用があるものと期待される。Gluによる気孔閉鎖は、ABAを介さないことがABA合成欠損変異体(aba2-1)およびABA非感受性変異体(abi1-1、abi2-1)を用いた解析により既に明らかにしており、SRK2E/OST1はABAとは独立の経路でSAシグナル伝達に寄与するものと推測している。そこで、SRK2E/OST1、NPR1についてこれらの物理的・機能的相互作用の有無も検討し、ABAシグナリングとのクロストークについても模索していきたい。 トマトを用いた解析では、GluおよびGlyが全身抵抗性を誘導し得る予備的な結果も得られており、PR1遺伝子の発現や気孔閉鎖等、更に詳細な検討を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、今年度に明らかにされたGluによるPR1遺伝子発現の詳細な解析、同定したGlu誘導性遺伝子の発現確認等を、リアルタイムPCR装置を購入して実施する。消耗品に関しては、遺伝子発現解析に必要なプライマー、酵素類、各種阻害剤が中心となる。また、国内学会にて一連の成果発表を行う予定であり、そのための旅費を計上している。
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Research Products
(1 results)